愛の言葉
突然の愛姫子の詰問にタジタジだったクイーンスフレであったが、氷雨はむしろ直球勝負で良かったのだと、安らかな微笑みでクイーンスフレを落ち着かせるようにゆっくりと頷いてみせた。
「そうですよぉ! あのシンさんを幸せにしてあげられるのはスフレさんだけなんですよっ!」
語気を荒げて自慢のバストを左右から押し出すようにガッツポーズをした美菓子。
なんのこっちゃとはてなマークを量産する魔軍幹部らであったが、愛姫子と美菓子と氷雨の謎の目配せに合わせるように、不器用で不自然な同調を試みた。
「そ、そうだよ! お似合いお似合い! ねぇ、姉さん!」
「えっ!? あ……そうね! こんなにお似合いな二人も珍しいですよ! ってマタタキちゃんも言っていたようないなかったような……ねぇ、マタタキちゃん!」
「えっ?! ア、アタイ!? そ、そう! そうなんよ! もうこれは決定だね……うん! 決定!!」
「スフレの心はどうなのかしら?」
皆の意見を統合して、総合的に一言にまとめあげた氷雨はクイーンスフレの顔を覗いた。
「わ、私は……お慕いしていますわ。ですが戦士たるシンがどう思っているか……」
「もーーー!! じれったいわねっ! おーい、アシガルゥ! 聞こえるー? そこにシンさん居るんでしょ!? スフレの事をどう思ってるのか答えさせてちょうだい!!」
突然の女湯からの掛け合いに、それ来たとばかりにアシガルはシンを肘でクイクイ押した。
「なっ……今この場で言えと申すか!? グヌヌ……」
「だって決意したなら後は告白に決まってんじゃないか」
「お主の魂を込めた言葉で告げてみせろ! ワシも続いてみせる!!」
「そうだぞ! シン! 侠気を見せてみろ!」
「シンさんファイトっすよ!!」
みんなからの応援で即断即決、シンは立ち上がると筋骨粒々の体躯をさらけ出して大音響で言ってのけた。
「スフレ! 昔からソナタを愛していた! 今もその想いに嘘、偽りはないっ! そしてこれからもそれは変わらぬ!! 俺と夫婦になってくれぃ!!」
ハッキリした語調とキッパリと言いきったシンの言葉に、のぼせ始めていた男女は清々しさを感じた。
そして混じりっけのない真心からの言葉に返すようにクイーンスフレも立ち上がり、膨張しきったマシュマロをたわわと揺らせて言った。
「私も昔からお慕いしていました! 私の方こそお願いします、どうかあなたの妻として下さい。愛しています、シン……」
「やったぁ! 恋愛成就! その瞬間に立ち会えるなんてなんてラッキーなの!? 嬉しい!!」
今まで存在を消していたかのようなミューロが一番始めに喜びを叫んだことを皮切りに一斉に一同は結ばれた二人に笑顔と安堵の声をかけた。
(よかったぁ~これで肩の荷がおりたぁ……)
安心しきったアシガルであったが、プロポーズ大作戦はまだまだ終わらない。
「よぉし、ならばワシも!!」
ドワーフの筋肉だるまが成功の後、成功と知るやいなや卒倒し沈没した後、今度は筋骨粒々の犀の化身ゴウワンが立ち上がり大音響で胸の内をさらけ出し始めた。
「マタタキ殿、聞こえるかっ! シンの告白に吊られているようで恐縮だが、ワシも同じようにソナタのことが好きだ! 出来ればワシの恋人となってくれぬかっ! 男子一生の願い、ヨロシク頼むっ!!」
何故か塀に向かって手を差しのべたゴウワン。
「イヤァ~ン! やっぱりそうじゃないかと思っていなのよぉ」
「驚き!ってほどでもないわよね」
「えぇ。周知の事実。問題はマタタキちゃんの気持ちね」
インラバが盛り上がってミューロとキャピキャピし、ラヴチューンとマキは知っていますよ然とし、
「マタタキはどうなの?」
「告白合戦! マタタキ! ハッキリしなきゃ!」
「どうなんですか!? マタタキさん!」
氷雨、愛姫子、美菓子に詰め寄られたマタタキは今にでも飛び立ちそうな混乱を見せていたが、確かにゴウワンのことを心強くも思っていたし、背中を預けられる数少ない頼れる存在であるとも思っていた。
だがゴウワンの愛の告白により、それは戦友としてではなく、男女としての仄かな恋であると気付いた。
「アタ、アタイでよければ……よ、よろしくお願いします」
「ほ、本当か…………」
ズボーンと本日二体目の巨体が沈没してゆくのであった。
今、ここに二組のカップルが生まれ、いつまでも歓喜に沸き立つ妖精の郷、名物の八木ヶ鼻温泉なのであった。
「重いなぁ……」
「こら、ゴウワン! 早く目を覚まさんかっ! 貴様のような巨体を運べるわけなかろう!」
その後、卒倒したシンとゴウワンを搬送するのに苦労したアシガルとアッパレとピューロの苦労を他の誰も知らない。
つづく




