対決! 剣魔隊長アッパレ
「来たっ」
北の空を鋭い目付きで見上げていた氷雨はそう言って戦闘態勢をとった。
愛姫子は仁王立ちで腕組みしていたし、戦闘回避を諦めた美菓子も立ち上がると杖をギュッと握る。
そして我等がアシガルはまだまだそんな三人のお尻をなめ回すように順番に眺めていた。
マンテス城下、酒場上空に雲霞の如く現れた剣魔隊長アッパレ率いる魔軍の一隊はゆっくりと下降し、地に足をつけた。
「お前らが新たに誕生した勇者一行だな?」
魔界の鎧に身を包んだアッパレは余裕綽々に見下して言った。
「なんだぁガキ共ばっかじゃん! 楽勝楽勝!」
ピューロは小馬鹿にして後頭部で腕を組んで嘲笑った。
「なになに? なんだか強そうじゃない! ボスキャラ的な?」
ワクワクする愛姫子に美菓子は言った。
「私はあの子分ぽい悪魔担当するね……」
美菓子は大した戦闘力がなさそうなピューロを受け持つつもりか。
(えっ? 戦うの? いきなり?!)
「ほう、俺と戦おうてか? よかろう、全力を持って屠ってくれる!」
アッパレはその強大な魔力を解放し戦闘態勢となる。
だがそんなことで怯む愛姫子ではなかった。
「作戦よ、まずはあたしが斬り込むからいいところで狙撃してよね!」
「えぇ!? あの弱そうなのがよかったのにぃ……」
ザックリした作戦を立てた二人もまた戦闘態勢となる。
(んで、俺は?)
「私は少し様子を見るわ。二人の力を見極めたいの」
(だから俺は?)
シャキンと双俊の剣を抜いた愛姫子は予想を遥かに上回るスピードでアッパレ目掛けて攻撃を仕掛けた。
(速い!!)
キィィーンと鋭い音を立てて互いの剣は火花を散らした。
初撃を防がれたことに舌打ちした愛姫子は脇に跳んで避けると、
「今よ美菓子ぉ!!」
と叫んだ。
一応準備をしていた美菓子は薔薇の弓杖で狙いを定めると、
「えぃ!!」
という発声と同時に薔薇の矢を放った。
これもアッパレにとっては予想に反した鋭い一撃であった。
だが慌てないアッパレは、その矢の軌道を見極めると剛剣で払った。
受けきったアッパレは何事か言おうとしが、愛姫子と美菓子の波状攻撃は止まらなかった。
「なんだ? 二人ともなかなかやるじゃん!」
呑気に言ったのはアシガルだ。
「やるなんてものじゃないわ! おそらく相手は魔軍幹部! なのに対等に闘っている……」
止まぬ二人の鋭くも押し寄せる波のような攻撃に防戦一方となっていたアッパレは我慢しきれず大声を張り上げていた。
「ちょっと待てーい!! お前らは召喚されたばかりなのではないのかっ」
息ひとつ切らさない愛姫子と美菓子は攻撃の手を止めると、
「ねぇ! あたしの剣やっぱ凄いわぁ! 振っても突いても軽くてちっとも疲れない!」
「私の弓も見てよ! あれだけ使ったのに全然減らないんだよ? 花弁の矢!」
ボスキャラを差し置いて自分達の武器を自画自賛する二人に言い知れぬ恐怖を覚えはじめたのはアッパレだ。
(な、なんなんだコイツら……)
ヒヤリと背中を冷たい汗が流れる。
「アシガル、私達もザコではないですが、ライダーゴブリンくらいは何とか倒しましょう!」
(えっ? えぇ~……無理っすよぉ……)
奇襲したつもりだった魔軍はいつしか取り囲まれピンチに陥っていた。
(な、なんなんだぁコイツら……)
魔軍のルーキー、剣魔隊長アッパレはシリアスな顔を歪めて鼻から鼻水を垂れ流していくのであった。
(愛姫子ちゃん! 動く度にあの段だらスカートがなびいて……)
まだ言うかアシガルよ。
つづく