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「滝沢先輩!?」
痛いぐらい強く、強く、抱き締められた。
やだ。
真鍋先輩の時とは違う。胸の奥がきゅって熱くなるんじゃなくて、背筋に、冷たいものが走る。
やだ。
嫌だ。
離して。
僕が目一杯押し返しても、滝沢先輩は全然離れてくれない。
抱き締められて。首筋に顔を埋められて、僕は何が何だか、分からなかった。
真鍋先輩早く来てって。
早く来て助けてって。
「ずっと好きだった」
「………え?」
その言葉に、僕はびっくりして。
止まる。
「お前が野球部入って来てすぐ、好きになった」
「滝沢先輩、何言って………」
「一生懸命練習してるところとか、どんなにキツい練習でも泣き言言わないところとか、キツいのに一番声出して、まわりを励ましてるところとか」
びっくりして、抵抗するのを忘れて、固まってたら、
滝沢先輩の手が、ほっぺたから首筋を撫でた。
鳥肌が、たった。
違う。嫌だ。
「気づいたら、好きになってた」
「離して、ください」
どう、したらいいの?
滝沢先輩は尊敬する先輩。
お世話になった先輩。
カッコよくて、野球うまくて、面倒見がよくて。
でも。
でも。僕。僕、には。
「冬休み、何があった?」
「何がって」
「すげぇ雰囲気変わった。男相手に何だけど、本当に美人度増してる」
「何にも、ないです」
「本当に?」
真鍋先輩、早く来て。
早く迎えに来て。
離してって腕に力を入れるけど、滝沢先生はやっぱり全然離れてくれない。
滝沢先輩のことは、キライじゃない。
むしろ好き。
でも僕の好きと、滝沢先輩が言う好きは、違うもので。
僕は、真鍋先輩が好き。
「真尋」
嫌だ。
僕を真尋って呼ぶのは真鍋先輩。滝沢先輩じゃない。
「やだ、離して」
「好きだ」
「………っ!!」
囁いた滝沢先輩の唇が、僕のおでこに。
触れた。