107
「真尋、そろそろ部屋戻ろう」
「もう?」
「さっきの話がマジこえぇ」
真鍋先輩の熱っぽい目がみるみるなくなって、眉毛が下がったちょっと情けない顔になった。
やっぱりこんな顔の真鍋先輩は………かわいい。
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃねぇって。本当にあった話なんて本気で耐えられねぇ」
真鍋先輩がくって項垂れて、僕の肩に顔を埋めた。
「なぁ、まひろー」
「ん?」
「今日は一緒に寝よう」
「ええええっ!?」
「一緒に寝てくれ」
「え、えっと、それって………」
「何もしないから、俺の布団に来い」
「え?一緒の布団に寝て………なのに何もしてくれないの?」
何だ、残念って、小さく呟いたら。
まひろーって、肩のところからくぐもった声が聞こえた。
「ん?」
「頼むからこれ以上俺を暴走させんな」
「だから………してもいいって………」
「お前というやつは本当に………」
「ねぇ、先輩」
「………何?」
呼んだら真鍋先輩が顔をあげて、困ったように更に眉毛を下げてる。
そんな顔、しなくてもいいじゃん。ただ僕は。
僕は、ね?
「………大好き」
言いたいだけ。
言って、そっと真鍋先輩のほっぺたにキスした。
「まーひーろー!!」
「やっ!!いたたたたたたっ!!先輩痛い痛い、いーたーいー!!」
ぐりぐりぐりって、僕は真鍋先輩にグリコされた。
それからぎゅうって、抱き締められた。
「急がない。大事にしたい。そう言ったろ」
「………うん」
「マジで、好きなんだ」
「………うん。僕も、好き」
「だからしばらくは………キスだけな」
「………うん」
「って、持つかなあ、俺。自信ないわ」
無理に我慢しなくてもいいのに、時々真鍋先輩って、変に頭固いよね?
でも、僕を大事に思ってくれてるっていうのは分かる、から。
分かる、けど。
「先輩と一緒に寝たら、布団でもキスしてくれる?」
そんなに側に居て何もしないって、すっごい拷問だよね?
そんなの、僕が耐えられない。
「まーひーろー。マジで勘弁してくれ。お前はどんだけ俺を煽れば気が済むんだ?」
「ダメ?してくれないの?」
「………させて頂きます」
「絶対、ね?」
「みんなが寝たらな」
「やった!!」
怖いって言ってる真鍋先輩には悪いけど、あの話をしてくれた友弥に感謝。
抱き締められながら小さくガッツポーズをした僕に、真鍋先輩がはああああって、大きく息を吐いた。
「ダメだ。お前、かわいすぎる………」
何のことか分からなくて真鍋先輩を見る。
優しい顔で笑ってる。
優しい顔。
僕だけに向ける、あまーい顔。
「先輩、好き」
「もう、それ、禁止」
やだよ、って言おうとした言葉は。
真鍋先輩の唇で、塞がれた。