竜の楽園に行きました〈3〉
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
ジョンが楽園内の果物をリリーのために摘みに行っているあいだに、リリーはジョンのために花の冠を作った。
「これはポックルっていう、ここにしか生えてない果物だよ。あーんして?」
ジョンは籠いっぱいのポックルの実を1個リリーの口に入れてあげる。
あーん
そのつやつやした丸い黄色い実は、甘ずっぱくてとってもいい香りがした。
「おいしいだろ?」
「うん!」
「たくさん採れたから、もって帰ってジャムにするといいよ」
「ありがとう、こんなに沢山」
「はい、あーん」
編みかけの花輪をもっているリリーのためにジョンは次々ポックルを口に入れる。
あーん
もぐもぐ…………
「ありがとう。ご馳走さま。これね、もう少しで編み終わるから待ってね。ジョンは風の中をかける勇者みたいだから冠を作っているの」
「そうなんだ。じゃあ僕もリリーに何か作ろうかな」
「ふふ。ジョンもお花で何か作るの?」
「こっち見たらダメだよ」
花畑の中で2人は背をむけて座り直す。
やがてリリーの作っていた白い花の冠が編み上がった。
「はい。冠よ」
ジョンは頭に冠をかぶってリリ一の方を振り向く。
「ありがとう。どう? 似合ってる?」
「うん! 勇者さまみたい!」
リリ一は嬉しそうに目を細めた。
「じゃあ今度は僕からのプレゼント」
そう言ってリリーにむかい合って座ると、リリーの手をとり、その細い薬指に花の指輪をそっとはめた。すぐにほどけてしまいそうな、小さな指輪だ。
「ピンク色の花の指輪! かわいい!」
「リリー、僕と結婚して下さい」
ジョンは片膝をついてうやうやしくポーズを決める。
「あら? うふふ……。プロポーズの練習?」
「違うよ。これは一回目のプロポーズ。もちろん本気の」
「え…………?」
真剣な彼の眼差しにとらえられて、リリーは動けなくなってしまった。心臓がやたらと早く打ち始める。返事がしたいのだが、うまく言葉にできない。
「リリーが好きだ。はじめて会った夜、リリーがペコを抱きしめている姿を見たときからずっと。ペコを育てるリリ一をそばで見ている内に、好きな気持ちがどんどん大きく膨らんで、もう隠すことも抑えることもできなくなってしまったんだ。できたら僕と結婚してもらえませんか?」
突然の告白とプロポーズにリリーは驚き混乱していた。
こんなに早く自分の気持ちをまとめて、答えを出さなければいけないなんて。
ジョンのことは随分前から意識していた。
自分の中にあるジョンに対する感情はたくさんある。
好意、憧れ、尊敬、友情、信頼……
くすぐったい思い、胸が締め付けられるような瞬間。
でもつきつめないようにしてきた。
リリーは自分のゆっくりした思考回路をうらめしく思う。
「えーとね……あの……その…………」
困っているとジョンがにこっと笑ってリリーのことを抱きしめた。
「今すぐ返事はしなくていいんだ」
「う、うん……」
リリーは彼の柔らかい抱擁に、頭の中がふわふわする。
「身分差のことが気になる?」
「う…………」
ジョンは核心を突いてくる。
「じゃあ身分のことはないと仮定してみて。ーー僕のこと一人の人間として男として、好き? 嫌い? どっち?」
「もちろん好きよ!」
そういう状況なら、リリーは自信をもって答えることができる。
ジョンのことは誰よりも好きだ。
そして、自分たちの間に越えられそうにない身分差があることを、リリーはこの時はっきり自覚してしまった。
「今はその答えで十分だよ」
ジョンは明るい声をあげ、リリーを更に強くぎゅうっと抱きしめた。
ふわりと白い花とポックルの香りが広がる。
「近いうちにリリーのご両親にも結婚のことを話したいと思ってる。僕は何回だってリリーにプロポーズするし、ご両親にも納得してもらおうと思っているから、リリーは少し待っていてくれる?」
「待つ?」
「うん、ちょっとした仕事を終わらせてからじゃないといけないんだ」
「うん。分かったわ!」
リリーは夢をみているのかと自分のほっぺたをつねってみる。それを見てジョンが笑いながらリリーの反対側のほっぺたにキスをした。リリーの頬が見る見る真っ赤になっていく……。
ピキュ~ン ピキュ~ン
2人の後ろにペコがのしのし歩いてきた。
遊び疲れたから家にそろそろ帰ろうと言っているようだ。
「ペコ、お腹いっぱいになった?」
ピキュ~!
それから二人はシルバーに乗ってリリーのお屋敷に戻ってきた。
「おやすみリリー」
ジョンはリリーとペコにハグをして、シルバーに乗り帰って行った。
◆◆◆
リリーとぺコが家に入っていくと、何やら広間から騒々しい声や音が聞こえてきた。
「何かしら?」
広間に入っていってリリーは一瞬で固まる。
「やぁリリー。久しぶり。君を迎えに来たよ」
何と沢山の護衛をつれたハロルドが、広間の肘掛けイスにどかりと座っていたのだ。