俺が羽月さんに差し入れをする件について
今回は遊が羽月のところへ差し入れを持って行く話です
遊の定番料理と言えばあれしかあるまい
では、どうぞ
俺の精神に多大なるダメージを与えたラジオ生放送を終えた俺、藤堂遊は至福の一時を堪能している最中である。ラジオ生放送で新たな問題が発生したが、そんな事はこの時だけは忘れる事にしよう……というか、忘れたい。だが、そうも言ってられない。なぜなら、俺は今……
「せっかくの至福の一時に何で俺は天ぷらを揚げてるんだ?」
天ぷらを揚げてる。これは俺の意思ではなく、羽月さんに頼まれたのだ
「単なる口約束だと思ってたのに、まさか本当に頼まれるとは……」
あれは羽月さんが仕事に出かける前の話だ……
「ねぇ、遊君」
「はい、何ですか?羽月さん」
「前に私の事務所に差し入れ持ってくるって約束したわよね?」
そういえば前にそんな約束したなぁ……
「はぁ、そんな約束しましたねぇ……」
「その約束、今日守ってね」
「はい?」
いきなり何を言い出すんだ?この人は
「だから、今日差し入れ持ってきてね。差し入れはもちろん天ぷらね」
「はぁ、構いませんけど」
「じゃあ、よろしく」
以上!回想終わり!そして、現在俺は天ぷらを揚げています。ちなみにだが、材料は予め用意されていた。羽月さんは最初から今日俺に天ぷらを用意させるつもりだったらしい……
「はぁ、事務所の人全員はきついぞ……」
正直、全員分用意するのはめんどくさい……結論、羽月さんが勝手に言い出した事だ。そして、天ぷらの差し入れを用意した。という事実があればいいわけで、別に家で揚げる必要はない
「さて、行くか」
俺は鞄とクーラーボックスを持って家を出た。まぁ、羽月さんは天ぷらを食える。俺は天ぷらを差し入れできた。文句はあるまい
「あれ?お兄ちゃん、どこ行くの?」
家を出ようとしたところに遊華が声を掛けてきた。そうだ!材料は余分にあるみたいだし、遊華に車を出してもらうか
「ちょっと羽月さんの事務所まで行くんだが、遊華」
「ん?何?」
「俺と羽月さんの事務所までドライブデートしないか?」
「え……?」
遊華よ、そんなに驚く事か?まぁ、俺なら驚くがな
「何だ?したくないのか?」
「したい!する!待っててお兄ちゃん!すぐ準備するから!」
遊華は慌ただしく家の奥に去っていき、慌ただしく戻ってきた
「準備できたようだし、行くか」
俺と遊華は戸締りを確認し、車に荷物を積み、俺は助手席に乗り込んだ。こんな時に免許を持ってない自分が恨めしい
「さぁ、お兄ちゃん!出発するよ」
女心を弄ぶようで気が引けるが、単なる足に使われたとばれたら面倒だ。遊華のご機嫌を取っておくか
「おう、愛しの妹よ、よろしく頼むぞ」
「なっ!?もう……ばか……」
遊華よ、顔を赤くしてそんな事言っても説得力ないぞ?
「バカでも何でもいいから、連れて行ってくれたら天ぷらを食わしてやろう。しかも、揚げたてだ」
「本当!?」
俺も天ぷら好きだが、遊華の天ぷらに食いついてくるところを見ると俺たちは兄妹なんだと実感させられる。敬や親父は俺が実妹って言うと含みのある言い方で返してくるがな
「遊華の運転する車に乗る日が来るとはな」
「私も助手席にお兄ちゃんを乗せる日が来るとは思わなかったよ」
「お互いに意外な事だって事だな。俺が未来に飛ばされた事を含めて」
「うん……そうだね」
遊華の表情が一瞬悲しげなものになったのは気のせいか?それとも、俺が未来に飛ばされた事に思う事でもあるのか?
「遊華、俺が飛ばされた事は今は置いといて、今日の事を考えよう」
「うん!」
よし、遊華が元に戻った!やっぱり遊華は笑顔が1番だな。あれ?俺は今、遊華の笑顔でときめかなかったか?気のせいかな?気のせいだよな。仮に遊華の事が好きだとしてもそれを伝えるのはこの世界じゃない
「遊華、後どれくらいで着く?」
「あと5分くらいかな?」
「そうか……」
俺と遊華は羽月さんの事務所に着く間はお互いに無言だった
「さて、着いたな」
「うん、そうだね」
俺と遊華は羽月さんを呼び出してもらう為に受付に行く事にした
「あの、藤堂羽月さんをお願いしたいんですが」
「はい、藤堂社長とお約束ですか?」
え?社長?羽月さんって社長だったの!?家ではそんな事は一言も言ってなかったぞ!?
「はい、息子が差し入れを持ってきたと伝えてください」
「わかりました。少々お待ちください」
受付の女性は内線で羽月さんに連絡を取ってくれた。
「藤堂社長が社長室に来るようにとのことですので、ご案内します」
「よろしくお願いします」
俺と遊華は社長室に通された。それよりも遊華がさっきから無言なのは何でだろう?
「社長、息子さんがいらっしゃいました」
『どうぞ、通して』
羽月さんの返事が社長室から聞こえ、通すように言われた受付嬢がドアを開ける
「どうぞ、遊さん」
「ありがとうございます」
受付嬢はドアを開けて下がった。というか、こういうのって秘書の役目じゃないの?とか思った俺はドラマの見すぎなんだろうか?
「さて、遊君」
「はい」
「天ぷらは?それと、遊華ちゃんは今日はお仕事の打ち合わせはないはずよ?」
うん、いろいろとツッコミたい。もうどこからツッコんでいいかわからんし、きっとツッコんじゃいけない気がする
「今日はお兄ちゃんに頼まれて来ました」
「はい、俺が遊華に頼みました。それと、天ぷらはここで揚げます」
「「ええ!?」」
遊華はともかく、羽月さんは何で驚いてるんですか?
「ちゃんと材料は持ってきてます。後は空き部屋1つ用意て頂ければいつでも天ぷら揚げられるんですけど……」
「すぐに用意するわ!」
羽月さんはもの凄い早さで空き部屋を用意してくれた。そして、俺と遊華はあっという間に空き部屋に通される事になったところを見るに羽月さんは余程天ぷらに飢えてたらしい
「さて、揚げるか」
「お兄ちゃん、何か手伝うことある?」
「俺の傍にいてくれるだけでいい」
チャラ男臭いが、遊華に火傷とかさせたくない……それに妹と2人での料理は家の中でゆっくりしたい
「うん、わかった」
遊華に見守られながら天ぷらを揚げ続けて数分後、持ってきた材料は全て使い果たした。おかわりとか追加を所望するなら食材と材料は自費で頼む
「遊華、羽月さんを呼んできてくれないか?」
「わかった、行ってくるね。お兄ちゃん」
遊華は羽月さんを呼びに社長室へと向かった。今更なんだが、これを羽月さん1人で食べきれるわけがないし、そこへ俺と遊華を加えてもとてもじゃないが食いきれんぞ
「遊君!来たわよ」
「そこにあるので食べ方はお好きなように。そのまま食べるもよし、ご飯に乗っけて食べるもよしです」
「わかったわ。じゃあ、みんなお昼にしましょ」
羽月さんの後ろから事務所の人たちがぞろぞろと入ってきた。なんか材料が多いと思ったら、この人は社員全員に食わす気だったのか……
「さて、全員集まったところで重大発表です!はい、みんな注目!」
羽月さんは部屋の中央に立って手をパンと叩いてその場にいる全員の注目を集めた。重大発表って何だ?誰か結婚でもするのか?それとも、誰か退職でもするのか?
「遊華は重大発表の内容わかるか?」
「うーん、わかるって言えばわかるんだけど、私からは言えないなぁ……」
遊華が知ってても言えない事?俺には全然心当たりがないし、そもそも、俺がいていいのか?
「そうか、何はともあれ羽月さんからの発表を大人しく聞いておくか」
俺は心のどこかに引っかかるものを残しながらも羽月さんの発表に耳を傾ける事にした
「今回、皆さんが食べてる天ぷらは私の義理の息子である遊が揚げました」
羽月さんの発表に周囲からは歓声が上がり、一気に盛り上げった
「その遊ですが、何と!うちの事務所に所属する事が決まりました!」
はい?俺は所属する事を承諾した覚えはないし、大体、履歴書すら書いて送ってない。それに、オーディションを受けた覚えも専属の契約を結んだ覚えもない!
「おめでとう!お兄ちゃん!これで私たちと同じ事務所だね!」
「いや、祝われても困るんだが?というか、既に困っているんだが?」
「え?だって、お兄ちゃんにラジオの生放送の後に言ったでしょ?」
あー、そんな事を言われたなぁ……認めたくなくて現実逃避してたわ
「身に覚えがありません。遊華さん」
「…………お兄ちゃん?」
遊華さん、そんなジト目で見ないで?っていうか、遊華は私たちとか言ってなかったか?
「遊君!出てきてあいさつしなさい」
羽月さんからの死刑勧告!俺は遊華にも誰にも気づかれないようにして部屋から出ようとした
「どこ行くの?お兄ちゃん?」
遊華にあっさりと捕まってしまった俺とそんな俺に注目する事務所の人たち
「ちょっとトイレに……」
「遊君!逃げないの!」
羽月さんからのきつい一言!俺は逃げ場を失った!
「お兄ちゃん、諦めなよ」
遊華、お前は兄を可哀そうだとは思わないのか?兄に対する情けとかないのか?
「遊君、みんなに何か一言!」
羽月さんの位置まで連行された俺は例えるなら公開処刑を受ける死刑囚と言ったところか。もちろん死刑執行人は羽月さんで事務所の人たちは見物客か野次馬だ。OK、羽月さんと遊華がその気なら俺は親父から見習った女を口説くスキルを発揮しようじゃないか
「皆さん、ただいまご紹介に預かりました藤堂遊です。いやぁ、俺は幸せだなぁ……」
その場にいる全員が頭に?マークを浮かべている。よし、誰か質問して来い!
「何が幸せなのかしら?遊君」
よし!羽月さんが質問してきた!ふっ、俺はこういう事に関してはやられたらやり返す人間なんだよ!
「何がってそりゃ事務所の人は美男美女だし、その事務所の社長は美人で頼れる義母なわけですし。それに俺の最愛の妹である遊華もいるし……俺にとってこれ以上の幸せはありませんよ」
人間、褒められて嫌な気がする人はいない。それは羽月さんや遊華を始めとする事務所の人間も例外ではない。まさか、親父の女を口説くスキルが役に立つとは……男を褒めてる時点で女を口説くスキルじゃないがな!
「遊君!これからは私をたくさん頼ってね!」
「お兄ちゃん!私でもいいからね!」
羽月さんと遊華を筆頭に事務所の人たちが次々と俺を取り囲んでアピールしてきたところを見るに俺の作戦は半分成功で半分失敗と言ったところか……
こうして俺、藤堂遊は羽月さんの事務所に所属する事が決定した。まぁ、学校には通ってないので別に構わない。いつ元の世界に帰るかわからないのに学校に通ってられないし……それなら仕事をしていた方がマシか……俺は無理やりにでも自分にそう言い聞かせるのであった
今回は遊が羽月の元へ差し入れを持って行く話でした
遊と言えば天ぷら!他にもあるような気はしますが
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました