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「待てって、言ったのに」
「うん………ごめんなさい」
真鍋先輩が、僕を見てる。
さっきお風呂で見たのと、おんなじ目。
熱っぽくて、刺さるみたいな。
こつんって、おでことおでこがくっつく。
鼻先が、触れる。
「先輩が好き。………好きだよ」
「真尋」
「………好き、大好き」
溢れてしまった気持ち。
溢れてしまった言葉は。
もう………止められなくて。何度も、繰り返す。
僕は真鍋先輩の首に腕を絡めた。
真鍋先輩の手は、僕のほっぺたを両手で包んでる。
言葉だけじゃなくて。目でも伝える。
伝わってる?
好き。好きだよ。大好き。
「真尋」
「ん………なあに?」
唇が触れる、ほんの少し、前。手前。
もどかしい、くすぐったい、ほんの、数㎝。
触れたい。
唇で。
その、唇に。
「好きだ」
真鍋先輩の言葉。
そして。
そっと、触れる、唇。
ずっと欲しかった、言葉と。ずっと欲しかった、唇。
僕の、初めての、キス。
「真尋が好きだ」
「………うん。僕も、好き。大好き」
「三度目の正直、だな」
「………うん」
どちらからともなく、触れて。離れて。
「大好き」
唇が触れそうで触れないギリギリのところで言ったら、真鍋先輩がふって笑った。
「お前、好き好き言い過ぎ」
「だって………ずっと言いたかったんだもん」
「そんなに言われたら照れるわ」
「先輩が悪いんだよ?」
「俺?」
「好きって言わせてくれないのに、色々………するから」
「それは真尋のせいだろ?」
「僕何にもしてない」
「真尋がかわいすぎるから色々したくなるんだよ」
「そんなの………知らない」
ちょっと下を向いた僕を、真鍋先輩のあったかい手が支えて、柔らかい唇が何度も僕の唇を塞ぐ。
もっとしたい。たくさんしたい。
好きって言って。好きって言い合って。
「そろそろ、部屋、戻らないと」
「………うん」
「止まらなくなるし」
「………うん」
「真尋?」
「もっと、して」
「聞いてる?俺の話」
「聞いてない」
「聞いてないのかよ」
「うん」
僕からも、して。
真鍋先輩がちょっとびっくりしてる。
「もう少し、ね?」
「お前は本当に………」
「お願い」
「俺をこれ以上暴走させんなっつーの」
「しても、いいよ………」
「………ばーか」
そう言ってされたキスは。
少し、熱の絡んだ、キスだった。