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木戸先輩が、嵐のように去っていって、僕たちはシーンってしてた。
「友弥………木戸先輩とヤっちゃったの?」
その沈黙を破ったのは、透。
ぶほって友弥がむせた。
僕もぶほってなった。
そ、そんな直球で聞いちゃうの!?カーブとかフォークとかの変化球にしないの!?
っていうか、え?ぶほって、ぶほって?
「ヤってないし」
「じゃあさっきのアレは………?」
「いや、アレは………」
「アレは?」
「そんなの、いくら透くんとまーくんにだって言える訳ないじゃん!!」
バシャンって、透と僕にお湯をかけて、友弥はお風呂を出ていった。
「ヤっちゃったか?」
「ど、どうかな………」
「俺も出るわ。さすがにあちぃ」
「僕もうちょっと入ってるね」
「逆上せる前に出てこいよ」
「うん、ありがと」
透も出ていって、一気にお風呂が静かになる。
一人になるとただでさえ広いお風呂が更に広く感じられた。
本当のところ、友弥はどうなんだろう?透は簡単にヤっちゃった?なんて聞いてたけど、そもそもどうやって………。
「ダメだ、逆上せる。絶対に逆上せる」
ザブンって音と波をたてて、僕も浴槽から出た。
あれ?
あっついなーってとりあえず下だけ履いて、探してみるけどTシャツが、ない。
何で?持って来たはずだよね?
ラッキートランプでラッキーアイテムって出たから持って来たのに。
お風呂に来る時に確かに持って来たはずなのに。
どうしよう?
どうしようって言っても、タオル被って部屋に戻るしかないよね?
ちょっと………だいぶ、恥ずかしいけど。
床に置いたタオルを拾って、被ろうと思ったその時、ガラッと開いた脱衣所の、ドア。
「ひゃあああああっ」
「あ、わりっ」
そこに、真鍋先輩が、立ってて。
「せ、先輩っ」
「Tシャツ、落ちてて。持って来た」
「あ、う、うん………。探してた………」
隠す?でも隠すのも、おかしい?どうする?
どうしたらいいの!?
背中を向けてたドアの方、Tシャツを受け取ろうと、手を伸ばしたら。
「それ………」
「え?」
真鍋先輩の指が、するって、僕肩甲骨あたりをするって、撫でた。
「ひゃああっ」
「ひゃあって」
「だっ………だって」
真鍋先輩が撫でたのは、生まれた時からある、背中のホクロ。
ちょっと大きめでちょっと不思議な形をしているそれは、小さい頃によくからかいの対象になってた。
「クラスの女子が騒いでたやつ」
「え?何で?」
「真尋は片翼の天使だって」
「かたよくの天使?」
「片翼、翼が片っぽの天使」
「何で僕が天使なの?」
真鍋先輩の指がこれさって、ホクロを触る。
「これが、翼なんだって」
「えー、何それ?初めて聞きました」
鏡でしか見たことがないそれは、ちょっと長細くて変な形をしている。
それが翼みたいってことなのかな?
でもこんな小さい翼じゃ、飛べないよ?
「触ると幸せになるって」
「もう、何それ?意味分かんないよ?」
自分が今どんな格好で真鍋先輩の前に立ってるかって、一瞬忘れて、笑っちゃって。また撫でられた背中の手の温もりで、はっとなる。
僕、上、何も着てない。
真鍋先輩の目に、僕はどううつってる?
肩越しに真鍋先輩を見ると。
真鍋先輩は、じっと僕の背中を見ていた。
「俺、これに触ったから幸せになれるな」
「そんなの嘘だよ………」
「そうか?」
真鍋先輩はくすくす笑った。
笑いながらホクロをくるくる指先で触るから、くすぐったくなってきて、身体がピクピクしちゃう。
「先輩、くすぐったいっ」
「真尋」
「なあに?」
「やべぇ、すっげぇエロい」
「なっ…………」
ええええ⁉︎エロいって何⁉︎って焦った。
焦って。焦って。どうしようって。
そしたら、真鍋先輩の唇が。
真鍋先輩の、唇が。
スローモーションみたいに、見えた。僕の背中。僕のホクロに。唇が。ちょんって。
触れた、のが。