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こーちゃんが、眠ってる。
薄暗くなった部屋のベッドの上。
たくさんキスをして、そのままくっついて、時々しゃべって、またキスをして。
いつの間にか、眠っちゃってた。
こーちゃんを起こさないようにそっとベッドから抜け出して、落としたままだったブレザーをハンガーにかけた。
エアコンは効いてるけど、布団から出て上半身裸だった僕は、さむってなって、セーターを着た。
窓の外。
空が、キレイな夕焼け色。
そうだ。
トランプ、ひいちゃおう。
何となくそう思って、トランプを出した。
残りはジョーカーを入れて3枚。
もう、ジョーカーが出ても、いいよ。
ラッキートランプは本物だった。
僕はこのトランプに導かれて、こーちゃんを好きになって、こーちゃんに好きになってもらえて、幸せになったよ。
だから、もう、ジョーカーをひいたって大丈夫。
3枚をテーブルの上でまぜて。
1枚、めくる。
スペードのK…空を見上げて
もう1枚、めくる。
ハートのK…ずっと一緒にいよう
最後の1枚。
ジョーカー。
「………え?」
最後の最後まで出なかったジョーカーが。
その、絵が。
「どうして………?」
ピエロのだったはずの絵が。
………変わってる。
これは………天使?
「真尋?」
ぼんやりとした声が聞こえて振り向くと、こーちゃんが目を覚ましていて、僕はトランプを全部持って、ベッドの端っこに座った。
こーちゃんに、トランプのことを言おうって。
「こーちゃん、見て」
「ん?何、これ」
起き上がったこーちゃんが、トランプを見る。
何も言わないまま、1枚また1枚と、トランプをめくっていく。
「こーちゃん、空、キレイだよ」
全部見終わってジョーカーに辿り着いたところで、僕は窓の外を指差した。
広がる夕焼け。
赤い赤い、夕焼け。
後ろから、こーちゃんが僕を抱き締めてくれる。
まだ、素肌のままの、こーちゃん。
あったかい。
「ずっと、一緒にいよう」
手を握って僕は言った。
こーちゃんは、僕の言葉が何か分かったみたいに、くすって笑って。
「………ずっと、な」
優しく、答えてくれた。
そして、ふたりで見上げた空に。
「あっ!!」
「うおっ!?」
見間違い!?
びっくりして、こーちゃんを見る。
こーちゃんも、くりくりの目を更にくりくりにして僕を見た。
「こーちゃん、見た!?」
「見た………」
こんなこと言ったら笑われちゃう?
でも。
でもね。
見えたんだよ。本当に見えたんだ。
背中に大きな翼を広げた。
………天使の姿が。
「真尋に、似てた」
「え?そう?」
「うん、似てた」
「天使、だよね?」
「多分?」
多分、天使。
優しい顔で笑って、僕たちに手を振った天使らしき人。
らしきって確信が持てないのは、その翼が、真っ黒、だったから。
「あれ?」
「こーちゃん?」
「トランプ、ないぞ」
「え!?」
その後どんなに探しても、ラッキートランプは出てこなかった。
だった1枚。
ずっと一緒にいようのカードを、残して。