俺が遊華たちと答え合わせをする件について
今回は遊が遊華たちのした事の答え合わせをする話です。
遊が何か母親みたいになってしまった
では、どうぞ
遊華から始まり、美月で幕を閉じたキス騒動が終わり、3人が思っている事を聞いた俺と俺に想いの全てを吐き出した3人。これにて一件落着と思うだろうが、そうはさせない。まだ答え合わせが残っているからな
「さて、遊華たちは俺とキスできて満足だろうが、俺はまだどうしてこんな事をしたか聞いてない」
「「「…………」」」
遊華たちを見つめる俺と俺から気まずそうに視線を反らす遊華たち。そこに流れるのは何とも言えない空気だけだった
「言えないのか?なら、今から俺の考えを言うから間違ってたら言ってくれ」
「「「…………」」」
どうやら自分から理由を話そうって言う奴はこの3人の中にはいないらしい。それはそれで構わない。俺が考えを言って間違ってたら訂正が入るだろう
「そもそも、この旅行……いや、仕事自体は羽月さんとスタッフが提案した事に間違いはない。ただ、仕事を受けた時に遊華たちは俺に話すつもりでいた。ここまでで間違いはあるか?」
「「「…………」」」
俺の考え……いや、仮定を訂正しないところを見ると合っているらしい
「続けるぞ?遊華たちは素直に話すつもりでいたが、羽月さんからドッキリの提案と日頃俺に言えない想いや、俺としたくてもできない事をしていいんじゃないか?と言われ、最初は3人とも拒否したが、最終的にはOK を出した」
「「「ごめんなさい……」」」
遊華たちが口を開いたかと思えば出てきた言葉は謝罪の言葉だったが、俺はそんな言葉を聞きたいんじゃなくて、どうしてこんな事をしたかを聞きたいんだよ
「はぁ……旅館に着いた時の俺と2人きりの時間をそれぞれ最初に決めてはいたが、俺が遊華たちを抱き枕にしたりするのは予想外ではあったが、願ったり叶ったりだった」
「「「はい、そうです……」」」
仁王立ちの俺と正座している遊華たちだが、今の遊華たちは明らかにシュンとしている。俺に強引にキスしてきた人物とは思えないくらいだ
「別に責めてるんじゃない。俺は本当の事が知りたいだけなんだ。だから、そんなにシュンとしなくてもいいんだぞ」
責めてるわけじゃない。俺はただこんな事をした理由が知りたいだけなんだ。だから、シュンとされたら知りたい事も知れない
「言っても怒らない?」
俺を見つめる遊華の目には不安の色が浮いている。まるで悪戯がバレた時の子供のようだ。はぁ、こんな事で怒っていたら俺は常に怒っていなきゃならない事になる。主に親父に対して
「怒らない。こんな事で怒ってたら親父なんてしょっちゅう怒らなきゃならない」
ある意味、この家族に怒るのは無駄なのかもしれないと俺は諦めてるの節がないとも言い切れないが、この件に関して遊華たちを責める気にはなれないのも事実だ
「本当に怒らないって遊は約束できる?」
香月よ、俺ははできない約束はしない主義だって前に言ったはずなんだがなぁ……
「ああ、約束する。本当に怒らないよ」
あれこれ言っても始まらないので、怒らないと約束しただけで済ます。理由を知った後でどうするかは知らんけどな
「遊ちゃん、遊ちゃんなら理由はもうわかっているんじゃないの?」
理由か……見当は付いてるが、わかってはいない。そもそも、わかっているなら俺は行動に移しているし、わざわざ確認なんてしない
「いや、全くわからん。ドッキリを仕掛ける奴らだからな。どんな理由でこんな事をしたか皆目見当もつかない」
時々理由もなくドッキリや悪戯をする俺には特大のブーメランだろうが、俺は遊華たちや羽月さん、ひょっとしたら親父もだが、そいつらみたいに他人を巻き込んだドッキリや悪戯はしない。自分1人で考え、自分1人で実行する
「「「グスッ……ごめんなさい……」」」
遊華たちは泣き出してしまった。あれ?さっきの言い方が冷たかったか?それとも、俺が怒っているように見えたか?
「いやいや、謝ってほしいんじゃなくて、こんな事した理由を説明してほしいんだけど?」
冷たい言い方になるが、謝るくらいなら理由を説明してほしい
「お兄ちゃんに異性として、恋愛対象として意識してほしかった……」
遊華がポツリと俺に異性として、恋愛対象として意識してほしかったと言った。だが、実際は異性として、恋愛対象として意識する事もそうだが、強引にキスってどうよ?
「だからこんな事したのか……」
無言のまま頷く3人。理由はわかったけど、はぁ……俺は言葉が出ない。1番の理由は旅行や仕事の事を秘密にしていた事だ。幽霊の言い伝えはこの旅館の女将もグルだって考えれば納得がいく
「「「ごめんなさい……」」」
頭を抱える俺に泣きながら謝る遊華たち。許さないとは言ってないし、謝れとも言ってない。俺は呆れる気も怒る気もしない
「謝らなくていいけど、異性として、恋愛対象として意識させるなら旅行の事を素直に言って、特別な服や下着を着けるって言えば俺だって旅行中に遊華たちをずっと意識してたんだけど?」
呆れも怒りもしないが、旅行に行くにあたって特別な服や下着を見せるって事くらいを言えば簡単に意識するという指摘はさせてもらう
「「「あ……」」」
何?その思い付かなかったみたいな反応。え?俺が間違ってるの?幽霊騒動まで起こして強引にキスするよりも早いと思うんだけど?
「え?思い付かなかったの?」
俺の言葉に無言で頷く3人。3人いれば文殊の知恵って諺があるのに遊華たちは3人いて思い付かなかったの?マジで?
「遊ちゃんに言われて初めてその手もあったかって思った」
いやいや、美月さん?男の俺が簡単に思い付くのに年上で恋愛アニメのアフレコもしてきたであろう声優のあなた方が思い付かなくてどうしますか?
「ごめん、頭痛いから俺は寝る」
実際には痛くないが、遊華たちのうっかりに頭が痛くなる俺。3人ともきっと欲望に負けたんだな……年上女性3人と旅行に行けるだけでも羨ましがる男子はいるし、遊華たちは見た目だって悪くない。それを利用したらよかったのに……
「大丈夫?お兄ちゃん?」
遊華が心配そうに声を掛けてくる。大丈夫か?って聞かれると大丈夫じゃない。主に疲労感が
「大丈夫じゃないから遊華たち3人で俺を看病するなり癒してくれると助かる」
「「「いいよ!」」」
冗談だったんだが……即答する遊華たちを前に今更冗談とは言えず、俺は遊華たちの手厚い看病を夕食ギリギリまで受ける事となった
「あー、ようやく今日が終わる」
朝から撮影があり、戻ってきたら戻ってきたで遊華が暴走し、強引にキス。遊華1人だけならいいが、香月、美月と立て続けにあり、俺は疲れた。いや、疲れてるはずなんだが……
「寝れない……」
不思議と寝付けない。眠くなるのを待ってるのもいいが、喉が渇いたな
「ジュースでも買いに行くか」
俺の上で寝てる美月を起こさないようにして退かし、財布と念の為に携帯を持ってロビーの自販機まで行く
「寝れないのにコーヒーはまずいよなぁ……」
普段は深夜でもコーヒーを飲むが、今はそんな気になれない
「あー、適当に選ぶか」
自販機の商品を全部見ていたらキリがないので、目に付いたコーヒー以外の飲み物を適当に選んだ。
「メロンソーダか……」
俺は目に付いた数ある商品の中からメロンソーダを選んだ。だが、問題はこれをどこで飲むかだ
「部屋だと遊華たちが寝てるからなぁ……」
部屋でメロンソーダの缶を開けると、開けた時の炭酸の抜ける音で遊華たちが起きてしまうかもしれない。部屋で飲むのは却下だな
「海にでも行くか……」
ロビーの休憩スペースは閉鎖されているし、部屋では遊華たちが寝ている。山は夜に入ると危険なので、消去法で俺が選べるのは海しかない。まぁ、ジュース飲むだけだし、平気だろ
「ここへ来てからの海は2度目か……」
前回は美月と一緒だったし、美月の元気がないのが気になって夜の海を楽しむ余裕がなかったが、静かな夜によく響く波の音、それに、風に乗って潮の匂いがするのを感じると海に来たという実感が湧く
「いつから俺は女性にモテモテになったのやら」
今日の一連の騒動を思い出し、1人物思いにふける。遊華たちが強引にキスしてきたのは自分を異性として、恋愛対象として俺に意識させる為にした事らしい
「遊華は実妹、香月と美月は義理とはいえ姉で俺は遊華からしてみれば実兄、香月と美月からしてみれば義理とはいえ弟だぞ」
メロンソーダの缶を開けながら遊華たちの事を考える。缶を開けた時にした炭酸が抜ける音は波の音に掻き消されたが、自分で確認してるので開いたかどうかくらいはわかる
「思った以上に甘いな」
メロンソーダは俺が思ってた以上に甘かった。炭酸が舌を刺激しているのもそうだが、それ以上に甘さが勝っている。
「今の俺にはこの甘さがちょうどいいってか?」
前に親父がハーレムを作ってしまえと言っていたのを思い出した。そして、このメロンソーダは思った以上に甘い。遠回しに俺に少しは甘い考えを持てってか?
「はぁ、甘い考えを持てたら苦労しないって」
10年前の世界にいたままなら甘い考えでよかったかもな……だが、ここは10年後の世界だ。この世界の遊華たちが俺を必要としてくれてるのはわかるが、10年前の遊華だって俺がいなくなって辛いはずだ
「あ、やっぱりここにいた」
海を見ていた俺の背後から声がした
「美月……」
声を掛けたきたのは美月だった
「私だけじゃないよ。遊ちゃん」
美月の後ろから遊華と香月が息を切らした様子で走って来るのが見える。きっと慌ててだのだろう
「ハァ、ハァ、美月、早すぎ……」
「そ、そうだよ、美月お義姉ちゃん」
「ゴメンゴメン、でも、遊ちゃん見つけたよ」
息を整える遊華たちとその様子を見つつ悪びれた様子もなく謝る美月。3人の様子から遊華と香月は慌てていて、美月は俺がここへ来てるのをなんとなくだが、予想してたんだろうな……
「どうしたんだ?寝ててもよかったのに」
俺はこの3人を起こさない為に海に来たのに遊華たちが起きたら本末転倒だ
「どうしたじゃないよ!起きたらお兄ちゃんがいなくなってたし!いきなりいなくなったら慌てるでしょ!?」
遊華の言ってる事はわかる。だが……
「それなら、携帯鳴らしてくれたらよかったのに」
携帯を鳴らせば俺がどこにいるかぐらいはわかると思う
「え?」
ポカンとしたこの旅行何度目かになる遊華の顔。額に汗が滲んでいる状態は今が初めてだ
「え?じゃなくて、俺は一応、携帯を持って部屋を出たから、携帯鳴らせば居場所くらいは簡単にわかると思うんだが?」
遊華はポカンとしたまま固まり、香月はうんうんと頷いている。美月は苦笑いを浮かべるばかりだ。
数分後、元に戻った遊華に引きずられる形で部屋に戻った俺は遊華たちと一緒に部屋の風呂に入る事となった
今回は遊が遊華たちのした事の答え合わせをする話でした。
意識させるとか、意識を変えるのはなかなか苦労するなぁと思う
今回も最後まで読んで頂きありがとうございました