125
「マジか…………」
椅子に座って、項垂れる滝沢先輩。
僕は真鍋先輩に腕を引っ張られて立ち上がる。
真鍋先輩は、僕を滝沢先輩から隠すように立ってくれて、僕は真鍋先輩のカッターシャツをぎゅって握った。
「真尋のことは諦めろ」
「簡単に言うな、このバカ」
「お前の出る幕はねぇよ」
「うるさい。………うるさいよ」
はあ。
しばらく黙っていて、もう一度ため息をついて、顔をあげた。
不敵に笑う滝沢先輩が、何か怖い。
「俺はな、真鍋。真尋の裸の写真を持ってるんだぞ」
「はああああ!?何ふざけたこと言ってんだお前!!」
「動画もある」
「嘘つくんじゃねぇ!!」
「嘘じゃないよな?真尋」
「馴れ馴れしく真尋呼びすんな!!」
せっかく落ち着いたと思ったのに、また言い合いになってきて、先生来ちゃったらどうするの!?って、僕は段々怖くなってきた。
だいたい裸の写真って!!言い方がおかしいし!!
「夏休み、真尋は俺の家に一週間泊まりに来たんだぜ?毎日一緒に風呂入って毎日同じベッドで寝てたんだ」
「いい加減にしろ!!」
「本当のことだ」
「お前っ………!!」
真鍋先輩が、にやあってものすごく嫌な感じに笑った滝沢先輩に近づいて、また胸ぐらを掴んで立たせた。
「毎日同じベッドでくっついて寝てた。身体にもたくさん触ったな。ほら、殴れよ。大学の推薦、取り消しになってもいいなら」
「滝沢ああああ!!」
「こーちゃんダメ!!」
滝沢先輩を殴ろうと振り上げた腕を、僕は必死で押さえた。
ダメ。それはダメ。絶対にダメ!!
「離せ、真尋!!」
「ダメだよ、こーちゃん!!本当に推薦取り消されちゃう!!」
「構うかそんなもん!!」
「ダメ!!絶対にダメ!!」
すごい力で振りほどこうとする腕を、ぎゅうって、力一杯腕を抱き締めた。
お願いやめてって、思いながら。
「写真を撮ったのはどこにどんな筋肉をつけたらいいかって見るため!!動画はスイングフォームのチェック!!触ったのはマッサージ!!滝沢先輩がわざと変な言い方してるだけだよ!!」
僕が早口で一気にそう言うと、真鍋先輩はやっと振り上げた手を下ろした。
「僕、身体が細すぎるから、ちゃんと筋肉つけろって。それで夏休みに滝沢先輩の家に行ったんだよ。レギュラー取れたのも滝沢先輩がそうやって鍛えてくれたから。滝沢先輩のことは尊敬してる。感謝もしてる。でも………好きなのはこーちゃんだけだよ」
「真尋………」
そこまで言ってやっとやっと真鍋先輩は滝沢先輩から手を離して、滝沢先輩はやってられないって言って。
部室を、出て行った。