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「足、大丈夫なの?」
パンを食べ終わった木戸先輩が、ごちそうさまでしたって律儀に手を合わせた後、おもむろに僕に向かって聞いた。
「えと、あの、まあ………」
「昨日だっけ?職員室から帰ってきた光ちゃんがすっごい落ち込んでてね」
「ちょっと、亮平くん!!」
ふふ、ふふふって何回も思い出し笑いしながら言う木戸先輩と、焦ったように木戸先輩を止めようとする真鍋先輩。
「やべぇ、新井に怪我させたーーって」
「え?」
「亮平くん!!」
「それはそれは半端なく落ち込んでて」
「あーもう、やめてって!!」
真鍋先輩、が?
真鍋先輩を見ると、ぷいっと僕から顔をそらして、ぽりぽりとこめかみを掻いた。
「だっ、だから、それは滝沢に!!」
「滝沢先輩?」
思わぬ名前にびっくりして、僕たちは真鍋先輩を凝視した。
滝沢義秀先輩。野球部伝説の………鬼主将。
「同じクラスなんだよ。アイツいっつも新井のこと褒めてるから、その新井に怪我させたなんて俺マジでフルボッコにされると思って」
「またまたそうやって光ちゃんはーーー。試合に出られなくさせちゃったって、落ち込んでたくせに」
「だから本当に亮平くんもう勘弁して!!」
「照れることないでしょ、今さら」
「今さらって何、今さらって」
えと。
えーと。
何か………どうしよう。
うまく、言えないけど。何か、言葉にできないけど。
透と友弥の視線が痛い気がする。
でもそんなことより。
何か何か、嬉しいっていうか。くすぐったいって、いうか。
気にして、くれてたんだ。
送り迎えするからって言ってくれたあとも、そんな風に、僕の居ないところで。僕のことを。
「試合に出たいのに出られたはずなのに、出られない悔しい気持ちは、よく、分かるから」
真鍋先輩はまた、こめかみをぽりぽりしてる。
先輩、照れてるのかな。照れた時の癖なのかな。
必ず幸せに導いてくれる、ラッキートランプ。
さっきひいたのは、いつもと違う所でランチを。
今日、ここでお弁当食べて良かった。
………良かった。
真鍋先輩を見る。
「本当に、悪かったな」
ちょっと目を伏せて。曇った、顔で。
「試合は……またあるから、大丈夫です」
だから、先輩。真鍋先輩。
今日も一緒に。
………帰りたい。