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「電気消すぞー」
「はーい」
「お願いしまーす」
「あざーす」
「はいよー」
時刻は1時。
さすがにもう寝ようって、みんなで布団に入って真鍋先輩が電気を消した。
真っ暗になって、真鍋先輩が布団に入る気配がした。
「真鍋先輩、青い手、見えません?大丈夫ですか?」
「おい、やめろよ早佐。マジ怖ぇ」
友弥の面白がってる声と、それとは正反対の真鍋先輩の怖がってる声。
布団の隙間から真鍋先輩の手が入ってきて、僕の手を握った。
「まーくん、真鍋先輩怖いって。布団に行ってやんなよ」
「え?」
「お許しが出たぞ。来い、真尋」
「え?」
ぐいぐいって引っ張られて、え?まだみんな起きてるのに?って、僕はドキドキし始める。
暗いから見えないとは思うけど、いいの?本当に?
「ハヤーーー、おれもこわーーーい」
「うっさいわ」
「こわいからおれの布団に来いよ、ハヤーー」
「黙れや」
「友弥って何で木戸先輩には塩対応なの?」
「だろ?ひどいだろ、扱いが。恋人なのに」
「そういうところがムカつくんだって!!」
「照れるなよーハヤ」
「照れてねぇわ!!」
向こうで騒いでる間に、こっそりと真鍋先輩の布団に移動する。
ちょっと上の方まで掛け布団をあげて向き合って、ぎゅうってした後、おでこをくっつけた。
みんな居るよ?みんな起きてるよ?
ちょっとだけ僕の唇に触れた真鍋先輩の唇が、僕のドキドキを更にドキドキさせる。
「光ちゃん、ヤっちゃダメだよ?」
「ヤらないって」
「え、何、そこ本当にイチャってるの」
「イチャってないよ!!」
「いや、イチャってるでしょ」
「絶対イチャってるね」
「光ちゃん、チュウだけにしときなよ?濃厚なのダメだよ?かるーいのね?」
「大丈夫だよ、亮平くん。俺もそこまでバカじゃないから」
「とか言って光ちゃん、絶対濃厚なのするでしょ」
「りょーうーへーいーくーん」
「俺そっち向くのやめるわ」
「うん、透くんその方が賢明だね」
「そっちも向かないから安心しろ」
「気が利くねぇ。ほらハヤ、来いって」
「だからうるさいよ、アンタ」
みんなの会話が面白くて、恥ずかしくて。
僕はふふふって笑った。
「何笑ってんの」
「ううん、何でもない」
友弥と木戸先輩の言い合いに紛れて、小さな声で話した。
しばらくして騒がしさは段々となくなって………静かに、なる。
もう、寝た?まだ、かな。まだ、だよね?
目の前の真鍋先輩は、僕をじっと見てて、僕は、落ち着かなかった。
みんなが起きてるかもしれないから、話すこともできない。
何か恥ずかしくて、目を伏せた。
「いてっ」
べしって音と共に聞こえた木戸先輩の声に、真鍋先輩とふたり、びくってなった。
声を殺して、笑う。
何してるんだろう、あのふたり。
「……………っ」
真鍋先輩の指が、ふいに僕のほっぺたを撫でた。
そして。そして。
暗闇の中で、唇を重ね合った。