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遊華の様子がおかしい件について

今回は遊ピンチ回です。

大ピンチではないけど、それなりにピンチです。

このピンチで遊の価値観が変わるかもしれないです

では、どうぞ

 人間って忘れる生き物である。だからこそメモを取るし、録音したりと何らかの方法で記録して後で確認するようにする。だが、メモを取らずとも覚えている事もあるから不思議だ。例えば、印象深いものはメモを取ったり、写真に収めたりしなくても記憶に残る。俺の場合は今日の遊華たちに吸血鬼よろしくキスマークを付けられたりした事だな


「俺が悪いとはいえ、これどうするんだよ……」


 鏡を見ながら項垂れる。自業自得とはいえキスマークが3つ……これじゃ大浴場に行きづらい。いや、行けない……別に大浴場は堪能したし、部屋の風呂でもいいけど。何がマズイって、キスマークが口紅の痕じゃなく、完璧にうっ血している事がマズイのだ。


「蚊に刺されたじゃ誤魔化しきれないしなぁ……」


 キスマークを自分で自分に付けるんじゃなかった。今更後悔しても遅いが、遊華たちの反応を楽しむつもりがキスマークを付けられましたじゃ笑えない。本当に笑えない


「お兄ちゃん?」


 洗面所の鏡の前で愕然としていたところに遊華からの声が掛かる。心なしかツヤツヤしているのを見ると本当に遊華は吸血鬼かなんかだと錯覚しそうになるから不思議だ


「どうした遊華?」

「お兄ちゃんにお礼言おうと思って」

「お礼?」

「さっき安心するまで一緒にいてくれたし、寝た後も膝枕してくれていたようだから、そのお礼」

「いいよ別に」


 別にお礼を言われる事じゃない。俺がしたいからしただけだし、震えながら泣きそうになっている女性を放っておく趣味は俺にはない


「でも……」

「震えながら泣きそうになっている女性を放っておくのも不安になってる妹を放っておくのも嫌だったからしただけだ。だから気にするな」

「うん……」


 この場でどうして悪夢を見たか?なんて聞くのは野暮な事だろうからあえて聞かないが、原因は仕事のストレスか何かだろ


「俺は少し横になるが、遊華はどうする?美月と香月はお土産見に行ってるし」

「私も少し横になる。お兄ちゃんと一緒に」

「はいはい」


 香月と美月はお土産を見に行ってるのに俺は寝て遊華は放置ってわけにもいかんか。遊華の事だ、どうせ抱きしめて寝る事になるんだ。ここは俺から仕掛けますかね


「お兄ちゃん行こう?」

「おう……」


 遊華に手を引かれ部屋の中へと行く。さて、仕掛けるかな。たまには俺から提案してみるのも悪くないだろ


「どうしたの?お兄ちゃん?」

「いや、寝る時に遊華を抱き枕にしたいなぁと思っただけだ」

「なっ!?」


 遊華の顔は一気にリンゴみたいに赤くなった。いつも自分で仕掛けてくる時は平気な顔してんのに俺から言うと赤くなるのはズルくないでしょうか?


「ダメか?」


 赤くなった遊華にさらに追い打ちをかける俺はきっと性格が悪いんだろうな……


「いいよ……」


 真っ赤になった遊華から蚊の鳴くくらいの声で許可をもらった。コイツは自分で仕掛ける時はどんな思いで仕掛けるんだろう?


「じゃあ、早速だけど」

「うん……」


 寝るだけなのに何?この緊張感は?何かいけない事するような雰囲気なんだけど?


「確認なんだが、寝るだけだよな?」

「うん……」


 うん、寝るだけならいい。それにしても、遊華は夢の事をまだ気にしているのか元気がないな……


「じゃあ、寝るか」

「うん……」


 遊華は俺の腕にスッポリ収まる。さっきのような震えはないし、泣きそうな様子もない。


「お兄ちゃん……」

「ん?どうし───」


 どうした?と言い切る前に俺の口は遊華の口によって塞がれてしまった。え?今キスされた?


「「ぷはっぁ」」


 状況が飲み込めない。どうして俺は今キスされたんだ?そもそも原因は何だ?俺が遊華たちの口紅を使って悪戯したからか?


「ゆ、遊華、どういうつもりだ?」


 ここで取り乱したり熱くなったら元も子もない。それに、ファーストキスはもう奪われているし、別にファーストキスに特別な思い入れもないからとやかく言わないが、キスの理由だけは聞いておこう


「私がしたかったから。じゃダメ?好きな人とキスするのに理由が必要?」

「ダメとは言わないし、好きな人とキスしたい気持ちはわかるが、いきなり過ぎないか?」


 いくらなんでもいきなり過ぎる……それに、実の兄にキスする妹がどこに……ここにいたか


「いきなりじゃないよ。ずっとキスしたいって思ってた」


 遊華からしてみればずっとしたいって思ってしたんだろうが、俺からしてみればいきなりだ。しかも、さっきずっとキスしたいと思ってたって言ってたが、それはいつからだ?幼い頃か?それとも、再会した頃か?


「ずっとっていつからだ?再会した頃か?」


 あえて幼い頃からか?とは聞かずに再会した頃か?と試しに聞いてみる。遊華からしてみれば俺が失踪した日、俺からしてみればこの世界に飛ばされた日には既にキスしたいって思ってたのか?


「ううん、それよりもずっと前から」


 それよりもずっと前からという事は幼い頃からという認識でいいんだろうか?


「それって幼い頃からか?」

「うん……」


 常日頃から遊華が俺を好きだって言ってるのは家族としてだと思っていたし、キスだってしたい言われれば外国でいうところのあいさつ代わりとしてのものだって思ってたし、思っている。だが、今はそんな言い訳は通用しない。


「遊華……」


 こんな時、俺は何て言ったらいいかわからない。そもそも、俺は励ますべきなのか、叱るべきなのかすらわからない。俺は今まで我が道を行くような生き方をしてきた。その結果、遊華を蔑ろにしてきた部分もあるかもしれない……


「お兄ちゃん、嫌じゃなかったら私を受け入れて……でも、嫌って言われたら私死んじゃうかもしれない。いや、死んじゃう。私はお兄ちゃんなしじゃ生きていけない……」


 俺は遊華に……いや、遊華たちに好きだって迫られた時に何とかやり過ごしてきたり、暴走してる!ヤバい!と思っていたが、今回は特に変だ。今まで好きとは言われたけど、俺なしじゃ生きていけないなんて言われた事なんてない。


「どうしたんだ?いつも以上に変だぞ?」


 何とかして話を逸らさねば……別に好意から逃げるわけじゃないが、俺と遊華は実の兄妹だ。このまま雰囲気に呑まれて一線を越えたらシャレにならない。


「変か……いいよ、変でも。だけど、もう我慢できない……私はお兄ちゃんが今すぐほしい……」


 目に光がないのは暴走した時では毎度の事だが、いますぐほしいなんて初めて言われたなんて初めて言われた。刃物がないだけマシか……


「今すぐほしいと言われても俺は自分から恋人でもない女にキスなんてしないぞ」


 俺が寝ている間に遊華によって俺のファーストキスは奪われてしまった。だからと言って俺は自分の考え方を変えるつもりはない。要するに自分からキスをする事は現状では絶対にない


「いいよ。お兄ちゃんからしなくても。私からするから」


 前のカメラの映像でも遊華からキスしてたから、言うとは思っていた。ここは逃げるが勝ち!


「あ、その前にトイレ」


 キスされる前にトイレに駆け込もう。そうすれば遊華を拒絶した事にはならないし、嫌った事にもならない。あとはそのまま遊華が落ち着くのを待つだけ!完璧だ!


「ダメだよ。逃げちゃ」


 起き上がろうとした俺は遊華に抱き着かれる形で拘束されてしまった。万事休すか……


「逃げるんじゃなくて、生理現象!トイレだからな?」

「お兄ちゃんはいつもいつもそうやって嘘吐くよね。いつもいつも……」


 俺は嘘を吐いた覚えはないぞ?しかも、いつもって事は俺が常に嘘を吐いてるみたいじゃないか。人間だから当然、嘘を吐いたり、自分の予期せぬ形で裏切る事はいい結果でも悪い結果でもあるだろう。


「その言い方だと俺が常に嘘を吐いてるみたいに聞こえるぞ?」


 今更逃げ切れるとは思わないが、香月と美月が戻ってくるまで時間稼いで戻って来たら有耶無耶にして誤魔化す。成功するかはわからない。だが、やるしかないよな……


「うん、そう言ってるもん。お兄ちゃんはトイレに行くって言って部屋に籠ったり、自分で自分に睡眠薬盛って私を試したりしてきたじゃん」


 前者は俺が悪いとして、後者は言った事に嘘はなかった。言った事に嘘はないが、俺の行動がそう思わせてしまった。遊華からしてみればそうなるのか?


「前者に関しては強く言い返せないな。嫌だったとはいえ俺がした事だ。だが、後者は俺が言った事に嘘はない。俺の行動に問題があるのは認めるがな」

「もういい……」

「え?」


 遊華の声が急に低くなった。今まで暴走するところはたくさん見てきたが、声が低くなるのは初めての事だ。だが、こんなになるまで悩ませていたとしたら俺は甘んじて遊華を受け入れるべきなんじゃないか?


「嘘を吐くお兄ちゃんの口は私が塞ぐからもういい」


 俺を見上げる遊華の瞳からは大粒の涙が流れていた。いや、違うか。俺が流させたと言った方が正しいかもしれない。今までは抱きしめて慰めれば何とかなったかもしれないが、今回ばかりはどうにもならない。妹の涙を止める為なら俺のつまらない恋愛観を捨てよう


「いいぞ」

「え?」


 今度は遊華がキョトンとした。今まで頑なに拒んできた俺がいきなり受け入れたんだ。キョトンとするのは当たり前か


「遊華が不安になったのは俺がこれまでしてきた行動の結果だ。俺にキスして気が済むなら好きなだけするといい」

「いいの?」

「ああ」

「本当にするよ?」

「どうぞ」

「じゃあ、遠慮なく」


 あ、止めるって選択はないのね。ワンチャン思いとどまる事を期待したんだけどなぁ……ダメだったか


「んっ……あむっ……ちゅっ……」


 最初は触れるだけのキスかと思ったが、ディープな方だった。バッチリ舌まで入れてくるし……っていうか、このままじゃ窒息する!


「ん~!ん~!」


 俺は遊華の背中を叩いて遊華に待ったをかける。このままじゃ俺は本当に窒息する。死因が妹とのキスで窒息死とか嫌だよ?


「はぁ……はぁ……何?」


 不満そうな顔した遊華が俺を見上げるが、俺と同じ状況にいた遊華はよく平気でいられるな


「何?じゃなくて!窒息する!俺死んじゃう!」

「私とのキスで窒息死するなんて……素敵……」


 肩で息をする俺を幸せそうな顔をして見つめる遊華。まぁ、刺されたりしないだけマシだが……


「いや、死んだら何もできないと思うが?」

「何もできないけど、お兄ちゃんをずっとずっと私のものにできる……」

「え?」

「お兄ちゃんは私のもの……香月お義姉ちゃんにも美月お義姉ちゃんにも渡さない。今までは我慢して貸してあげてたけど、お兄ちゃんが私以外の女を見るなんて許せない。お兄ちゃんは私のもの幼い頃から今でもずっとだって、私が1番お兄ちゃんを見てきたんだもん私がお兄ちゃんを1番理解しているもん当たり前だよね私たちは運命の赤い糸で結ばれてるんだし失踪したお兄ちゃんを最初に見つけたのも私からお兄ちゃんは私と結ばれるべきなんだよ。お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん……」


 お前はどこの悪魔だ?1周周って俺は冷静になる事ができたみたいだ。それにしても、何度も思うが、遊華の奴どこか変じゃないか?まるで何かに憑りつかれているようなそんな感じだ。香月と美月が帰ってくる前にちょっと確認だけしてみるか……

今回は遊ピンチ回でした

今回はピンチにより遊が考え方を若干変えました

周囲に人がいないとピンチになった時に考え方を変えざる得ないのはケースバイケースって事で

今回も最後まで読んで頂きありがとうございました

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