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「ねぇ、透、昨日誰と会ってたの?」
木戸先輩と友弥が歯磨きをしに行った隙に、布団に転がってスマホをいじる透の横にくっついてつんつんってほっぺたをつついた。
「こら、真尋、くっつきすぎ」
「え?わああああああっ」
ずるずるずるーって真鍋先輩に引き離されて、透に爆笑された。
「真鍋先輩、俺相手にも焼きもちかよ」
「うっせー」
「透は幼馴染みっていうより兄弟みたいなものだよ?」
「なあ?」
「誰が相手でもダメなもんはダメ」
「真尋も大変だなぁ、俺でこれなら先が思いやられるわ」
「だからうっせーって」
僕の隣に真鍋先輩は座って、で?同中の後輩とデートしてたって?透に不敵な笑いを投げ掛けた。
「だからデートじゃないって」
「誰?誰?」
「圭だよ、井上圭」
「え?井上ちゃん?」
「そ、井上。だからデートじゃないって言ってんじゃん」
「写真とかねえの?」
「写真?あー、あるある」
井上ちゃんかあ!!
井上圭って、超体力がない中学生時代の野球部の1年後輩。
女の子みたいなかわいい顔でよく先輩先輩ってまとわりついてきてたなぁ。
僕は卒業以来会ってないけど、透は連絡取り合ってたんだ?
確かに渡瀬先輩渡瀬先輩ってよく言ってたような気がする。
「はい、昨日撮ったやつ」
「ん」
「わーー、井上ちゃん何かまた一段とかわいくなってる!!」
透とふたりで写ってる井上ちゃんは、部活引退したのかな?髪の毛が更に伸びてて、女の子みたいだった。
で、この写真。自撮りだからっていうのもあるけど。
あるけど!!それにしたって。
「えっと、女?だよな?」
「男。野球部の後輩」
「男!?これが!?」
真鍋先輩が驚いてる。
実物を知ってる僕だって女の子みたいって思うんだから、真鍋先輩は尚更かもしれない。
「井上ちゃんは昔からかわいいんだよね、透」
「え?あ、そ、そうか?いや、俺は別に………」
「しかしあれだな」
「何すか?」
「近い」
「うん、近い」
「ち、ち、近いって、自撮りだからしょうがないだろ!?」
透がしどろもどろで、しかも赤くなって目を泳がせてる。
これって絶対そうじゃない?違うのかな?
「透、井上ちゃんのこと好きなの?」
「ばっ、だ、だから違うって!!圭がうちの学校受験するからって、学校のことを色々だなっ………」
「好きなんだ」
「ちょ、ちょっと真鍋先輩まで!!」
「だって昨日はクリスマスイブだよー?」
「たまたまだよ、たまたま!!」
透が焦りまくってるのが珍しくて、思わずからかっちゃう。
今まで結構からかわれてきたからね、お返ししなきゃ。
もちろん応援はするけどね!!
「あ」
「え?」
「何?」
真鍋先輩が持っていた透のスマホがブルブルってなって、はいって僕たちに見せた。
『透先輩、大好き♡』
「こ、こ、こ、これはだなっ!!」
「とおるーーーーーー!!」
「わり、見るつもりはなかったんだけど」
透先輩大好きって!!透先輩って!!
何かすっごいテンションあがってきた!!
「何盛り上がってるの?」
僕たちがぎゃーぎゃー騒いでたら、友弥と木戸先輩が戻ってきて、僕は透が止めるのを振り切って説明した。
「で、やっぱり付き合ってるの?透くん」
「いや、だから、付き合ってないって」
「じゃあ今の大好きって何なの!?」
「だーかーらー」
透が照れまくって髪の毛をわしゃわしゃ掻き回してる。
僕たちからは顔を背けて、あーもう!!って言ってる。
「1こしか年違わないって言っても、圭は中学生だろ?しかも受験生だろ?何か色々マズイだろ?だから本当に付き合ってるとかじゃないって」
「分かった!!両想いってやつだっ」
僕が張り切って言ったら、透はますます嫌そうに顔をしかめて髪の毛をわしゃわしゃして。
「うわー、何かむずむずすんなぁ」
木戸先輩があちこち掻き始めて、友弥と僕はニヤニヤして、真鍋先輩がチラッて透を見た。
「うるさいよ。俺のことはいいって」
「何でだよー」
「そういうこと言わないでよ」
「恥ずかしいわ」
「いいじゃんね?」
「ねぇ?」
ふふふふって友弥と2人で笑って、つんつんって透をつつく。
隠さなくたっていいのにって。
「合格したら、チュウぐらいしてやんなよ」
「なっ、なっ……………チュウって!!木戸先輩‼︎」
「それぐらいいいよね?光ちゃん」
「え?そこ何で俺に振るの?亮平くん」
「ん?何となく」
「………まあ、キスぐらいならいいんじゃない?」
「だから付き合ってねぇっつーの!!」
往生際悪いな、お前。
って透が木戸先輩に言われてみんなで笑って、もううるせーよって透は布団に突っ伏しちゃって、更に笑った。
井上ちゃんが合格したら、6人で集まることもあるのかな?そしたらきっともっと楽しいな、なんて。
僕はそんなことを考えてた。