6.悪夢3
6.悪夢3
村民の埋葬が終わった後、村に向かう道の途中で、倒れているアザムとイムジンを見つけた。
二人の横には銃で撃たれた若者が横たわっている。
アザムとイムジンは、顔じゅう痣だらけだった。いや、顔だけではなく体じゅうに殴られた痕がある。おそらく村民から集団暴行を受けたのだろう。
「二人とも、痛かっただろう。苦しかっただろう…。すまん…。全ては私の責任だ」
パラカトは涙を流し、横たわっているアザムを抱きしめた。すると、ほのかに体温を感じる。
「アザムはまだ生きている。救護班、早く来てくれ!」
パラカトは急いで救護班を呼んだ。
直ぐに救護班がやって来た。
救護班の懸命な治療にて、アザムはようやく気を取り戻した。
「軍師…すみません。村人を守れませんでした…」
「アザム、君の責任では無い。全ては私の責任だ…」
パラカトの言葉を聞き、アザムは安心したように眠りについた。医療班は、横たわったアザムを担架に乗せ、司令部へ行く車に乗せた。
イムジンと若い村民の遺体を埋葬した後、パラカトは兵たちに村中の家を調べさせた。
家のほとんどが全焼しており、残りは半焼していた。無事な家は一軒もない。焼け残った家を全て調べたが、生きている村民は一人も見つからなかった。
二日前に村へ訪れたときは、小さい子供の笑い声がいたるところから聞こえていた。だが、今は風の音しか聞こえない。『ヒューヒュー』と寂しそうな音だった。
いま、ひとつの村が滅びたのを、パラカトは理解した。
村の東側にある森は、砂漠の砂嵐から村を守ってくれていた。
その森も今は無い。革命軍が焼き尽くしてしまった。
もう、この村は終わりだ。たとえ家屋を建て直しても、森がなくなったため、畑には砂嵐がもろに吹きつけるだろう。そうなると、何も育たなくなる。
(私は…、悪魔になってしまった)
覚悟はしていたものの、廃墟となった村を目の当りにし、パラカトは罪の意識に苛まれた。
装甲車に守られ、自動小銃を装備している王国軍に対し、旧式の単発銃しか持たない革命軍が勝つには、それなりの覚悟が必要だった。そうしないと部下の命を守れなかった。
たとえ国中から非難されようが、悪魔とののしられようが、勝たなければ意味が無い。死んだらそれでおしまいだ。
(私は愛する部下たちを守る。これからも、部下の命を最優先で守る。そのためには、非情な手段も使うだろう。その罪は私一人が背負う。地獄に落ちるのは私一人でいい)
パラカトは、今後、周りから向けられる自分への非難を覚悟した。そして大声で叫んだ。
「私を悪魔と呼びたい者は呼ぶがよい」
廃墟となった村に、砂漠からの風が強く吹きつけていた。まるでパラカトの心から愛情や優しさを根こそぎ奪っていくように、『ヒューヒュー』と風が吹き続けた。
その風の音は、数年経った今でも、パラカトの胸に寂しく響いている。
そして、この日を境に、パラカトの心は荒んでいった。かつて誰からも慕われていた優しさは、そのかけらさえ見えなくなった。
戦争は人の心をも壊していきます。
次回は、玲子とマリアがスラノバ国に行きます。