家に来ない!?
「さて、何とか魔軍も一掃できたし、出発の前に私の家に寄って行きましょう! 愛姫子の破れた服も補修してあげるわ!」
(えっ? まだ俺はジックリみてないんすけど!)
「そうだね。そのままじゃお出掛けできないもんね! 氷雨お姉様のお家は近いんですか?」
ニッコリした氷雨は、
「えぇ近いわよ!」
「よかったぁ! 鍛冶屋で気に入った服とかなかったし、助かるよ! ヒサ姉!」
ちゃっかり氷雨の呼び方を固めた二人は最年長の氷雨に付き従って歩みを始める。
(ちょっと待てよ!? 氷雨さんの自宅だと!? それはそれで興味がある! うん、ある!!)
アシガルは鍛冶屋で他の服でも決められた日には、あの抜群のスタイルにマッチしていたそれぞれの装備品が台無しになるとの結論に至ると急いで三人を追いかけるのであった。
「あと、もう一回会ってもらいたい人もいるの」
氷雨は謎の言葉を残しつつ、無言で何事か考え思案する顔付きで黙り込んでしまった。
「ねぇ、この破れた制服を補修してもらったらいよいよ出発でしょ!? まずはどこへ向かうわけ?」
気が早い愛姫子は早速今後の段取りをアシガルに投げかけた。
「そうっすねぇ。とりあえずは俺が生まれ育った村に寄ってから……」
「へぇアシガルさんの故郷ですか! 近いのですか?」
「まぁ近いっちゃあ近いっすよ! 今日中には着ける距離っすよ」
「何かイベントがあんのね!?」
「う~ん……村長がパーティーを揃えたら一度戻ってこいって。ただそれしか言われてないんで何とも……」
わちゃわちゃ歩きながらも一応は冒険のシナリオを進めていると、三人に氷雨は言った。
「さぁ着いたわよ! 遠慮せず入ってね」
氷雨が言うお家とは厳重な塀に囲まれ、門番が立ち、天高く突き抜けるような豪奢な建物であった。
(えっ!? ここって……ん? どういうことだ?)
アシガルは知った風な豪華な建物を見上げながら思案していたが、
「おーい、置いてくぞぉ!」
「アシガルさん早くぅ!」
と愛姫子と美菓子に促され、そそくさと内部へと入って行く。
「スッゴいお屋敷! ヒサ姉ってもしかしてお金持ち!?」
「ねぇ! でも何だか見たことがある感じなんだよね……」
(そうだよ! なんで気付かないんすか!)
氷雨は長く広い廊下をどんどん進んでいくと、とある一室に三人を向かえ、
「じゃあ愛姫子は上着を脱いでこれでも着ててね。後で呼びに来るから、しばらくここで寛いでいてちょうだい!」
緩い軟禁状態にも関わらず天然娘らはまだ気付いてはいなかった。
(もしかして!? いやいやこれはもう確定でしょ! すっげぇ丁寧な言葉遣いだったし!)
アシガルはキョロキョロしながらも、いやしかし、だがしかしと無駄な労力を使いつつも、
「ねぇ! 行進中はあたしが先頭ね!」
「えっ!? でもそれは勇者であるアシガルさんなんじゃないの?」
「いやいや、俺は最後尾で背後から襲ってくる敵を!」
と、如才なく答えていくのであった。
(おれの特等席は誰にも譲らない!!)
つづく