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ピアニスト玲子の奇跡  作者: でこぽん
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14.命懸けの説明

  14.命懸けの説明


 まもなく、モナ王女の側近のテーラーが、神の沼へ到着した。


 テーラーは二十代の年齢の若者である。格闘技に精通しており、体つきが逞しい。スラノバ国で毎年開催される武闘大会で、彼は三年前に優勝した。そのときからテーラーは、モナ王女の護衛をするようになった。

 テーラーの意見は、モナ王女の意見そのものだった。しかもテーラーは、モナ王女がアフマド国王の許可を得ていることも、神の沼を警護している王国軍の長官に通達した。

 そうなると、神の沼を警護する王国軍は、テーラーの命令に従わざるをえない。


 テーラーの命令により、ドクター近藤が救急車に乗せられた。救急車は中立地区の病院ではなく、王宮へ向かった。その際、玲子やマリアも救急車に乗車し、近藤の介護をした。


 やがて、救急車が王宮に着くと、王宮の医務室で近藤の治療が本格的に行われた。

 ここは、医療器具が充実している。中立地区にある近藤の病院よりもはるかに多くの薬が備わっており、MRIなどの医療機器が整っている。だが、その医療機器を使用できるのは王室の親族のみに限定されていた。王宮で働いている人たちは、ここにある医療機器の恩恵を受けることができない。ましてや、スラノバ国の一般の国民は、この医療施設があることすら知らされていない。


 ここにある医療器具の半分が近藤の病院にあれば、もっと多くの国民の命を救うことができるだろうに。近藤に意識があれば、きっとそう言ったに違いない。


 近藤がゴーグルや手袋を身につけていたため、まぶたや指先の溶解も奇跡的に最小限で済んだ。そしてムハマドがたっぷりと近藤の顔に塗った日焼け止めクリームのおかげで、顔面の皮膚の溶解も奇跡的に最小限となった。

 だが、首から胸にかけては、露出していたためワニの胃液の影響がある。

 それでも玲子の初期手当のおかげで、近藤の全身に付着していたワニの胃液の影響は、最小限に抑えられた。

 しかし、それでも近藤は、全身を包帯で覆われた。まるでミイラ男のような姿をしている。


「近藤君、死なないで!」

 医務室の扉の前で、玲子は十字を切って祈った。

 玲子の祈る姿を見た王宮の者が、

「お祈りをするなら、向こうの建物に教会がありますよ」

 と、教えてくれた。


 案内に従い向こうの建物に行くと、小さなカトリック系の教会があった。

 普通の街にある教会と同じつくりをしており、神父もいた。

 スラノバ国はイスラム教が大多数を占める。そのスラノバ国の王宮にキリスト教の教会があることに、玲子は驚きを隠せなかった。しかも、そこにマリアがいた。

 マリアも玲子に気づいた。


 マリアは玲子を椅子に招き、話し始めた。

「玲子姉さん。私…、全部思い出した。『マリア』という名前は、洗礼したときにつけられた名前。スラノバ国での私の本当の名前はサマル。モナ姉さんとは双子の妹なの」


「そうだったのね。マリアが以前、『私の遊び相手はもう一人の私だった』といった理由が、私にも分かったわ。私たちの前でモナ王女が、頭部を隠す「ニカーブ」を常にかぶっていた理由も理解できた」

 玲子は、マリアの手を握りしめた。

「マリアとモナ王女は、顔がそっくりなのでしょうね」


「うん。双子だもの。そっくりだよ」

 マリアは、モナ王女と昔遊んだ日々を思い出し、わずかながら笑顔をみせた。

 それからマリアは、以前の記憶を語りだした。

「八年前、革命軍の力が強かったとき、お父様の側近の人が、私かお姉さんのどちらかを生贄に捧げることを提案したの。そうすれば国民の信頼を得ることができ、王国は強くなると言われたみたい。当時は日照り続きで、国民も苦しんでいたから…」


「それで、マリアが選ばれたの?」


「クジで決まったの。でも、お父様やお母様は私を助けたくて、どこかの国から身代りの女の子を連れてきた」

 そう語ったマリアの表情は、悲しみに満ちていた。


「その子が私の代わりに生贄になった。でも、私はスラノバ国では死んだことになっている」


「だから、ウィーンでマリアが発見されたのね」


「うん。不思議なことに、ウィーンでは私の過去の記憶が無かった。おそらく神様が、嫌な思い出を消してくれたのだと思う」


 語り終えたマリアの肩や腕が、わずかながら震えていた。マリアの悲しみが、全身から伝わってくる。


「マリア、私はいつでも、あなたのそばにいるわ」

 そう言うと玲子は、マリアの肩を抱きしめた。


 マリアは、あまりにもつらい過去から逃れるために、記憶を失ったのだろう。

 玲子は、この国に今も続いている生贄の儀式が許せなかった。国民を苦しめ、子供の命を奪い、マリアにこんなつらい思いをさせている王国の儀式が、どうしても許せなかった。


 窓の外を見ると、南東の風が吹きだしたかと思うと、瞬く間に強風になった。風と共に黒雲が南東の方角からやって来た。そして、スラノバ国では珍しい雨が降り始めた。



 次の日の朝、近藤の意識が回復した。顔にまかれた包帯の隙間から、近藤が目を開いた。


「近藤君、助かったのよ。良かった」

 徹夜で看病した玲子は、近藤の手を握りしめて喜んだ。


「またしても…白井に命を救われたね…。ありがとう…」

 傷が癒えていない体で、近藤がたどたどしくいった。そして続けて、

「白井…、お願いがある…。国王に会いたい。この儀式がインチキであることを…話したい。儀式をしなくても雨が降ることを…説明したい」


 言葉はたどたどしかったが、彼の目には強い意志があった。

 近藤は、包帯だらけで動くことすら不自由な体にもかかわらず、国王を説得し、生贄をやめさせるつもりだった。近藤は、それが自分の使命だと感じていた。


「わかったわ。必ず国王と話ができるように頑張る。だから近藤君は、今日は休んで体を回復させてね」


「ありがとう…。そうさせてもらう」


 近藤は、安心した表情で目を閉じると、すぐに眠りについた。近藤の体力は、よほど消耗していたのだろう。

 無理もない、ワニの胃の中で息を止めながら、もがき続けていたのだ。しかも、全身がワニの胃液で炎症を起こしており、皮膚呼吸も満足にできていないに違いない。


 

 玲子とマリアは、早速アマル王妃に会い、近藤が国王と話す機会をつくってもらうように頼んだ。


 アマル王妃は、マリアが何度も頭を下げる姿を見て、なんとかすると約束してくれた。

 おそらく、玲子一人の力だけでは、アマル王妃の説得は無理だっただろう。


 マリアは常に玲子のそばにいて、玲子を助けている。マリー婆さんの認知症を回復させたときは、楽譜のある場所を示した。病院を守ったときは、玲子の行うべきことを導いた。そして、神の沼で近藤を救出したときも、舟を使うように示唆した。


(もしかしてマリアは、神様が遣わした道標なのでは?)

 このとき玲子は、そう感じた。全くの直感だった。そう感じさせる不思議な力が、マリアにはあった。



 アマル王妃の協力で、二日後に近藤がアフマド国王と面会することとなった。


 近藤がアフマド国王に面会する日、近藤は王宮の玉座の間に案内された。

 玉座の間は、色とりどりの煌びやかな装飾が施されており、王宮で最も美しい場所だった。しかも、天井には、巨大な壁画が描かれており、中立地区にある病院とは比べることができないほど、贅沢なつくりをしている。


(ここにある装飾品の半分を売って国民へ分け与えたら、国民は、かなり生活が楽になるだろうに…)

 近藤は、そう感じていた。だが、そのことは、おくびにも見せなかった。


 玉座の間には、最少の護衛兵しかいなかった。傍聴者も、アマル王妃とモナ王女のみだった。護衛を最小にしたのは、アマル王妃の計らいだった。おそらく国民に知られてはいけない話になるだろうと、アマル王妃は予想していた。


 近藤とアフマド国王の面会の時間、玲子とマリアは教会で祈り続けた。

(近藤君の説得を、アフマド国王が受け入れてくれますように…)

 今の玲子には、祈ることしかできなかった。


 アフマド国王は、ドクター近藤の人望を知っている。だが、近藤が王国の神聖な儀式の妨害をしたことは、許しがたい事件であることも知っていた。だから今日の結果次第では、近藤に刑を科すことも考えていた。


「アフマド国王、お忙しい身でありながら、面会の時間をつくっていただいたことに感謝します」

 近藤が全身包帯姿でそう述べた後、本題を話し始めた。

「普通この時期は、スラノバ国には北西の風が吹きます。しかし、十一月中旬を過ぎると、風が逆方向に吹く日が一日か二日だけ発生します。これは儀式をしてもしなくても、必ず起こります。もちろん生贄をしなくてもそうです」

 近藤は自信をもって切り出した。


「なぜ、そう言い切れるのだ」

 アフマド国王は、近藤の話が信じられない。


「この現象は、期日や風向きに多少の違いさえあれ、北半球の多くの場所で発生しています」

 近藤はさらに続けて、

「約千八百年前には、中国の偉大な軍師が、この現象を利用し、六万の軍でおよそ三十万の軍を破ったことがあります。それは『赤壁の戦い』として、今も中国で語り継がれています」


 近藤は自分の意見ではなく、事実のみをありのままに説明した。そうすることで、アフマド国王に儀式の善悪を判断してもらおうとした。


「確かに『赤壁の戦い』は余も知っている。それでは、どうして雨が降るのだ?」

 アフマド国王は、近藤の言葉を少し信じ始めた。


「この国の場合は、南東の風が吹くと、今まで南東側の山脈に溜まっていた雲が流されてきて、ちょうどスラノバ国の上空で雲が集まり、雨が降ります」


「なぜ雲が集まるのだ。南東の風が吹くのなら、雲もそのまま流され、雲が集まるわけはないではないか」

 アフマド国王は、近藤の説明に疑問を感じた。

 実は、それが近藤の狙いだった。疑問を感じさせることで、国王に質問させ、より詳しく説明するつもりだった。


「南東側にある山脈は扇状に広がっています。しかも山脈の南側と東側には、それぞれ火山があります。だから南東の風が吹くと山脈に溜まっていた雲が流され、山脈の南側に溜まっていた雲は火山の影響で北側へ、山脈の東側へ溜まっていた雲は火山の影響で西側へと、扇の中心へ雲が集まるのです。その中心がスラノバ国です。これが雨乞いの真相です」


 近藤が不自由な腕にもかかわらず、絵を描きながら説明すると、アフマド国王も、近藤の説明を理解することができた。


「そうだったのか。確かに南東の方向には扇の形をしたカフマンタ山脈がある」

 今やアフマド国王は、近藤の話を信じて疑わないようになった。


 近藤はそこまで説明すると、一息入れて、

「だから雨乞いの儀式の日は、毎年同じ日ではなく、微妙に違っていたでしょう?」

 近藤がアフマド国王に尋ねると、

「確かに、雨乞いの日は祭司官が神に最も意志を伝えやすい日を直前に決めていた」

 と、国王も雨乞いの儀式に疑問を持ち始めたようである。


「おそらく、祭司官の家には気象データが山ほどあるでしょう。それをもとに、もっとも適した雨乞いの日を決めていたはずです」

 近藤は、自信を持って国王に説明した。そして続けて、

「それに、今年の儀式を私が妨害したのであれば、雨は降らないはずです。でも、雨は降りました」


「確かに…、儀式が中断したにもかかわらず、今年も雨が降った…」


 近藤の説明は、アフマド国王を完全に納得させた。

 アフマド国王は、しばらく考えた。

 確かにドクター近藤の言うように、儀式を行わなくとも雨が降る状況証拠がそろっている。あとは、司祭官の家に気象データがあれば、それが決定的な証拠となる。


 その後、アフマド国王は、重い口を開いた。

「なんということだ…。我々は…約三百年もの間、生け贄として子供の命を無駄に奪っていたのか?」

 アフマド国王は頭を抱え、過去の生贄を悔やんだ。そして、

「護衛兵、今から急ぎ祭祀官のアブドラを連れてまいれ!」

 と、命じた。



 近藤とアフマド国王との面会は、いったん休憩となった。

 アフマド国王は、祭祀官のアブドラが来た後に改めて続けることを近藤に言い渡した。

 近藤は、休憩の間、治療室で横になり、疲れを癒した。よほど疲れていたのだろう。あっというまに近藤は深い眠りについた。


 面会が休憩時間となった知らせを聞き、玲子たちは急ぎ近藤の医療室に行った。

 室内は静かだった。近藤は既に深い眠りに入っている。やはり疲労が溜まっているのだろう。医師が唇に人差し指を立てて静かにするように促した。

 玲子は面会の結果を知りたかった。だが、今は尋ねることができない。


 するとそこへ、モナ王女がやって来た。

「会談の途中経過を教会で話します。ついて来て下さい」


 二人はモナ王女に促されるまま、医療室を後にした。

 協会に着くと、礼拝堂のすみに座り、モナ王女が会談の内容を説明した。


 アフマド国王が近藤を処罰することがないとわかると、玲子は思わず胸を撫で下ろした。

そして、意を決したように、

「この面会の真の目的は、近藤くんの潔白を証明することではありません。子供たちの生け贄をなくすことです。そのために、近藤くんは疲労困憊にもかかわらず頑張っています」

 そういうと、さらに続けて、

「モナ王女、国民のためにも、ぜひ子供たちの生け贄を廃止するよう、ご協力をお願いします」

 玲子は思いを全て言い切った。


「わかりました。私も精一杯ドクター近藤を応援します」

 モナ王女も、意を決したようにいった。

 実はモナ王女も、子供たちの生け贄の廃止を望んでいた。


 八年前、王室からマリアを生け贄に出したことで、モナ王女は妹を失った。マリアは命こそ奪われていないが、マリアが王室に戻ることは決してない。姉妹として一緒に暮らすことも話すこともできない。それがどんなに辛いことか、モナ王女は充分に体験した。ましてや家族の命を奪われたならば、その苦しみは計り知れないほど大きいはずである。


 今回、ドクター近藤が国王を説得している。玲子もモナ王女も、この機会を逃したくなかった。


 二時間後、アブドラ祭祀官が連行されてきたとの知らせを受け、面会が再開された。

 近藤は疲れた体にもかかわらず、起き上がると玉座の間へ行き、国王の到着を待った。

 

 やがて、玉座の間に、アフマド国王が現れた。そして、祭司官アブドラが王国軍兵士に腕を組まれて連行されてきた。

 アブドラの自宅には、近藤が指摘したとおり、膨大な気象データが蓄積されていた。そして、そのデータも証拠品として押収されたようだ。


「アブドラ、雨乞いの儀式をせずとも、この時期には一日か二日だけ雨が降ることをドクター近藤が教えてくれた」

 アフマド国王は怒りに満ちていた。いつもは温和な話し方だが、今は語気が荒い。

「言い逃れはできんぞ!」

 温厚なアフマド国王がみんなの前で部下を叱るのは、珍しい。


「ご推察のとおりです。これで私も安心して死刑台に望めます」


 アブドラの言葉は意外だった。ここにいる誰もが唖然とした。

 アフマド国王は、アブドラが見苦しく言い訳するものと思っていた。子供たちの命を無慈悲に奪っておきながら、自分の命だけは必死に命乞いをする姿を想像していた。だが、アブドラは何の言い訳もしなかった。素直に自分の罪を認めた。


 アフマド国王は、信じられないような顔をしている。

 逆にアブドラは、安心しきったような顔をしていた。


「私もこれ以上、子供たちの命を奪いたくありません」といい、

「ドクター近藤、命を懸けて国王を説得していただき、感謝します」

 と、ドクター近藤に対して両手を組み、深々と頭を下げた。

 アブドラは、さらに続けて、

「八年に一度のこの時期は、子供の命を奪うのが辛く、私は夜も眠れませんでした。でも、これで、この苦痛から解放されます」

 と、心情を語った。


「アブドラ! なぜ正直に打ち明けてくれなかった!」

 アフマド国王が叱ると、

「お言葉ですが、生け贄に人間の子供を捧げるようにしたのは、三百年前の国王です。それまでは家畜を生け贄に捧げてきました」

 アブドラは、三百年前の歴史を国王に説明しだした。


「遥か昔は家畜を生贄に捧げ、雨が降ることで王国の威厳を保っていました。しかし、三百年前の国王は、さらに威厳を高めようと、人間の子供を生贄にするようにと、私の先祖へ命令されました。私の先祖の一人は『子供の生贄』に反対したため、牢獄で生涯を終えています」

 アブドラは事実のみを国王に語ると、

「これは王室歴史書に記載されています。だから私たち一族は、それ以降、国王に相談ができなかったのです」

 アブドラは、すべてを語り終えて悔いが無い表情をしていた。


 直ちにアフマド国王は、王室歴史書を係の者に調べさせた。すると、三百年前に確かにアブドラが語った内容が記述されていた。

 三百年前の国王が『子供の生贄』を執り行うようにしたことも、アブドラの先祖の一人が異議を申し立てて牢獄に繋がれた事実も、確かに記録に残っていた。


 アフマド国王は、凡庸の人だった。だが、人の心の痛みを理解する点だけは持っていた。それは、マリアを生贄にだしたときに、国王自身が体験した。大切な人を失った心の痛みを、彼は八年間持ち続けていた。

 彼は、アブドラの苦悩を直ちに理解した。同時に、過去から現在に至る王国の儀式を悔やんだ。そして、王室歴史書に記載された内容を理解もせず、生贄の儀式を続けてきた自分自身を許せなかった。


「なんたることだ。アブドラ、そなたの罪は余の罪でもある…。二人して罪に服そう」

 アフマド国王は、アブドラ一人に罪をかぶせようとはせず、ともに死ぬ覚悟のようだ。


「ちょっと待ってください。お二人が死んだところで、今まで死んでいった子供たちが生き返る訳じゃありません。それにお二人が死んだら、悲しむ人が大勢います」

 近藤が、二人の会話に突然割り込んだ。

「何よりも先に行うべきことは、生贄の廃止を全国民に知らせることではないでしょうか? 今まで死んでいった子供たちも、それを真っ先に願っていると思います」


「私もそう思います。お父様、今すぐにでも全国民へ生贄の廃止を宣言すべきです」

 そう言ったのは傍聴者であるはずのモナ王女だった。モナ王女は、迷わずに近藤の後押しをした。それが国民のために第一にすべきことだと、彼女は感じていた。


「そうだったな。最も大切なことを先にするべきだ」

 アフマド国王も、近藤やモナ王女の意見に賛成した。



 国王との面会は無事に終わった。目的も達せられた。近藤が治療室に戻ると、玲子とマリアが近藤を待っていた。


「近藤君、どうだった?」

 玲子が尋ねた。玲子たちは、面会の結果を、首を長くして待っていた。


「もう子供たちの生贄はなくなる。これからは、国民が安心して暮らせるようになる」

 近藤の言葉に、玲子とマリアが、二人同時に近藤に抱きついた。


「近藤君、ありがとう」

 玲子は涙を流している。


「近藤さん、ありがとう」

 マリアの表情は、喜びに満ちていた。

(これで、忌まわしい過去と決別ができる)

 マリアは、心が解放されたように感じた。

 そして、近藤を囲むように、マリアと玲子も、肩を組み喜びをわかちあった。



 その日の夜、国営テレビでアフマド国王が、八年に一度行われた『子供の生贄』の廃止を宣言した。また、今回生贄となった子供を助けたドクター近藤の愛と勇気を褒めたたえた。


 スラノバ国のみんなは、国王の宣言に喜んだ。

 今後は、子供が生まれても、生贄の不安から逃れられる。子供を犠牲にする必要が無い。不幸な家族をつくらなくて済む。

 人々は、未来に希望を持った。中には花火を打ち上げて喜んでいる町もあった。

 これでまた一歩、スラノバ国の平和が前進した。


 国民は、今回の殊勲者であるドクター近藤を褒め称えた。

「ドクター近藤は、見ず知らずの他人のために、命を投げ出して助けてくれた。彼は、我々の守り神だ」


 多くの人たちが、近藤のことを熱く語った。

 今やドクター近藤の人気は、アフマド国王やヒアム革命軍司令官をしのぎ、スラノバ国でナンバーワンとなった。

 また、国営テレビでアフマド国王は、引退を宣言し、二週間後にモナ王女の国王即位式が行なわれることを、国民に知らせた。

近藤の奮闘はどうでしたでしょうか?


次回は、マリアの姉であるモナ王女が活躍します。

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