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初詣は駅で解散して、真鍋先輩は僕んちに来ていた。
「真鍋くん、あけましておめでとうっ。今年も真尋共々よろしくねっ」
「あ、はい、よろしくお願いします」
いつものように飲み物とお菓子を運んで来てくれた母さんが、どさくさに紛れて真鍋先輩の手を握ってぶんぶんしている。
真鍋先輩も律儀に挨拶をしていて、僕は受け取ったトレイをテーブルに置いて、母さんをえいえいって押して、部屋から追い出した。
本当に母さんは油断も隙もないんだから!!
「母さんはよろしくしなくていいの!!」
「あら、どうしてよー」
「そんなの聞かなくても分かるでしょ!?」
「えー?母さん分かんないなぁ」
「お菓子ありがと!!ほら、早く下行って!!」
「ちょっとぐらいいいじゃない、真尋のけちー」
「けちでいいっ」
バタンってドアを閉めたら、真鍋先輩が超笑ってた。
「真尋の母さんやっぱ面白いわ」
「面白くないです!!もうっ、毎日毎日!!」
どすんって真鍋先輩の隣に座って、母さんが焼いてくれたクッキーを口に放り込む。
むむ。今日も美味しい。
もう1枚クッキーを取って、真鍋先輩の口にも入れる。
パクって指まで食べられて、慌てて手を引っ込めた。
「もう!!」
「うまいな、これ」
「………うん。美味しい」
ふふふって笑って、ミルクティーを飲んだ。
「今日は、早めに帰るな」
「え?」
これ、真鍋くん専用のマグカップって母さんが買ってきたのは、僕が使ってるマグカップの色違い。
それをコトンと置いて、真鍋先輩は僕に言った。
「夜からじいちゃんち。で、3日まで泊まり」
「………うん、分かった」
「4日から部活だろ?」
「うん」
「サッカー部は9時から。野球部は?」
「一緒だよ」
「じゃあ迎えに来る」
「うん」
「真尋」
「ん?」
「すぐだから、んな顔すんな」
「え?」
「寂しいーーーって、顔」
眉毛を下げて笑う真鍋先輩が、僕の頭をぎゅっと抱き寄せてくれた。
毎日のように会ってるから、会えないのが何か変な感じだなって。
「………寂しい」
真鍋先輩の肩に凭れて、小さく呟く。
「真尋」
「なあに?」
呼ばれて真鍋先輩の方を見たら、キスを、されて。
「先輩、大好き」
「先輩じゃなくて」
「こー、ちゃん?」
「そう。はい、もう1回」
「………こーちゃん、大好き」
「よくできました」
「何、それ」
おでことおでこをくっつけて、笑う。
「寂しいなぁ」
「すぐだよ」
「先輩は寂しくないの?」
「ばーか。そういうことは聞くなっつーの」
「どうして?」
「カッコ悪ぃだろ?寂しいって言ったら」
「僕は嬉しい」
寂しいって言ってくれたら嬉しい。
それってだって。
好きと同じことじゃない?
「お前には敵わんわ」
「ん?」
「寂しい、よ。寂しいから」
ラグの上にそっと倒される。
「いっぱいキスさせろ」
目を、閉じて。
「いっぱいキスして」
答えた。