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採用試験

作者: 森三治郎

募集要項

※年齢 60歳以上

※採用試験期間 2泊3日 日当 8000円出ます

※住所、電話番号、担当者名

〇〇

○○〇




私、田中のところへ、直江さんが怪しげなチラシを持ってきた。

「日当が8000円、出るんだぜ。3日で24000円だ。どうだい」

「3日も試験を受けるのか。そうとう厳重な会社なのかな」

「さあ、『山陽産業所轄』とあるが、公的資金投入ありと書いてあるから、国か県の関連機関じゃないかな」

「俺、受けてみるよ」

「そう、じゃ一緒に行こう。2名分申し込むよ」



一日目

私の車で、国道37号線、通称白河羽鳥線で、福島県天栄(てんえい)村の羽鳥(はとり)湖を

目指した。

集合時間10時少し前に、羽鳥湖から山側に入った健康ランドみたいな施設に着いた。

すでに10台ぐらいの車が駐車してあり、建物の前のスペースに数人が(たむろ)している。

その中に、意外にも宮間(みやま)さんが居た。


10時になり施設の中で説明が始まると、遅れて川辺(かわべ)さんと小鹿(こじか)さんが入って来た。

応募者は全部で10名。

私と直江さんと応募の紅一点らしい宮間さんと川辺さん、小鹿さんは共にN町のシルバー人材センターの斡旋で、キャンプ場で一緒に働いたことがある。2人ペアでシフトは曜日ごとだったが、川辺さん、小鹿さんは私らのあいだでは、ポンコツ老害と呼んでいた。人材センターの信用が落ちてしまうと。

宮間さんにいたっては、人材センターに「あの人と一緒に、仕事なんて出来ない」と、訴えていたほどだ。


事業者から日程の説明があった。

一日目→論文作成、テーマは自分のしてきた代表的仕事の考察。

6時の夕食の時提出。他は、散策、DVD鑑賞、読書、球技など自由。飲酒もOK。


二日目→三日目→サバイバルテスト。地図とコンパスを持ち、ここから10キロ先の

 指定の場所でキャンプ。時計、ケイタイ、スマホ、は禁止。

 帰路は指定のアスレチック遊具を通過すること。と、あった。


「ポンコツ老害が一緒だよ」

キャンプ場の仕事は二人一組で、軽い負担、重い負担があり軽い方が早く終わる。

彼らは、重い負担の人を手伝わず次の自分の分の仕事にかかる。仕事もかなり雑、

仕事に対する敬意も無い。雇い主に対する敬意も希薄。

キャンプ場での仕事は、サービス業と思っていないみたいで『俺に話しかけんな』

みたいなオ―ラを発していた。そんな奴らが応募とは「募集はN町の一部だけみた

いだね」ということなのだろうか。

「あ~あ、女は私だけ。おまけに、川辺さんと小鹿さんと一緒。私、棄権しようかな」

「そんな事言わないで、せっかく来たんだから。俺たち、応援すっからさ。なあ」

「うん、三人で協力しよう」

「ありがと。頼もしいわ~」


論文を書き上げると、後は何もする事がない。

あてがわれた個室があり、施設の利用も自由。リゾートに来た気分だ。さっそく、

酒盛りで舞い上がっているグループもあった。



二日目

「これって、何の意味があるのかな」

「さあ、体力検査かな、それとも忍耐力の検査かな」

我々は腹と背にはがき大の番号の付いたジャージに着替え、キャンプ用品一式を背に荒れ

た山道を歩いた。目指すは10キロ先のキャンプ場。

先に歩いて行くのは、4人のグループ。最初の会合の時、各々が挨拶(あいさつ)した

が名前なんか忘れた。少し遅れて、川辺、小鹿ともう1人。最後が私らの3人。

紅葉には少し早いが、爽やかな秋晴れだ。「トレッキングツアーだと思って、楽しん

で行こう。景色を()でながらね」と言うも、そんなことは最初だけで後は昼食を

挟んでダラダラと休み休み歩いた。


3時ごろと思う、時計が無いので正確な時間は分からない。キャンプ場に着いた。

2グループは先着していて、それぞれ適当な間隔を空け陣どっている。

意外にも、それ以外に先客が居た。美しい女の人で30歳半ばだろうか。

それが、一人、単独らしい。

何か、あやしい。


テントの設営も終わった頃は、夕暮れ時となっていた。焚き火用の鉄板シート、

フックでの夕食作り、食後のコーヒーの頃にはとっぷりと陽は暮れた。何時かは

分からない。向こうでは、団体となって盛り上がっている。ドッと笑い声が聞こ

えた。その内、その団体がイスを持って、先の女性の所に集まり焚き火を囲んで

ワイワイと騒ぎ出した。

と、「()めて下さい。スケベ~」と叫び声がしたと思ったら、彼女がダダ

ダッと宮間さんの所へ駈け込んで来た。

当然、奴らは団体で追いかけて来た。

何なのだろう。この時代がかったスィチュエーションは。

「止めなさい。大人気(おとなげ)ない」

「女を出せ」

ますます、時代劇映画だ。

「皆さん、待って下さい。これは、採用試験なんですよ。何のために背番号が付い

ているのですか。ほら、見てみなさい。そこらここらに監視カメラが、あるで

しょうに。これは罠です。ハニートラップだ。下手に引っかかったら、途中退場も

あり得るかもしれませんよ」

団体は、いっぺんで酔いが醒めたような顔をした。

「何だい、いい人ぶって。ワシらはただ一緒に酒を飲もうとしただけだ」

「私は、酌婦(しゃくふ)じゃありません!」

酌婦とは、ずいぶんと時代がかった言葉が出て来た。彼女は35,6歳と思ったが、

もっと上かもしれない。



三日目

起きて朝食、しばらくして後片付、ゴミ片付け、そして帰路。

女の人は、()(しろ) ()()と名乗った。

「小学生の頃、よく前か後ろか分かんない名前とからかわれたわ。大人になった

ら、すぐ名前を憶えてもらえて便利だったわ」

彼女は私たちと一緒に歩いた。

道程(みちのり)の半分位だったろうか、宇城さんが(うずくま)った。

「足が痛い。そこの石を踏んだらぐらついて滑って足を(くじ)いたみたい。

歩けない」3人は顔を見合わせ、相談した。荷物を振り分け、交代でおぶって行

こうとなった。まず、私が背負う事になった。


背中に『ふにゅう』という感触があり、布地を介した柔らかい肉感があり、吐息が

耳にかかり、サラサラと髪が首筋にかかる。思わず下半身が突っ張り、歩きにくい。

「下半身は正直ね。むっつりさん」

宮間さんに言わせると、私がむっつりスケベで直江さんが口先スケベだそうだ。

宮間さん、()いてるのかな。

重い。思ったより重い。最初のスケベ心はどこへやら、これはそうとうの重労働だ。

しばらくして遅れがちになると、直江さんが「代わろう」と言ってきた。

やけにウキウキした感じだ。口先スケベが、セクハラ発言でケンカにならなければ

いいが。


先行する宮間さんに追いつくと

「50女のやわ肉の感触はどうだった。むっつりさん」

「むっつりさんて・・・ええっ、50女?」

「やだ、あの(ひと)をいくつと思ったの」

「35歳か36歳ぐらい」

「あのね~女はダボっとした服を着れば体形は隠せるし、いろいろお肌の手入れを

しているし、化粧をすればシミは隠せるし多少の(しわ)も隠せる。

だけど、手は()き出しでしょう。そして酷使される。歳とともに油気が無く

なり、よりが出て細かい模様が浮いて歳相応の状態になるの。女の歳は、手を見れ

ば判る」

「へえ~勉強になります」


挿絵(By みてみん)


キャンプ場です



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