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その後、何も言わないまま自転車に乗って、何も言わないまま僕んちに着いて、今日はやっぱ帰るわって言った真鍋先輩をやだって引き留めた。
ドキドキする。ドキドキしっぱなし。
「あら、真鍋くんいらっしゃーい」
いつも通りテンションの高い母さんがオムライスを作ってくれて、やっぱり無言のまま、僕たちはそれを食べた。
今日は随分静かなのねって、母さんが不思議そうに笑った。
さっきの部室のアレが頭から離れなくて、ドキドキしっぱなしで、何か…………恥ずかしい。
真鍋先輩の顔が、まともに見れない。
あの時僕がくしゃみしなかったら。
どう、してた?
「真尋、お母さんちょっとこれから友弥くんのおうち行く約束してるから」
「あ、うん、分かった」
「コーヒーとミルクティーは作って置いておくから、飲むときにチンしてね。おやつは適当に持って行って」
「うん、ありがとう」
「ふふふ。一緒にコンサートDVD観るのっ。発売日から今日まで観ないで我慢してたのよお~」
ふふふ、ふふふふって、コワイ笑い方をしながら、母さんがコーヒーとミルクティーの準備を始めて、僕たちはごちそうさまでしたってお皿を運んだ後、2階にあがった。
すごい、変な、緊張感。真鍋先輩も、何も言わない。
どうしようって、俯いてたら。
腕を引っ張られて、抱き締められて。
「わっ………」
ベッドにどすんって、倒された。
「先輩っ………」
びっくりして下から見上げた真鍋先輩は、睨むような、刺すような、熱くて、その熱さで僕をとかす目をしてた。
「先輩って呼ぶのは、もう、禁止」
「………禁止、なの?」
「禁止」
真鍋先輩の顔が目の前すぎて、目が泳いじゃう。
横を向きたいのに、頭が両側で押さえられてて、向けない。
「………こーちゃん」
「ずっと、そう呼んで」
「………うん」
「キスして、いい?」
真鍋先輩の…………こーちゃんの声が、掠れる。
緊張してるのが、分かる。
どうしよう。どうなっちゃう?
母さんが玄関を出て行く音が聞こえた。
父さんは今日から仕事で朝から居ない。
ふたり、きり。
「こーちゃん」
「ん?」
「僕、すごいドキドキしてる」
「………俺も」
「こーちゃん、も?」
「うん、ヤバイ」
真っ直ぐにこーちゃんを見上げて、ほっぺたに、触る。
「こーちゃん………」
「なに」
「大好き」
「うん」
「いっぱい、キスして」
「真尋」
「さっきの続き………して」
噛みつくみたいに。
キス、された。