7.スラノバ国へ
いよいよスラノバ国です。
ここで玲子は懐かしい再会をします。
その相手は、玲子の将来に大きな影響を与える人でした。
7.スラノバ国へ
スラノバ国の飛行場は、内戦で破壊されてしまい、使用不能となっている。
滑走路は穴だらけだし、管制塔は爆破されて跡形もない。飛行機も全て破壊されており、新しい機種の購入見込みもたっていない。
したがって、ウィーンからスラノバ国に行くには、オーストリア航空でスラノバ国の隣国であるE国まで行くことになる。
玲子たちは、六時間のフライトでE国に着いた。
空港に降り立った玲子たちは、まず、気温と湿度の違いに驚いた。ここはアフリカである。違って当然だった。
なぜならば、十一月のウィーンの平均気温は5.5度Cだが、E国のそれは20度Cだった。スラノバ国もE国の気温と変わらない。しかも十一月の平均降水量が3mmしかなく、ウィーンの降水量50mmの一割にも満たない。
玲子たちは早速、喉の渇きを覚え、ペットボトルを大量に購入した。空港からスラノバ国までは、バスで五時間かかる。その間の飲み水を確保する必要があった。
バスに乗り込むと、乗客は十人ほどだった。無理もない。スラノバ国は現在、王国軍と革命軍とで内戦をしており、観光客はほとんどいない。
内戦といっても一日中戦っているわけではないが、小競り合いが絶え間ない。もちろん負傷者はでるし、死者も発生する。
革命軍は、北部に住むイルート族を中心に編成されており、人民の平等を旗印としている。
それに対して王国軍は、王国が三百年の歴史を築いており、国王の仁徳がいかに国民に幸せを与えてきたかを誇っている。
五時間の退屈なバスの旅が終わり、バスを降りると、そこは国境だった。
国境のゲートにはスラノバ国の国旗が掲げてある。スラノバ国の国旗は、砂漠を表す黄土色と森を表す緑色の二色が積み重なった下地に白い象牙が描かれていた。
「玲子姉さん。あの国旗に見覚えがある…」
マリアは玲子に寄り添い、思わず玲子の手を握った。マリアの手が震えている。マリアは見えない恐怖に怯えていた。
「大丈夫。進みましょう。私はいつもマリアのそばにいるわ」
玲子はマリアの手を握りしめ、ゲートへと進んだ。
入国審査を済ませると、出口には立派な黒塗りの車とスラノバ国王室の使者が待っていた。
「初めまして白井玲子さん。私は王室秘書のサイルです。スラノバ国でのあなた方の案内と護衛をいたします」
サイルは二十七歳の青年である。カール氏からE国へ送られた書類や写真で、あらかじめ玲子の顔は知っていたが、マリアの顔は知らなかった。
サイルはマリアを見て、ほんの一瞬、驚いた表情をみせた。
「こちらの方がマリアさんですね。お聞きしたとおり、可愛いですね!」
すかさずサイルがいったが、何故マリアの顔を見て驚いたのか、玲子には分からない。
(可愛いだけで驚きの表情をするはずがない。おそらくサイルさんは、マリアの顔をどこかで知っていたに違いないわ)
玲子はそう感じた。
サイルは丸いメガネをかけており、優しそうな表情をしている。痩せ型の体格であり、とても体力がありそうには見えない。
(この人に私たちの護衛が務まるのかしら?)
玲子は、サイルを見て不安に思った。
だがサイルは、玲子の不安に気付かない様子で車に荷物を詰め込み、玲子たちを乗せて出発した。
自動車の窓から眺めると、道の右側には森が、左側には砂漠が見えた。確かに国旗に描かれているように、森と砂漠に分けられた国のようだった。
運転して三十分ほど経ったとき、サイルがこの国の安全な場所と危険な場所の説明を始めた。
「この辺りは『中立地区』と呼ばれており、安全な場所です。ここでは戦闘は起こりません」
さらにサイルは、運転しながら道沿いの建物を指さした。
「ホテルに市場、病院、学校、そして音楽ホールがあります。それ以外の場所に行かれる際は、危険ですので私がご案内いたします。私に連絡してくだされば、夜中だろうとすぐに駆けつけます」
「本当に夜中でも来ていただけるのですか?」
玲子は、サイルの言葉が信じられなかった。
「はい。大丈夫ですよ。私は、二十四時間いつでも駆けつけます」
サイルが笑顔でこたえながら、ハンドルを操作した。
「サイルさん、ありがとうございます」
感謝したものの、玲子には腑に落ちないことがある。
「いつも外国から来た演奏者には、このように接待されているのですか?」
「もちろんです」
サイルは即答した。しかし、サイルの返事は早すぎる。あらかじめ問答集を準備して練習していたような答えだった。
(内戦の国に演奏者が、はたして来るのかしら?)
玲子は、サイルの返事を素直に信じることができなかった。
やがて、車がホテルに着いた。
「それでは私は、王宮へ戻ります。必要があれば、いつでも連絡ください。中立地区を離れると安全が保障できません。それだけは確実に守ってくださいね」
そう言ってサイルは、王宮へ戻った。
三階建てのホテルだった。部屋は全部で20部屋あるが、内戦の影響で四分の一ほどの部屋しか埋まっていなかった。
玲子とマリアは一緒の部屋だが、部屋もベッドも広々としていた。おそらくサイルは上級の部屋を確保してくれたのだろう。
しかも、このホテルのロビーには、グランドピアノが設置されていた。
ホテルのオーナーにピアノを演奏できるか尋ねたところ、
「玲子さんが演奏するのでしたら、いつでも自由にご使用ください」
ホテルのオーナーであるサムが、素早く答えた。
これもサイルからサムへ、事前に連絡がしてあったようだ。玲子が過ごしやすいように、サイルは、いろんなところに気配りをしていた。
その後、玲子とマリアは、市場に買い物に行った。
この市場は、戦闘が一度も発生したことが無い安全な場所である。道の両脇に百件ほどの商店が立ち並び、大勢の人でにぎわっていた。しかもここでは、果物や野菜、肉や魚、日用品、アクセサリーなどが売られており、ここで買い物をすれば、生活に必要なものが全て手に入る。
「マリア、あの果物が美味しそうね」
「玲子姉さん。こっちのジュースも美味しそうよ」
玲子とマリアは、楽しみながら珍しい料理や果物などを少しずつ買っては食事をし、市場を歩き続けた。
スラノバ国の物価は安かった。特にメロンは一個が日本円換算で百円ほどの値段だったし、オレンジに至っては三十円以下だった。
気がつくと、いつの間にか二人は、市場の通りから50メートルほど離れた場所を歩いていた。
(少し離れたといっても、このくらいの距離ならば大丈夫よ)
玲子は、そう判断した。
だが、その判断が甘かったことに、すぐに気付いてしまった。
突然、後方から銃声が聞こえた。
玲子とマリアは、突然の銃声に驚いた。
これは映画ではない。実際の出来事だった。
「いけない。市場から離れすぎたわ」
玲子はマリアの手を握り、来た道を戻ろうとした。
しかし、後方の道では、銃声が飛び交っている。
(戻れない。僅か五十メートル離れただけなのに、今は戻れなくなってしまった)
玲子は動揺した。一瞬、頭が真っ白になった。
マリアと手をつなぎ、前方へ必死に走った。少しでも銃声から遠ざかりたかった。
すると、
「前方は危ない!右に曲がって!」
誰かが後ろから大声で叫んだ。しかも日本語である。
迷わず右に曲がり、必死に走った。
「振り向かないで、そのまま真っ直ぐ走って」
後ろから誰かが逃げ道を教えている。若い男の声だった。信じるしかなかった。他に方法が無かった。
後ろから指示される方向に従い、懸命に走った。
前方に十字路が見えたとき、
「そこの角をさらに右に」
後ろの男性が再び逃げ道を指示した。
言われるがまま、ただ黙々と走った。恐怖で声が出なかったと言った方が正解だろう。
やがて、目の前にWHO(世界保健機関)の旗が見えてきた。青地の国連のマークに杖とヘビが描かれた旗だ。
「もう大丈夫。目の前に病院がある。ここは王国軍も革命軍も手出しをしない場所、中立地区だよ」
その声を聞き、走るのをやめたとたん、足がガクガク震えだした。震えが止まらない。
ようやく玲子は、この国の状況を体で理解した。この国は内戦中である。いつ銃弾が飛び交うかわからない危険な国なのだ。
足の震えを抑えながら、後ろの男性を見た。
「ありがとうございます」
と、玲子がいったそのとき、
「白井…。白井玲子だよね?」
後ろの男性が驚いた様子で尋ねた。
その声に玲子も驚き、後ろの男性の顔をじっくり見た。
「あっ。近藤君? …どうしてここへ?」
後方から逃げ道を教えてくれたのは、玲子の中学時代の友達『近藤聡』だった。
玲子は、先日の篠原真美の言葉を思い出した。
『近藤君はアフリカへ医療支援に行ったきりで連絡先がわからない…』
その近藤聡がスラノバ国にいた。何たる偶然だろうか。まるで運命に導かれるように、玲子は四年ぶりに近藤とめぐり会った。
日本の約八十倍もの広さがあるアフリカで、中学時代の同級生と出会うことは、まさに奇跡だった。
近藤は、玲子がウィーンに行く少し前にアメリカの学校へ転校した。そしてアメリカでは、成績優秀のため、驚異の飛び級で大学に入学し、しかも、短期間で医学部を卒業したのだった。
当時、周りのものは皆、近藤が先端医学研究所でノーベル賞に値する研究をするものと期待していた。だが、近藤は周りの期待に反して、卒業と同時にアフリカへ医療支援に行ったのである。
「ノーベル賞をもらうための研究よりも、多くの人を助ける仕事を、僕はしたい」
それが中学のときからの近藤の信念だった。
近藤は白衣を着ている。知的な顔立ちで眼鏡をかけ、前髪は七三に分けていた。
「白井こそ、どうしてここに来たの? 観光しに来たわけではないだろう」
「私は、スラノバ国からピアノ演奏の依頼を受けてこの国に来たの」
「そうか。僕はこの病院で医者をやっている。さあ、中へ入って」
玲子とマリアは、近藤に導かれ、病院へ入った。
マリアは、近藤のことを驚きの眼差しで見つめている。大きな瞳をクルクル回し、近藤を見つめていた。
「この子は?」
「マリアというの。私は、マリアと一緒に住んでいるのよ。今では姉妹みたいに仲が良いの」
「こんにちわ。マリアちゃん」
近藤が優しそうな表情で、マリアに挨拶した。
マリアは大きな瞳を輝かせた。
「玲子姉さん、この人が中学のときに好きだった人なの?」
突然のマリアの質問だった。しかも、もっとも質問されたくないことだった。
「ち…ちがう。というより、その質問、禁止!」
マリアの予想外の質問に、玲子は焦った。瞬く間に顔が赤くなり、声が上ずった。
すると、近藤がマリアの耳もとに口を近づけて、
「マリアちゃん、白井が好きだった人は、『佐藤涼』という人だよ」
と、笑いながら答えた。
「もー。近藤君も、その話、禁止!」
玲子は、さらに顔を赤くして近藤の口を塞いだ。
「白井のこんな表情、初めて見た」
近藤が嬉しそうに笑うと、
「私も初めて見た」
と、マリアも瞳を丸くして答え、
マリアと近藤は、お互いに顔を見合って、一緒に笑った。
「二人とも、笑うのは禁止!」
玲子が顔をさらに赤くして叫んだ。
この病院は近藤が院長を務めている。
病院といっても民家を数件借り、渡り廊下で繋げただけの、簡単なつくりだった。中央の建物は二階建てで屋上があり、布団のシーツがところ狭しと干されていた。
国連からスラノバ国へ派遣された医者は、近藤を含めて二人、看護士が二人の四人だけだった。
無理もない。内戦が発生している国への医療支援は、命の危険がある。自ら進んで行きたがる者は、ほとんどいない。
医師や看護師の不足を補うために、現地の看護師助手が十人いた。
それに対して二百人の患者が入院している。通院患者も二百人ほどであり、近藤たちは朝から晩まで大忙しの日々を過ごしていた。
近藤が案内した部屋は、処置室だった。ベッドがあり、折りたたみ椅子が四つあった。備品がそれだけしかない素朴な部屋だったが、丁寧に掃除がされており、清潔感があった。
部屋の中には、大柄の強そうな男がいた。
大柄の男は玲子たちを椅子へ座るようにすすめ、マテ茶を注いだ。
マテ茶は苦みと独特な風味がある。南米原産だが、アフリカ北部でも多く飲まれている。
マテ茶を飲んでいると、大柄の男が近藤に尋ねた。
「ドクター近藤、医療器具は購入できましたか?」
「ムハマド、なんとか戦闘が始まる前に買うことができたよ」
近藤の言葉に、ムハマドは安心した表情を見せた。
スラノバ国では薬や医療器具が不足している。
薬が無いために十分な治療ができず、患者を死なせることもある。そんなとき近藤は、やるせない思いをいだく。だが、患者やその家族にとっては深刻だ。家族は、やり場のない怒りを近藤たちにぶつけてくることもある。
患者の命を守るためにも、薬や医療器具の点検と買い出しは重要な任務だった。
「ところでムハマド、お願いがある」
「ドクター近藤、何でしょうか?」
「僕の友達の白井玲子さんとマリアさんをホテルまで連れて行ってくれないか? いつ戦闘が起きるか分からないし、もうじき日が暮れる」
「わかりました」
ムハマドは、近藤の指示に素直に従った。
ムハマドは看護師助手だった。彼は、近藤を尊敬していた。
近藤の頼みで、ムハマドが玲子たちを送ってくれることになった。
「白井、今日は時間がとれないけど、明日の夕方、一緒に食事しよう。マリアちゃんも一緒にね!」
「わかったわ。また明日ね」
「明日の午後六時に、ホテルへ迎えに行くよ」
近藤が別れの挨拶をした。
「近藤さん、さようなら」
夕闇が迫る頃、玲子とマリアは病院を後にした。
地平線へ沈みゆく夕陽が真っ赤に燃えて、とても美しかった。地球には、こんなに美しい光景があることを、玲子は改めて知った。
ホテルまでの帰り道、一見怖そうに見えたムハマドは、意外と優しかった。
「ムハマドさんは看護師助手をする前は、何をしていたのですか?」
玲子が尋ねると、
「昔、俺は王国軍の部隊長だった」
ムハマドは振り返って答えた。
『王国軍』という言葉の響きに、マリアが興味を示した。
「すごーい。それじゃあ、なぜ、今は近藤さんの病院で働いているの?」
マリアの質問に対して、歩きながらムハマドは、昔の話を淡々と語りだした。
***ムハマドの昔話***
昔、俺は革命軍と戦い、革命軍を十人ほど殺したことがある。それが自慢だった。
あるとき、戦闘中に足を負傷し、ドクター近藤の病院に運ばれた。
ドクター近藤の病院は、王国軍も革命軍も分け隔てなく治療する。当時、歩けない俺の世話をしてくれたのは、『ハマー』という看護師助手だった。
ハマーは、俺の面倒をよく見てくれた。おれがトイレに行けないときは、尿瓶を持ってきてくれたし、歩くときはいつも肩を貸してくれた。
俺は、ハマーが気に入った。だからハマーの前で、王国軍のときの活躍を何度も自慢した。ハマーはそのとき、何も言わずに、ただ聞いているだけだった。
一ヶ月経って、俺は、歩けるようになった。しかし、まだ走れない。つまり、王国軍兵士としては、まだ活躍できない。そこで、ドクター近藤に看護師助手としてしばらく働きたいと相談した。
すると、ドクター近藤は、『ホムス』という病人を看護するよう指示した。但し『過去の経歴は一切いわないこと。それにホムスが何といっても喧嘩や口答えはしないように』と、念を押した。俺はこのとき、ホムスって患者は、よほど性格が悪い奴だと思っていた。
俺はホムスを看護したが、ホムスは性格が良く、ドクター近藤が危惧した喧嘩や口答えは、全く心配なかった。ホムスも俺のことを信頼していた。
あるとき、ホムスが俺にいった。
「私の親父は王国軍に殺された。だから私は革命軍の戦士になり、王国軍兵士を三人殺した」
俺は、このとき初めて、ホムスが革命軍兵士だったことを知った。
俺は、急いでドクター近藤に抗議しに行った。
「なぜ革命軍兵士の看護をさせたのか」と。
ドクター近藤は、それには答えず、俺の介護をしてくれたハマーも、元革命軍兵士であることを告げた。
俺はハマーの前で、革命軍兵士を殺したことを何度も自慢していた。ハマーが無言だったのは、俺がハマーの心を何度も傷つけたからだった。それでもハマーは文句を言わず、俺の介護をしてくれたのだ。
そのときドクター近藤がいった。
「あなたは家族を殺された恨みを晴らすために王国軍に入隊した。しかし、あなたが敵を殺せば、相手の家族や友人があなたを恨むでしょう。そして革命軍に加わる。きりがありません」
ドクター近藤の指摘は、俺やハマー、ホムスの行動を現していた。まさに、そのとおりだった。
『恨みからは、平和は訪れない』
そんなことは、誰でも知っていた。しかし、俺たちは、そんな簡単なことすら忘れていた。自分たちの恨みを晴らすため、新たな恨みをつくり続けていた。
俺は、ドクター近藤に対し、何も言い返せなかった。
ドクター近藤は、さらにいった。
「あなたたちが平和のためにと戦えば戦うほど、結果として不幸な人が増えます。愛し合って下さい。理解しあってください。お互いに多少の我慢をしてください。そうすれば、争いは必ず無くなります」
その言葉を聞き、俺もドクター近藤のもとで働く決意をした。
俺は今まで、多くの敵を倒せば戦争が終わると思っていた。
しかし、それは間違いだった。
敵兵を殺したら、そいつの家族や友人が悲しむ。そしてその恨みを俺たちに向ける。その結果、新たな革命軍兵士が現れる。
俺たちが最初にすべきことは、話し合うことだった。理解しあうことだった。相手をいたわることだった。
平和は武力ではつくれない。小さな親切の積み重ねが平和をつくる。
ドクター近藤と一緒にいて、俺はそれがわかった。
おれもドクター近藤と一緒に、小さな親切を積み重ねることで、この国を平和にしたい。
おそらく、途方もない時間がかかるだろう。だが、そのやり方が、俺たちにできる最善の方法だと思う。
******
ムハマドは、過去を語り終えた後、しばらく無口だった。
おそらくムハマドは、革命軍兵士を殺した過去の自分を思い出したくなかったのだろう。
ホテルに着くと、ムハマドは病院に戻っていった。
ムハマドの大きな背中が、玲子には寂しそうに見えた。
(この国に平和をもたらすのは、王国軍でも革命軍でもなく、近藤君かもしれない)
その考えが、玲子の頭に一瞬過った。
スラノバ国に来て玲子は、戦争が身近なものであることを体感した。スラノバ国では、親や兄弟や子供、それに恋人や友達を戦争で亡くした人が沢山いることを知った。それと共に、日本やオーストリアが、いかに安全な国なのかがわかった。
そして、近藤に出会ったことで、玲子はスラノバ国を平和にしたい気持ちをいだき始めた。
スラノバ国の夜空には、アラビアンナイトにでてくるような星々の海が輝いていた。
内戦で街の灯が少ないスラノバ国の星空は、信じられないほど美しかった。
ホテルの屋上で星空を眺めていると、思わず涙がこぼれてきた。
(何故、人間は争うの? お互いに話し合い、理解し合えば、争う必要などないはずだわ)
昨日までの玲子は、こんなことを考えたことがなかった。考える必要もなかった。それは、玲子が今まで平和な国にいた証明だった。
この物語のもう一人の主人公、近藤聡が登場しました。
彼の信念にはどう感じられましたか?
次回は革命軍兵士の心境が語られます。