主命その四、刻の大賢者シンガンの場合
見事に魔軍を封印せしめたカラケルらは、竜王の神器を元の場所に納めるために、改めて竜人国を訪れた。
シンガンは許可を得て竜王の執務室をくまなく探索し、魔界の瘴気が微かに残っていることに気付いた。
(これは魔軍内の誰もが持ってはいない性質の魔力だが……)
不審点を見付けると、オモチと力を出し合い竜王の最後の場を覗く秘術を唱えた。
ある晩、咳き込む竜王は己の命が幾何もない事を悟り、真羅八龍神と通信するしている場面であった。
その会話の中で竜王・炎舞の肌身離さず持っている物が、実は天界とコンタクトすることが出来る唯一のアイテムなのだと知ることとなる。
こちら側から天界と接点を設ける唯一の行為を知った時、シンガンは己らがなしてきたことを後悔することとなった。
それは、その数日後、竜王は龍神殿に忍び込んでいた刺客に命を奪われ、隠しおいた秘宝を腹心であったバルザークに託した事を知ったからだ。
(なんだと!? バルザークとは確か魔軍に属していた者ではなかった!? では秘宝もろとも我らは封印したというのか……)
そして暗殺者の顔もしっかりと目に焼き付けていた。
(誰だコイツは!?)
その暗殺者は捨て台詞を吐くと煙のように消えた。
「フフフ。お師匠様のやり方ではいつまで経っても世界を牛耳ることなど出来ないですからね。お師匠様の発明やら何から何まで膨大な情報が詰め込まれたこのファイルと竜王の秘宝を手土産に魔竜王・ヴォルクス様の配下となる算段でしたが……まぁいいでしょう。バカな魔軍は煩悩勇者とかいうふざけた連中に封印されたわけですしね。これからはゆっくりと侵略を進めるだけのこと」
(魔竜王・ヴォルクスだと? そうか! ジクイルが言っていたのはこのことだったのか)
シンガンはここに仮説を立ててみた。
そのヴォルクスという者はジクイルに天界へ通じる手段が表世界にあると教え、それを確かめさせるためにジクイルを体よく使っていたのではないか。
 
そして何らかの形で秘宝なくして天界へは通じないと知ったヴォルクスは必ずまた魔軍の復活を果たすに違いない。
竜王の秘宝はバルザーク共々封印されているのだから。
しかし魔族と違って自分達の寿命は短い。
そう悟ったシンガンは、狼王とオモチにこの仮説を伝え、いつの時代にか必ず魔軍が復活する。
その時こそ、新たな勇者や新たに召還されるであろう伝説のスズキとサトウと共に魔界に巣食う、真の敵ヴォルクスを倒すために協力してほしいと頼み、それぞれ重要な箇所にカラケルの伝聞とワープの井戸を残し、最後に辿り着いたのが現ニシナカ村がある場所であった。
カラケルは次代の勇者を育べく村を造り、子孫を残すこととし、シンガンはその時が来るまでに村に勇者の伝聞を残して、西の洞窟にて己を腕輪へと変化させ、数百年の刻を越える長く険しい旅に出たのだと言う。
336年後、シンガンを長い眠りから目覚めさせたのは、手筈通り行動を起こしたアシガルの祖父であるガンテツであった。
いよいよ本懐を遂げる時がきたのだと、ガンテツにそれとなく準備を始めさせ、自身は342年前の後悔とカラケルらとの約束を果たすべく、勇者アシガルの腕輪となったのだった。
そう長々と語ったシンガン。
その一生を世界を救うためだけに注いで来ていたのだ。
「間違いない、ヴォルクスは今度こそ間違いなく表世界はおろか天界まで手中に治めるつもりだ。そのために数百年も虎視眈々と牙を研いで来ていたのだ! いいかアシガル、お前達の成すべき事、それはヴォルクスから何が何でもこの世界を守ることになる!」
ついに明かされた真相。
アシガルらはそんなにも遠大にして深い因縁があったのかと驚愕するばかりであったが、自分達の本当の役割りを知り、逆にワクワクドキドキしているのは間違いなかった。
「よぉし、いっちょやったろうじゃん!!」
「えぇ! そのヴォルクスとかってラスボスは必ずあたしがぶっちめてやるわよ」
「そうだね! みんなで協力すればきっと倒せるよね!」
「そんな曰くがあったなんて氷雨ビックリ」
一致団結しゆくアシガルパーティーなのであった。
つづく
 
 
いよいよ真相に迫ります!
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