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嘘はダメ。嘘はダメ。嘘はダメ。
ぶつぶつと繰り返しながら、5時間目と6時間目の間の休み時間、職員室に向かう。
野球部顧問の坂本先生に、足のことを相談しに行かなくちゃ。
職員室のドアをノックして、開ける。
「失礼しまーす」
奥の窓際に坂本先生を見つけて、入っていく。
って、そのすぐ近くに真鍋先輩が居る!?何で?何でえええええ!?
まさかの展開に、僕の心臓がばくばくし出す。
坂本先生のすぐ横、長澤先生のところ!!
何で、何で、真鍋先輩がーー!!
早く職員室を出て行ってくれ!!という僕の願いも虚しく、真鍋先輩は長澤先生と話し込んでいる。
「坂本先生、あの」
「おお、新井ーー。聞いたぞ、怪我したって?」
坂本先生!!声!!でかいって!!
あまりの声のでかさに、真鍋先輩がこっちを向いた気がした。
ひいい!!ってなる、僕。
でも、先生声でかい!!なんて、もちろんそんなことを言える訳もなく。
坂本先生は続ける。
「残念だったなー。せっかく今度の試合、センタースタメンでって決まってたのに」
「え、あ、はい」
「どうしたんだ?足」
「あの、えと、これは」
嘘をついちゃダメ。
ラッキートランプの、言葉。
嘘はダメ。嘘は、ダメ?この状況、で?
「朝練に行くとき、遅刻しそうで、道路に飛び出しちゃって」
「危ないな、お前。それで?」
それで?って、なんてこと聞くんだ、先生!!
変な汗がじわりと滲む。
真鍋先輩、確実に僕のこと見てるんだけど!!
「え、と。自転車と、ぶつかりそうになって、転んで」
下を向いて、小さい声でボソボソっと言ってみる。
「それで捻ったのか?」
でも坂本先生はやっぱりでっかい声で。
ああもう、ああもう、ああもう!!
「………はい」
「バカだな、お前………」
「はい、すみません」
「とりあえず………1週間休め。1週間したら様子見てちょっとずつ顔だしてくれればいいから」
「はい、分かりました」
ペコリと坂本先生に頭を下げて、ドアに向かう。
もう、生きた心地がしないよ!!変な汗でまくりなんだけど‼︎
「失礼しましたー」
まだ長澤先生と話している真鍋先輩を確認して、僕は職員室をあとにした。
嘘はダメ。
うん、ついてないよ!!つきたかったけど!!ものすごく嘘を言いたかったけど!!
これで大丈夫だよね?これでラッキートランプのお告げ?はクリアしたよね?
痛む足を引きずって、教室に向かっていたら。
「新井!!」
後ろから誰かに呼ばれ、振り向くと………。
そこには、真鍋先輩が、居た。
なっ………ななっ、何で僕、真鍋先輩に呼ばれてるのーーーー!?