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真鍋先輩、遅いなーーー。
来るからって、言われたから、僕は教室でおとなしく待ってた。
もう誰も居ない、静かな、ここ。
つまんなくなってきて、窓際の席にうつる。
窓の向こうは、部活をやるたくさんの人たち。
「野球、やりたいなぁ」
ランニングが終わって、終わった順にキャッチボールが始まってる。
1ヶ月できないって、結構キツイな。
キャッチボールをやるユニフォーム姿の中に、友弥を見つけた。
今日はサボらず出てるじゃん、なんて、嬉しくなっちゃう。
キャッチボールの次は、恐怖のノックだよね。
滝沢先輩の時なんて、本気で吐いたこともあったっけ。
でもだからこそ、体力もついたし、レギュラーにもなれた。
早く。
早く、やりたいな。
1ヶ月も離れて、僕、練習ついていけるのかな。
夕暮れの、ちょっと薄暗い教室で、ひとりぽつんとしてて、考えが段々と後ろ向きになってく。
「悪い、遅くなった」
先に帰ろうかな。
身体も冷えてきて、そんなことを思っていたら、真鍋先輩が肩で息をしながら走ってきた。
来て、くれた。
やっぱり僕の心臓が、どきんって、跳ねて。
「あ、大丈夫です」
「寒くない?」
「大丈夫、です」
「本当に?」
「本当はちょっと寒い」
「悪い」
とんって、目の前に、昇降口にある自販機で売ってるミルクティーが置かれた。
「あったかいやつ。待たせた侘び」
「ありがとう………ございます」
「飲んだら行こう」
「…………はい」
ミルクティー。
昼間に先輩が言った、僕の髪の色。
何でミルクティー?ホットならお茶もあるよね?
先輩、どうしてこれを選んだの?
なんて、聞けるはずも、なく。
ペットボトルの蓋を開けて、一口飲む。
甘くてあったかくて。
………ドキドキ、する。
「渡瀬も早佐も、いい動きしてんなー」
「僕だってあの2人には負けないですよ」
2人が褒められたのがちょっと悔しくて、思わずアピールする。
真鍋先輩は僕をチラッと見て、笑った。
「知ってる」
「え?」
「新井、目立つから。よく見てた」
「………目立ってなんか」
「ミルクティーみたいな髪の色だなって、ずっと思ってた」
視線をまたグラウンドに戻して、こめかみを掻いてる。
近くには、行けなかったけど。
近くでは、見てなかったけど。
僕も真鍋先輩のこと、知ってたよ。
いつも最後までボールを蹴ってるところ、遠くから、見てたよ。
「ちょっと、くれ」
「え?」
手をあっためていたペットボトルを真鍋先輩が、抜き取って。
………飲む。
僕のほっぺたが、耳が、絶対赤くなってるって、分かる。
間接キス…………なんて、思っちゃう僕は、本当にもうどうしたらいいんだろう。
「あまっ」
ペットボトルの形のままの手の中に、もう一度あったかいのが戻ってきて。
「新井のサイドスロー、キレイだよな」
胸の奥が、ぎゅって、なった。




