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主命その三、老師・居島の場合

「じゃがしかし、ワシがコイツだと見込んだ者に奥義を授けぬ訳ではないが……」


先ほどまで基礎的な型を学ぶだけが興野流と言っていたにも関わらず、いきなり奥義と聞いて一同は瞬時に老師に熱視線を送った。


老師は言い訳がましくも、棟梁となるにはその奥義を継承する習わしが昔からあるのだと取り繕った。

しかし修行に訪れていた雲月を長々と拘束して跡継ぎに決めているのだと再三再四、前戯は言っていたが。



「それは前戯の早とちりじゃがな」


老師・居島は前戯の話を一蹴すると、改まった口調で全員を見渡した。


これまで才能溢れる若者を幾度となく育ててきた居島ではあるが、奥義を授けたいと思ったことは一度もなかったのだという。


雲月にしても愛孫である前戯にしてもそうであった。

間違いなく才能はあったが、決め手がない雲月とまだ若すぎる前戯。


しかし数年振りに再会し、見目麗しく育った氷雨を見て居島は直感したのだという。



「氷雨、ソナタにならば奥義を授けようと思う。そして見事体得した暁にはこの国にある聖なる石を授けよう」


それは興野流の正当なる後継者と認めた証であった。

居島に促され、己のステータスを披露した氷雨は、念願の目録とは少し違ったものの、いよいよ興野流を極めることが出来るのだと胸が高鳴っていた。



外から野鳥のさえずりがチョロチョロと聞こえ、それ以外はまったくといっていいほどの静寂(せいじゃく)が漂っていた。


居島の話が終わると、氷雨の高揚は最高潮に達し、今すぐにでもと膝を立てたその時だった。



「それぞれ話したいことは終わったようだな」


これまで肝心な時にはいつも黙りを決め込んでいた心眼の腕輪は、心弾ませる氷雨を座らせるとまた沈黙した。

その沈黙を破るようにアシガルは質した。



「お、おい! 今度こそお前が知ってることを全部喋るんだろうな」

「まぁ待て」


アシガルのはやる気持ちを静めた腕輪は、何者かがこの一室に向かって来ているのを感じていた。

それは居島が魔軍の動向を探るべく放っていた忍びの者であり、なにがしかの変化があり報告に舞い戻って来たのである。




「報告致します!」


偵察忍者の報告は以下のような内容であった。



魔城上空に巨大な浮遊大陸が出現したこと。


魔界の帝王と噂される魔竜王・ヴォルクス一党と一戦交えるべく、魔軍とマンテス四国同盟は結託したこと。


その連合を(おび)き出すかのように洪大(こうだい)なる螺旋(らせん)階段が浮遊大陸より大地へ架かったこと。


そして連合は一斉に決起しそうな勢いであるという。




偵察忍者の報告が終わると一座は騒然となった。


なんといっても主役である自分達を差し置いて面白そうな戦いがはじまりそうなことに立腹したのは愛姫子であり、急ぎ援軍に駆け付けなければとヤキモキしたのは美菓子であった。



「急がねばならぬなぁ。ではこれまでの話を集約し、我が真意を告げる時が来たようだな」


心眼の腕輪はそう言うと、342年前の先代勇者カラケルとの冒険から物語っていく。




何らかの目的により魔界から表世界へと侵攻を開始した魔軍を打倒すべく立ち上がった煩悩勇者カラケルと、後に刻の大賢者と(うた)われることになるシンガンは、伝説のスズキとサトウと共に、獣の国で狼王(フェンリル)を仲間にし、妖精の国で妖精巫女(エルフプリーステス)のオモチを仲間にした。



そして竜人国へと渡った時には内乱の最中ではあったが、まだ現世に残っていた竜王・炎舞の御霊(みたま)の協力を得て、神器を授かった。


聖なる力を集めたカラケルパーティーは無双のまま魔城へと突入し、歴戦の強者(つわもの)達を倒して、ついに魔王ジクイルと対峙した。


魔界の実力者たるジクイルは相当な手練れであったが、最後には伝説のスズキに倒され、カラケルらは見事魔軍を封印することに成功したのだ。



しかしシンガンはジクイルが最後に語った話に強烈な違和感を覚えていた。



「くっ……ヴォルクスの戯れ言は誠であったが……もしや余は奴の足掛かりの道具にされたのか…………」



足掛かりの道具。

そして戯れ言。

その言葉が頭の奥隅にこびりついて離れなかったシンガンは、世界に平和に多大に貢献したスズキとサトウを、カラケルと共に元の世界に無事送り届けた後、その真相を突き止める旅にでたのだという。



頭脳明晰にして若さも伴っていたシンガンは、一つずつ真相にせまっていくのであった。



つづく

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