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C-heetahrs  作者: shiro
1/2

おわり、そしてはじまり

ある日の夕方。夏の蒸し暑さが若干引き、涼しい風が心地よい9月の日。

少年は屋上の丁度真ん中当たりに立っていた。少年の目の前には少女が

仁王立ちでいる。

突然少女は、これ見よがしに光を発し、少年の腰位まで浮上していく。

眩しさを不快と思いつつ、自分よりも高い位置にいる彼女に視点を合わせる

ために頭を上げ、彼女が言葉を発するのを待った。


「汝、願いを申してみよ、神と呼ばれる存在である儂がその願いを叶える力を

授けようぞ」

見下ろしながら言うその姿は疑いの余地のない神秘的な風格があった。

周りに違和感もないので太刀の悪い悪戯ではないらしい。先ほど少女が光を発した

時から拳を強く握りしめているが痛みをしっかりと確認している。

現実の出来事であると確信した少年は、一つ深呼吸をして見せた。


何を思う。願えばよいのか。

知らずに口は動いていた。自らの意思とは関係なく。

「俺は…普通になりたい」

そう、普通になりたいと発していた。

驚いた、俺は普通になりたかったのか。


こうして少年の退屈な物語は終わりを告げることになる。



‐‐‐‐‐‐

なぜ彼は普通というものを求めたのか。


これだけ夢のある展開で、もっとマシな願いは出来なかったのか。

彼自身もその時には自覚もない以上、定かではないが彼が生まれ持っている

才能という力が大きく関係しているのであろう。


彼は自らの才能を呪っていた。それが傲慢な考えと理解していながら、少しでも捨てられる

ようであればこれ程有りがたいことはないと思っていた。

以前から感じていた、この考えこそが普通になりたいという勘違いを引き起こしたのかもしれない。



------

「クッ…クハハハハハ!」

依然として空中に浮いている少女改め神様は、夕空に響くように高らかに笑っていた。

そんなに笑われると、恥ずかしさが込み上げてくる...

「面白い!まさか自身の存在の能力を下げようとするとは、流石に笑いが込み上げたぞ!」

それはそれは、楽しんで頂けて何よりです。

「それで、この願いは叶えられるのか?」

恥ずかしさを誤魔化すように無遠慮に問いただす。

勝手に出た願いであったが、まんざらでもなかったので訂正せずに続けた。

「ああ、その願いを叶える力、授けようぞ!」

ひとしきり笑った後に神様はそう言い、こっちに近づいて来た。

全身に纏っていた光を、今は右手に集めている。

「お主は面白そうだからな、期待しておる。」

期待という単語に若干の違和感を覚え、問いただそうと

したのだが、気づいたら右手で頭を鷲掴みにされていて、何かが頭に

侵入している感覚に見舞われた。意識が朦朧としてくる。



意識が晴れたときには目の前に神様は居なくなっていた。

--明日からの生活を楽しみにしておくことじゃ。

直接言われた訳ではないが、何故か頭の片隅にその言葉が過る。

「とりあえず帰るか。」

頭が重いと感じるが、我慢しながら帰路についた。



-----

翌日、朝早くに目覚めた俺は珍しく心躍らせていた。

昨日の起こったことがもし本当であれば、今日から自分は普通の人間となったことになる。

我ながら意味の分からない願いであったと思ったのだが、

意外と期待してしまっているのである。


勉強というものを必死にする、全力で部活動に取り組み、将来に漠然な不安を抱える日々。

青春という名のもとに、言葉に縛られ、惑わされる日々。

そのような日々を送りたかったのかというと違う気がするのだが、どちらにしても

楽しみなのである。

何時もより手際よく身支度を終わらせ、足取り軽く玄関から出て、ドアの鍵を閉める。

「では行ってくるか」



------

結論から述べると、普通であった。

授業は普通にいつもと変わらず理解出来たし、体育の時間に行ったサッカーに至ってはいつもよりも

張り切りすぎてディフェンス5人をゴボウ抜きをしてしまう程であった。

放課後には校舎裏に呼び出されて女子生徒に告白されたのは、俺の求める

ものであったのであろうか。

「なになにー、そんな辛気臭い顔してー」

後ろから声をかけられた。口調は昨日とは違うが声は同じであるので神様である可能性は高い。

学校からの帰り道、十字路に差しかったところのため、周りにはちらほらと他の下校者がいるので、

様子見で後ろは振り向かずにそのまま歩き出した。

「かなしいなー。私には借りがあるんじゃないの?」

今の言葉からして、神様と断定しても良いのかもな。


左横から歩道に沿って並んでいるお店の窓を横目に見てみると、俺の後ろには昨日と同じように

空中に浮遊している少女の姿が見える。

どうやら周りには見えないらしい。あのまま話していたらヤバい奴に見られてたじゃねえか。

大通りを抜けて小道に入り、周りにあまり人がいなくなったのを確認して、前を向きながら話す。

「借り?結局何も変わらなかったのに?」

先ほど後ろで浮遊していた少女は、水泳選手が飛び込むように俺の頭上を越えて、地面には着かずに

目の前に逆さの状態で、俺の歩く速度に合わせて後退していく。

「がっかりしちゃったー?」

正直、今日のこいつはうざいな。

「普通の生活を送れるようになるんじゃなかったのか?」

俺がそういうと逆さの状態の神様はにんまりと笑う。

「イメージが足りないんじゃない?もっと具体的なイメージをもったら?」


俺の思う普通の生活にしてくれるということは、自分発信であるということ?

自分の思考を反映されるということ?

それよりも、昨日の出来事についてもいくつか腑に落ちないことも、勘違いしていそうなこともある。

「そもそも、疑問がいくつあるんだが」

神様は自分の身体に何をしたのか、今一度訪ねようとした時に神様の背後、俺の進行方向で

何かが光った。


ドカン!という大きな音とともに左横のビルが砕け散り、真上に倒れ落ちてくる。

「マジか...」

突然にこんなことに直面するなんて...




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