魔技場編9 浪人王子アッパレ×魔剣聖キッシュ
「なんとか上手くいったんじゃないか!?」
「ウム。今までのアッパレとは別人じゃ!」
「このバカ者が、どれだけ手を焼かせれば気が済むのか」
意識を取り戻したかに見えたアッパレはキリリとした眉に、瞳にはメラメラと活力が漲っていた。
「アシガル、迷惑をかけた。ようやく昔の剣筋を思い出した!」
別にオルドランが教えた剣術が悪かったのではない、その教えに忠実になるがあまり、本来の自分の持ち味を生かせていなかっただけなのだとアシガルと心眼の腕輪は思った。
「では早速戦いにケリをつけ、ワシらが幽閉されとる動力炉に急いで来いよ、アッパレ!」
言いたいことだけ言って肆方神・ヤラオは煙のように消えて行った。
「ではこちらも急ぐとするか、アシガルよ」
「でも最強の愛姫子ちゃんと美菓子ちゃんがいるんだから大丈夫だろ? それにオルドランさんもいるんだぜ!?」
アシガルはアッパレを無事解放したことで安心しきっていたが、心眼の腕輪から言わせればむしろ逆であった。
「このアホが! 我ら司令塔がいないだろうが。それに向こうには五明もいるのだぞ。ヤツならズル賢いことでも思いつきそうではないか。例えばアッパレを真っ先に排除するとか」
アシガルはドキッとすると急に慌て始めた。
そう、アッパレの深層心理内であるが故に本体のアッパレが死んでしまえばそれっきりだったのだと思い出した。
「ジタバタするな! さぁ戻るぞ! 嫌な予感しかしない」
三人は心眼の腕輪に身を委ね、外界へと戻っていく。
そして心眼の腕輪の言う嫌な予感は的中することとなるのだが。
愛姫子らはアッパレを守りつつの戦いで、いつもの力を発揮出来ないでいた。むしろ半減していたと言っても過言ではない。
「ちょっとぉ! 邪魔よラヴチューン!」
「そっちこそ! たった今あたしがヤツを倒すところだったんだかんねっ」
「落ち着いて! これでは敵の思うツボよ!」
愛姫子とラヴチューンを筆頭に乱戦となり、頭に血が上った二人はいがみ合いながら敵と戦うという器用な戦闘を続けていた。
リーダー格のオルドランも目の前に立つ須頃と一進一退の攻防を繰り広げていたし、前戯とロキスはアッパレを警護することに必死であった。
「ちょっとみんなぁ! 団結だよぉ」
美菓子の弱く細い声も混戦に欠き消されていた。
そんな中、オモチは冷静に戦局を見極めつつも、魔界の頭脳と謳われた五明の動きに注目していた。
「これこそ千載一遇のチャンスですね。勇者アシガルさえ亡き者とすればあの怪しい力も使えなくなる! そうなれば一気に王手ですね」
そう一人思案しつつも暗殺の一撃を繰り出そうとしたその時だ、背後にいつの間にかオモチが立ち、小さな声で五明を脅迫した。
「動くな……動けば遠慮なく殺す……」
「ハハハ、下手な脅しですねぇ! そんなことをすればあなたが先に地獄ですよ。後ろをご覧なさい」
オモチは五明に気を配りつつも背後を振り見た。
すると少しも気配を感じさせずオモチの後ろを取った直江が構えていた。
(!? いつの間に? ウチに気配すら感じさせないなんて……)
「死ね」
背中に魔弾を受けたオモチは、それでもその反動で五明と直江のテリトリーから脱出すると、片膝ついたアッパレの元へと急降下していった。
「ダメ!! アッパレを誰か守ってぇぇぇ」
未だかつて聞いたことのないオモチの叫び声に、全員が視線を向けたが、五明の暗殺の一撃はアッパレに向けて発射された後であった。
(ダメだっ、やられる……)
オモチは思わず目を瞑ってしまったが、その一撃はアッパレの命を奪うことは出来なかった。
「チッ! 邪魔な使い魔め」
舌打ちした五明は直江を見ると、これまでとは口調を変えて一言呟いた。
「失敗です。いかが致しますか? 黄泉……あ、いえ、直江様」
「……もうよい。そろそろバカなヴォルクスも勘付く頃合いか……本体の完成は後いかほどであるか」
「はっ! もはや臨界に達しております」
「ではヴォルクスとジクイル先に始末でもつけるとするか。ここは貴様に任せる」
これまでと上下関係が入れ替わったかのような二人の会話を聞く者は誰一人としておらず、アッパレを守るために五明の攻撃を受けた使い魔ピューロを立ち尽くして見るしかない愛姫子らなのであった。
「くっ……あたしらがフォーメーションを考えず戦っていたばっかりに……」
意識なきアッパレの傍らに血だらけとなったピューロは力なくよこたわり、弱々しくも己の主人を見上げるのであった。
「ア、アッパレ様、しっかりするっすよ……」
つづく
愛姫子の名前の由来は、家政婦は見たの主人公からきています(^^)
 




