俺が上の空になりつつある件について
今回は遊が上の空になりつつある話です
遊が異性にキスするとある人物が暴走しますが、さて誰でしょうか?
では、どうぞ!
今まで特に意識していない異性に告白されたら当然意識してしまうだろう。これは仕方のない事だ。だって、いきなり好きですとか言われたら嫌でも意識するだろう。じゃあ、今まで義姉と思っていた人からいきなり頬とはいえ、キスされたらどうだろう……俺、藤堂遊は悩んでいた。いや、美月を意識していた。と言っていた方がいいのか?
「……ちゃん!」
「はぁ……」
「……いちゃん!」
「どうしてあんな事を……」
「お兄ちゃん!」
「!?何だ、遊華か……」
俺は昨日の事……美月に頬とはいえキスされたことを考えていた
「何だとは失礼な!それよりもどうしたの?ぼーっとして」
「あ、いや別に……」
「な~んか怪しいな~」
「そ、そうか?」
俺は遊華に呼ばれている事すら気が付かないくらいに美月を意識しているらしい
「お兄ちゃん!お鍋!お鍋!吹き零れてるよ!」
「うわっ!?あちっ!」
俺は朝の味噌汁を作っている最中で現在進行形で鍋を火にかけている事を忘れていた
「お兄ちゃん!?大丈夫!?」
「あ、ああ。問題ない。大参事にならなくて済んだよ。ありがとう、遊華。ところで何で遊華が俺に起こされなくても起きるなんて珍しいな」
「私だって1人で起きられるもん!」
遊華はぷくーっと剥れてしまった。っていうか24歳の女性が“もん”って可愛いな
「ああ、そうだな。遊華は偉いなー、1人で起きられるなんてすごいなー」
「お兄ちゃん、棒読みで褒められても嬉しくないよ」
遊華よ、ジト目で見ないでお兄ちゃん悲しい!
「遊華、悪いが香月と……美月を起こしてきてくれ」
「お兄ちゃん、なんで香月お義姉ちゃんと美月お義姉ちゃんとの間は何?」
「べ、別に、な、何でもない」
「お兄ちゃん?」
「いいから、早く起こしてこい!」
「わかったよ……むうぅ~」
遊華は不満をブツブツ言いながらも香月と美月を起こしに行った。その間に俺はさっさと朝飯を完成させるか
「さて、こんなもんか……いや、待て……味見だけしておくか」
俺は昨日のキスの件でぼーっとしてたからな。味が変になってないか心配だ
「よし、味噌汁はOK、飯も問題なく炊けてる。ぼーっとしていても味付けはできてる!慣れって恐ろしいな…………」
味付けに問題はないとしても、やはり美月と……いや、キスされた相手と同じ家ってのは気まずいな……
「お兄ちゃん、お義姉ちゃんとお義母さん起こして来たよ」
「おお、サンキュ遊華」
俺は人数分の味噌汁をよそい、キッチンからリビングへと向かう。
「ほれ、味噌汁」
「うん、ありがとう。遊。それと、おはよう」
「ああ、おはよう香月」
俺は1番近かった香月の席に味噌汁を置いた
「おはよう、遊君。後は私たちでやっておくわね」
「おはようございます、羽月さん。味噌汁の配膳よろしくお願いします」
羽月さんに味噌汁の配膳を任せ俺はキッチンへと戻る
「ゆ、遊ちゃん、お、おはよう」
「あ、ああ、おはよう。み、美月」
美月は頬を赤らめてあいさつをしてくる。いかん!いかん!意識するな!俺!
「「…………」」
おそらくだが、美月も昨日した事を思い出しているのだろうか……俺と目を合わせてくれない
「お兄ちゃんもお義姉ちゃんもどうしたの?顔を赤くして黙っちゃって」
「「うわぁ!?」」
キッチンにやってきた遊華が突然声を掛けてきたので俺と美月は変な声が出てしまった
「何?2人とも変な叫び声出して」
「い、いや、な、何でもないぞ?な、なぁ、美月?」
「そ、そうだよ!何でもないよ!ね?遊ちゃん?」
「ふぅ~ん」
ヤバい!遊華のヤツ絶対に怪しんでる……あの顔は私怪しんでます!って顔だ……
「そ、それより!遊ちゃん、何かお手伝いできることない?」
「じゃ、じゃあ、魚でも運んでもらおうかな」
「うん!任せて!」
美月は俺から焼き魚を受け取るとそれをリビングに運び、戻ってくるを2回繰り返した。俺の分の焼き魚は自分で運んだから美月は2回往復するだけでいいのだ
「「「いただきます」」」
「…………」
「…………」
「美月ちゃん、遊君、どうしたの?」
「え?」
「ど、どうもしないよ?」
「遊も美月もぼーっとしてたけど?具合でも悪い?」
「い、いや、俺は別に普通だぞ」
「う、うん!私も普通だよ?」
俺も美月も言動に出てたか……
「……お兄ちゃん、後で私の部屋に来て」
「?あ、ああ。わかった」
俺は遊華に呼び出しを喰らったが、ここではできない話か?
俺はどうやって朝飯を食べたか覚えていない……それ以前に朝飯食べたっけ?
「遊華に部屋に来るようにって言われてたっけ……」
どんな話かは知らんが、行かないと後でうるさそうだ……はぁ、気が重い……
「遊華ー、来たぞー」
俺は遊華の部屋のドアをノックし、返事を待った。いくら妹でもノックするのは大事だな
『どうぞ、入っていいよ』
中から遊華の入室許可が出た。返事だけ聞くと状態的には普通だな
「遊華、話ってなんだ?」
「お兄ちゃん、昨日の話なんだけど」
「昨日の?」
「うん、とりあえず座って」
「ああ」
俺は遊華に言われた通りに椅子に腰かけた。この時、俺は完全に油断していたのかもしれない……
「飲み物持ってくるからちょっと待ってて」
「ああ、わかった」
「リクエストある?」
「炭酸系のやつ」
「ん、りょーかい」
遊華は部屋から出て、キッチンに向かった。
「はぁ、俺に話ってなんだろ……?」
俺には身に覚えのない……事もないが、だが、身に覚えがほぼない
「お兄ちゃん、お待たせ」
「そんなに待ってない。大丈夫だ」
遊華が2人分のリンゴジュースを持って戻ってきた
「それでね、お兄ちゃん。呼び出した理由なんだけど」
「ああ、何だ?」
俺も遊華もジュースを飲みながら話しているが、遊華の次の言葉を聞いた瞬間に衝撃を受けた
「昨日、美月お義姉ちゃんとキスしてたことについてなんだ」
「!?」
なぜ遊華がそれを知っている!?美月がしゃべったのか!?
「なぜ知っている?って顔してるね」
遊華は全てをお見通しなのか、俺の思っている事を的確に当ててきた
「何の事だ?」
ここは誤魔化すしかない!何となくだが本能がそう知らせてくる
「誤魔化しても無駄だよ。お兄ちゃん。私はお兄ちゃんの事なら何でも知っているんだから」
「別に誤魔化してない。本当にわからないんだ」
「へぇ、そんなこと言うんだ……」
遊華は思い切り机を叩いた。叩いた衝撃でコップが落ちたが、幸いな事に中身は空だったので床が濡れるという心配はなかった
「!?」
「ねぇ、何で嘘吐くの?何で他の女に簡単にキスなんてされてるの?お兄ちゃんは私のなのに何で?美優といい、由紀といい、香月お義姉ちゃんといい、美月お義姉ちゃんといい……どうしてお兄ちゃんは他の女ばかり見て私を見てくれないの?私じゃ不満なの?ねえ、答えてよ、お兄ちゃん。答えろ!!!!」
「ゆ、遊華?」
昨日今日始まった事ではないが、最近の遊華は輪をかけて変だ。なんかこう、狂気に似た何かを感じる
「何?お兄ちゃん?早く私の質問に答えてよ。それとも疚しい事でもあるの?」
「別に疚しい事なんてないし、俺は秋野さんや冬野さん、香月や美月もそうだが、恋愛対象としては見ていない。遊華も例外じゃない。よって不満も何もない」
「……けるな」
「え?」
「ふざけるな!!ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁぁ!!」
「ゆ、遊華、どうしたんだよ!?」
遊華は同じ事を壊れた人形の様にブツブツと呟いてたと思ったら最後は叫びだした
「お兄ちゃんには私だけいればいいんだ!他の女なんて必要ない!私だけを見ていればいいんだ!お兄ちゃんのファーストキスは私のものだ!」
あ、こうなった原因わかった。遊華はきっと誤解してるんだ
「お、落ち着け!遊華!美月にキスされたが、唇じゃなくて頬だぞ!?」
「え?」
猛獣のように荒れ狂っていた遊華が一瞬で大人しくなった。
「何で荒れてたかは知らないけど、俺が美月にキスされた場所は頬だ。唇じゃない」
「じゃ、じゃあ……唇だと思っていたのは、私だけ?」
「そうだな、遊華だけだな」
「へぇ~、ふぅ~ん、そっかぁ~、お兄ちゃんの唇はまだ誰にも奪われてないんだぁ~」
遊華の表情が狂気染みたものから穏やかなものに変化した
「まぁ、言い方はあれだが、そういう事だ」
「じゃあ、私はお兄ちゃんに印をつけるね」
「は?何を言っているんだ?」
「動かないで……」
遊華は俺の首筋に顔近づけ、そして……
「いっつ……!?」
遊華は俺の首筋に噛み付いた
「ごめん、お兄ちゃん。痛かった?」
「大丈夫だ」
「そう、よかった……」
「何がだ?」
「何でもな~い。それよりもお兄ちゃん、これ見て」
「何だ?」
俺は遊華に渡された鏡に首筋を写し、鏡越しに確認してみると……
「何だこれ?歯型?」
俺の首筋にはくっきりと歯型が残っていた
「うん、私の物っていう証の歯型。唇にキスはお兄ちゃんからしてほしいし、今この場にナイフと救急箱ないから歯型で我慢してあげる」
ナイフと救急箱がなくて助かった。あったら遊華は俺の身体に名前を彫っていた。そんな気がしてならなかった。
「遊華、最近のお前は俺に関する事になると見境がなくなっているような気がするんだが、気のせいか?」
「何?そうだけど文句でもあるの?当たり前でしょ?お兄ちゃんは私の物なんだから。お義姉ちゃんたちが関わる前はお兄ちゃんは私だけを見てくれた。だけど、お義姉ちゃんたちが関わってからはお兄ちゃんは私だけを見てくれなくなった。そんなの嫌!私はお兄ちゃんに私だけを見てほしい!やっと素直にお兄ちゃんと接する事ができるのに……」
遊華……俺がお前の事を追いつめてしまったのか?
「遊華、俺がお前をそんな風にしてしまったのか?」
「違うよ、お兄ちゃん。私は元からこうだよ。お兄ちゃんを独占したくて仕方ないの……」
俺は不覚にもこの時、遊華に愛されていると感じてしまった。一般人から見たら歪んでいるかもしれないがな。自分が見捨てるとコイツは壊れてしまうと思う。だが、香月と美月はどうだ?あの2人も根本的な部分は遊華と何も変わらないんじゃないか?
今回は美月の事を気に掛ける遊と暴走する遊華でした!
そう!暴走したのは遊華でした!
自分の中では遊華の暴走具合は今回が1番のような気がします
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました!