本丸編7 どうする氷雨!
「ウフフン。驚いたかしら? このパラソルとドレスは魔界の名工に作らせた最上級のわたくし専用の逸品! この完璧な二つを貫くことなど、誰も出来はしいのですわよ」
これまた自慢の縦ロールのブロンドヘアーを指でくるくるしながら優雅に話すお嬢。
だが攻撃こそ全て防がれたものの、氷雨もまだダメージを負ったわけではない。
両者は互いを睨み付け、膠着状態となる。
(なんてことなの……手裏剣も忍術もきかないだなんて…………)
「珍しく氷雨姫が迷っておるな」
「あぁ……」
「だけど攻撃を全部防がれちゃったらどうしたらいいの??」
「自分の愛用品に絶対の信頼を寄せている方が勝つわね。きっと」
愛姫子のその言葉にアシガルと美菓子は顔を合わせ、シンガンはニタリと笑った。
「分かってるじゃないか、愛姫子。そう、両者共に名工が作り上げし装備品! 表世界の名工・ガンテツの傑作を使いこなせるかがポイントだな」
(そうか、じいちゃんはいつもただの刀剣とかは作らない。双俊の剣は魔力を帯び、薔薇の弓杖は花弁をむしると矢に早変わりした! 月下美人の本当の性能、フルブーストは引き出している、きっと時雨にも何か特殊機能が備わっているはずだ! だよな、じいちゃん!!)
アシガルが女体を眺めつつもそんなことを考えていたその時。
モニター越しに戦いの行方を見守っていた中庭の有識者、中でも忍者刀・時雨とボディスーツ・月下美人を鍛え上げたガンテツに注目が集まっていた。
「ガンテツ殿! あの忍者刀にも秘められた力があるのですかな!?」
「氷雨さんを助けうる力があるのでしょうか?!」
ガンテツに詰め寄るように問うたのは興野流の棟梁・居島と妖精国女王・クイーンスフレであった。
ガンテツは眉間にシワを寄せ、腕組みしながら沈黙していたが、愛姫子と同じようなことを呟いた。
「氷雨様が誠にワシが作り出したモノを信じることが出来るならば、可能性は無限大! それに興野流もそういう流派ではなかったか? そして氷雨様もまたその献身さでは類を見ない活躍をしてきたと聞いたが……」
いつの間にか問い質した居島とクイーンスフレが逆に問い返されていた。
確かに興野流は忍術の基礎を教えるだけで、後は本人の器量と努力、発想力でどんな技も習得出来る。
現に氷雨も前戯も、そして雲月もまた多種多彩な技を覚えてきていたが、みんな同じ技は一つとしてなかった。
そして氷雨の献身も妖精国にてアシガルを庇う折に甚大なダメージを負ってはいたものの、奇跡的な回復を見せ、スフレとシンの恋愛成就に一役買った。
本丸に居合わす者、そしてモニター越しに見守る者全てが今、氷雨の可能性に光明を見出だし始めていたから不思議だ。
『そうだ、氷雨はいつも愚直に相手を想い、己の道は己自身で切り開いてきたんだ!』
「氷雨さん! じいちゃんの作った時雨を信じるんだ!」
「そ、そうだよ! あんなカサなんかに負けないで!」
「ヒサ姉、やっちゃえ!!」
迷いを振り払うかのようにパーティー一人ひとりを見渡した氷雨は、最後にシンガンを見た。
シンガンはまたもや口でニタリと笑うとこう言った。
「姫よ、ソナタは隠し名を持っていよう! それはこの世界で伝説とされるスズキ、サトウに次ぐ力を有する偉大なもの!」
パーティーはもちろんのこと、居合わす全員の視線が氷雨に注がれ、氷雨は仁王立ちで深呼吸すると、その豊満な胸に手を当て口ずさんだ。
「そう…………私は氷雨……タカハシ氷雨!」
しかしこの最大の見せ場にツッコミをくれたのは愛姫子と美菓子であった。
「えっ!? ヒサ姉ってタカハシさんなの!?」
「なにそれ! めちゃくちゃありきたりじゃん、それぇ!」
初めて知ったのかとシンガンは補足した。
「なんだお前ら知らないでこの世界で冒険しとったのか? お前達の世界で在り来たりな名前ほど、この世界ではより強い存在となるのだ! スズキとサトウ、そして隠し名であるタカハシを持つ氷雨を含め、お前達は最初から最強のパーティー! そこにアシガルの煩悩照射が加わればさらに無敵! ガハハハハハ」
驚愕の事実ではあったが、なるほどこの世界に来たばかりの時に感じた、内から溢れるような漲るパワーはそういうことだったのかと納得した二人は、三番目に多いとされる名字・タカハシを名乗る氷雨に最大限のエールを送る。
「スズキとサトウ、それにタカハシがいれば無双ですよ! 氷雨お姉様ぁ」
「違う違う! こういう時はチートって言うのよ! ヒサ姉、改めて言うわ、やっちゃえ!!」
そして氷雨がタカハシを名乗った瞬間にアシガルの胸元が輝き始めた。
「な、なんだ?! 心理石が光ってる……」
怒涛の展開は次回に続く。
つづく
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