俺が香月の友達の家にお呼ばれした件について
今回は遊が香月の友達の家に呼ばれる話です
途中ハプニングがあります!普通に家にたどり着くわけがない
では、どうぞ
羽月さんの俺にとって衝撃的な重大発表を終えた次の日。最初俺にも何か仕事があるのかと思って身構えていたんだが、仕事は1件も来ない。俺としては助かるのか嘆かわしいのかわからないが、仕事が来ない時は家の事に専念できるから助かる。そんな俺、藤堂遊の今の状態は
「何で俺が香月の付き人みたいな事してんの?」
「だって、私の友達が遊に会いたいって言うし……」
香月の付き人よろしく、香月に連れ出されていた。遊華の次は香月かよ……これは美月も覚悟しておいた方がいいよな?
「会いたいのはわかったが、何で会いたいのか知ってるのか?」
「遊の手料理を食べたいとか言ってた」
ほっ、今度はストーカー退治しろとか言われなくてよかった……
「用件はわかったが、俺は基本的にその場でメニューを決める。つまり、香月の友達に会ってから何を作るかを決めるからな。それでOK?」
「うん、その友達にも事前に話してあるから」
「ならいい」
香月の友達かぁ……正直どんな人か想像つかないんだが?前の香月がクール系だったからやっぱり友達もそれ系統なのかな?
「ところで、待ち合わせとかしてないのか?さっきから歩きっぱなしなんだが」
「大丈夫だよ。遊」
何が大丈夫なんだ?俺は待ち合わせをしてないのか?っていう事と歩きっぱなしなんだという事を言っているのであって、疲れてるか否かを聞いてるわけではない
「大丈夫って何が?」
「もう着いたから」
俺の目の前には大きなマンションがあった。こんなデカいマンションに住めるほどの人っていったいどんな人なんだ?
俺と香月はエントランスに入り、香月が部屋番号を入力し、家主を呼び出す。その間の俺はエントランス全体を見回す事しかできないのだが……
「遊、行くよ?」
「あ、ああ、わかった」
気が付けば香月は家主と諸々の話を終え、中に入るところだった。
「遊はこういうところは初めて?」
「ああ、俺の周囲にはこんなマンションに住んでる友達なんていないし、遊ぶときはいつもゲーセンとかどっかの店に入ってで家に遊びに行くなんてことはこの年になってからはあまりした事がない」
「そっか……」
香月はどことなく嬉しそうだが、何かいい事でもあったのかな?
「香月、妙に嬉しそうだがどうした?」
「いや、遊の友達の事を聞けて嬉しかったからついね」
そう言われると俺としてもむず痒い。そうこうしているうちにエレベーターが到着したようだ
「12階まであるのか、このマンションは……」
別に高所恐怖症ではないが、12階まであるマンションには驚いてしまう。12階のマンションそのものではなく、そこに住んでいる人に対してだが
「私の友達はその12階に住んでいるんだよ」
「一体どんな友達なんだ……」
自分の身内の友達が高級マンションの最上階に住んでる事にさらに驚いてしまう
「別に普通の友達だよ?結婚して夫がいるけどね」
「夫の稼ぎが良かったのか?それとも……いや、これ以上は下世話な話になるから止めておくか」
「そうだね、それに遊の事を言い出したのは友達の夫の方なんだ」
「へ?」
つい間抜けな声が出てしまったが、俺の知り合いにはこんな高級マンションに住んでる知り合いはいない。香月の友達の夫が俺を指名する意味がわからない
「私も友達から聞いただけなんだけど、夫は遊の高校の時に同じクラスだったらしいんだけど……」
「う~ん、覚えがないなぁ……」
ここまで来ると本格的に誰かが皆目見当もつかない
「着いたらわかるか……」
「うん、そうだね。私も会うのは久しぶりだし」
そのまま何事もなく目的の階に着くと思っていた。だが……
「ん?何だ?急に止まったぞ?」
「うん、しかもまだ6階に着いてないのに……」
「機械トラブルか?」
「多分そうだと思う」
俺と香月は5階と6階の間でエレベーターの中に閉じ込められたという事になる。まぁ、どうせすぐに解消されるだろうし、気長に待つか。香月が非常用のボタンを押したみたいだし
「香月、どうだった?」
「うん、機械トラブルだからすぐ直るとは言ってた」
「そうか、ならしばらく待つか」
「うん」
俺と香月は密室のエレベーターの中でしばらく2人っきりで過ごす事になるのだが……
「香月と2人きりになるのは遊園地以来か?」
「うん、遊園地の観覧車以来になるね」
遊園地の観覧車以来という事はそんなに時間は経っていないという事になる。家では滅多に2人きりになる機会がない。それは香月に限った事ではない
「遊園地の観覧車じゃなくて今度はエレベーターの中で2人きりになるとはな。香月と行動すると俺は乗り物の中で2人きりになる機会が多いのか?」
「私としてはリアクションに困る質問なんだけど……」
香月は苦笑いを浮かべているが、俺も同じ事を質問されたらきっと同じ事を言うだろうな
「ごめん、リアクションに困る質問をして」
「いいの。遊と話してるときはどんな時でも楽しいし」
「そうか、そう言ってもらえると助かる」
こんな時でも2人して笑い合ってるなんて案外俺と香月って似た者同士なんじゃないか?
「それにしても暇だな」
「うん、そうだね。機械トラブルって言ってたけど、そんなに時間掛かるものなのかな?」
「さぁな。まぁ、機械トラブルの内容にもよるだろ。今の俺たちには待つ事しかできないし」
「遊は……」
香月が一瞬何かを言いかけ、それを飲み込んでしまった。香月は何を言いかけたんだ?
「どうした?香月」
「ううん、何でもない」
「そうか?ならいいんだけど」
俺はこの時に香月の言いかけた事を聞き出す事もできたが、無理に聞き出しても意味がない。こういうのは本人が話したいと思う時に話してもらうのがいい。少なくとも俺はそう思う。
「遊は元の世界に戻りたいと思う?」
「え?」
香月がいきなり元の世界に戻りたいのかなんて質問をするなんて珍しいな
「遊は元の世界に戻りたいのかなぁ……なんて思って聞いたんだけど、忘れて」
「忘れない」
「遊?」
「元の世界に戻れるなら戻りたいが、戻れないならこの世界で香月や美月、羽月さんや遊華や父さんと過ごすのも悪くないと思っている。」
今の言葉が俺の嘘偽りない本心だ。戻れると思って希望を抱いていて、それが叶わなかった時に絶望しない為、戻った時に親父や遊華はいるだろうが、香月や美月、羽月さんがいない喪失感に苛まれない為に出た言葉だ。結局、俺はどっちつかずの臆病者って事か
「そっか、遊はどんな結果に受け入れるようにしているんだ」
「いや、俺はただの臆病者さ。始めは信じられなかったが、香月や美月、羽月さんと過ごすのも悪くないと思う自分もいるんでな」
「私たちといると楽しいんだ……」
「まぁな」
香月と2人きりになるとこんな話ばかりしている気がするな。長女だからか?
「お腹すいた」
香月は唐突に空腹を訴えてきた。さっきまでシリアスな空気だったのに何で唐突にそれを壊すんだ?
「俺も腹減ったが、食えるものは何も持ってないぞ」
「私も食べ物は何も持ってない」
俺と香月は2人共食べるものを持っていない。元々、香月の友達の家に呼ばれて行くだけだった。まさかエレベーターに閉じ込められるとは思っていなかったからな
「ずっと立ちっぱなしじゃ辛いだろうし、座るか」
「うん、私も立ったままは疲れるから座る」
俺と香月はエレベーターの端により、2人並んで座る。はぁ、いつになったらエレベーターは直るんだ?
「あ、直ったみたいだよ」
「本当だ」
俺と香月が座っている間にエレベーターが直ったみたいだ。一時はどうなる事かと思ったが、直ったようで何よりだ
「ようやくたどり着けるね」
「そうだな。まぁ、俺にはその後で料理をするって作業が残っているがな」
「うん、おいしいの期待してるね」
「任せろ」
傍から見れば俺と香月の会話は新婚夫婦のそれに聞こえるだろう。この時だけは周囲に人がいなくてよかった。心からそう思う。
それから俺と香月は少し歩き、目的地に到着した。ここに来るまで長いと感じるのはきっとエレベーターに閉じ込められたからだな
「さて、着いたよ。遊」
「ああ、ようやく着いたって感じだな」
「じゃあ、インターホン鳴らすね」
香月がインターホンを鳴らした。俺としては香月の友達よりもその夫の方が気になる。主に俺の知り合いがどんな奴なんだ的な意味で。決して男色とかそういう趣味の方の意味ではない
『香月、今開けるわね』
インターホンから女性の声が聞こえてきた。どうやら香月の友達らしい
「うん、待ってるね」
短い時間だが、俺と香月は再び待たされる事となった。
「待たせたわね、香月」
「ううん、そんなに待ってないよ」
「そう。それより、そちらが遊君?」
「うん、私の義弟の遊。ほら、遊、自己紹介して」
香月、俺は初めて同年代の子と遊ぶ子供じゃないぞ……全く、姉としての見栄か?
「初めまして、香月の義弟の遊です」
「あら、意外と礼儀正しいのね」
おいコラどういう意味だ?俺は初対面の人には礼儀正しいぞ?初対面の人間にはな
「そんな事ないよ。これで結構生意気なところあるし」
よし、今回はどんな食材があるかは知らないが、コイツ等に食べ物を無駄にしない方向で嫌がらせしてやろう。香月よ、俺はお前等の前で生意気な事をした覚えもなければ言った覚えもない。俺の基準ではな!
「立ち話もなんだから中へどうぞ」
女性は自宅の中へと案内してくれたが、俺は緊張しているやら夫の方が気になっているやらで家具の配置などを見ている余裕がなかった。よって、料理のメニューなど考えていない!嫌がらせは決定事項だがな!
今回は遊が香月の友達の家に遊びにお呼ばれする話でした
エレベーターに閉じ込められるというハプニングがありましたが、無事にたどり着いて何より
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました