魔軍進行!
新たな仲間を迎え、アシガルパーティーが四人になる少し前に遡る。
険しい山々に囲まれた魔王城のある一室ではこんな会話がなされていた。
「お呼びで御座るか、魔参謀・ビジョン様」
巨大な水晶の前に結跏趺坐する魔界の長老にして魔軍の参謀を勤めているビジョンに呼び出されたのは、魔軍七部隊長が一人、剣魔隊長・アッパレだ。
絶大な力を誇る魔軍にあって新進気鋭の若きルーキーである。
「おう、わざわざすまぬなアッパレ。そなたに折り入って相談があってな」
剣魔隊長アッパレは用意されていた椅子に腰掛けると生真面目にビジョンと向き合った。
「実は大国マンテスにて我等が魔軍にとって厄介な存在となり得る者達が召喚された。奴等が成長し魔軍の脅威となる前にその芽を摘んでもらいたい」
「はっ。それほどまでの強大な力を秘めている者なのですか?」
「左様。そしてそれらを召喚せし勇者もまた……。おぬしの直属の上司たる将軍には事前に伝えておる」
魔軍の中でも一、二位を誇る剣の腕の持ち主、剣魔隊長アッパレは、水晶からアシガル、愛姫子、美菓子、そして氷雨の容姿を確認し目に焼き付けるとビシッと立ち上がり喝破した。
「剣魔隊長アッパレ、魔参謀様からの直々の指令をお受けしました! 早速マンテスに奇襲をかけ、その原石をそのままに打ち砕いて参ります!」
「頼んだぞ、剣魔隊長アッパレ!」
「承知! 使い魔、数匹、我と共に来い!」
その後も魔参謀ビジョンは水晶からアシガルパーティーを観察し続けるのであった。
(太古の昔より伝承されし英雄。スズキ、サトウ……そして先の戦いで我等魔軍を圧倒せし勇者の末裔か。頼んだぞアッパレ……)
空を進軍する魔軍の一隊は恐ろしい速度でマンテスを目指していた。
「アッパレ様ほどの隊長を使いに出すなんてあのボケ老人め!」
「言葉が過ぎるぞピューロ! あの方は魔軍の参謀!」
窘められたアッパレ直属の使い魔ピューロは口を尖らせながらも、
「わかってますよぉ。魔軍最強の力を存分に見せ付けてやりましょう!」
アッパレとピューロ、そして数匹のライダーゴブリンは飛龍に股がってスピードをグングンあげながらマンテス国はアシガルパーティー目指して行く。
「どしたんすか? 氷雨さん」
「何か来るわ……それも途轍もない強い力を持った何かが……」
氷雨が見上げる北の空は真っ黒な雲で覆われていたが、何も知らないアシガルはのんびりとした口調で言った。
「そうなんすか? 敵かな?」
「どうもこうもないわよ! 敵なら返り討ちにするまでよ」
張り切る愛姫子に不安な顔を浮かべる美菓子は、
「えぇ~!? まだ私達実戦なんて経験してないのにぃ」
と、ヘナヘナと崩れ落ちた。
意気込む愛姫子。
沈む美菓子。
見極めようとする氷雨。
そしてそんな三者三様をあらゆる角度から目に焼き付けるが如く熱い視線を送り続けるアシガルは、
(う~ん。三人もいると次々と目移りしちまう! ウヘヘヘヘ~)
と、だらしない顔をするのであった。
つづく