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翼を動かす練習をはじめました


 ジョンに教えられた通りに、リリーはペコの翼を動かす練習をはじめた。


 リリーと同じくらいの大きさのペコが翼を広げるとバルコニーがいっぱいになる。


「そうよペコ上手ね! 翼はそのままじっと広げたまま立って」


 リリーはそう言って自分の両手を左右に大きく開いて見せ動きを止める。


 ピギュー……!


 ペコは少し苦しそうな声を出しつつ、リリーの真似をする。まずは翼を支える背筋を鍛えるのだ。


 ピキュ~……。


 運動不足のペコには自らの翼が重すぎるのだろう。一分もたたない内に翼を下へおろしてしまい、リリーを恨めしそうな目で見た。


「ほら思い出して。シルバーは堂々と翼を広げていたでしょう? こんな風に」


 ピキュ


 母親の名前を聞いてやる気がでたのか、ペコは背中に力を入れもう一度挑戦する。


「そうそう! その調子! 上手よ!」


 リリーはそのままの姿勢を保たせてやるため、後ろから翼を支える。


 うわぁ重い~……!


 ジョンが「女の子のカでできるかなぁ」と心配していたのを思い出す。


 で、できるわ!


 せっかくジョンとシルバーが、私のもとにペコをあずけてくれたんだもの。


 そう、リリーには何となく分かっていたのだ。

 昨日の夜、ペコを連れて帰ろうと思えばできたであろうことを。


 もう少しペコと一緒にいられるんだもの!

 なんのこれしき。


 うぅ、でも手が……!


 ペコの翼を支えるリリーの手に限界がきて、手を離した瞬間。


 ボフッ


 と鈍い音がして、ペコのロから小さな火炎が飛び出した。


「きゃっ!」


 ピギ?


 火炎はリリーのバルコニーの白い柱をかすめ、一本の柱を黒く焦がして消えていった。


 固まってしまう2人。


「す、すごい! ペコは火が吐けるのね。すごいわぁ。竜が火を吐くって本当なのね」


 何が起こったか判らない様子のペコの頭をくるくると撫でてやる。撫でながらリリーは呼吸を整える。


「でもね、ペコ。お屋敷が火事になると大変だから、バルコニーで火を吐いちゃダメよ?」


 リリーは母親とジイヤに見つかる前に白い塗料で柱をぬろうと思っていたのだが、しっかり見つかってしまい、みっちりと注意されてしまったのだった。


 竜を育てるって大変ね。

 でも、とっても楽しいわ。


 リリーとぺコの努力の結果、1ヶ月ほどでペコは自力で翼を広げて立っていることができるようになった。


 ジョンは週末の夜ごと、シルバーと一緒にペコに会いにやってきた。


 ペコはもちろん、リリーも週末を心待ちにするようになった。


 また、リリーのお屋敷の人たちもジョンが来る日を楽しみにしていた。大きくて美しい竜を間近に観察することができるし、シルバーに甘える可愛いペコも見ることができる。また、何よりもリリーがとても嬉しそうに笑う顔を見ることができるから。


 週末の昼間に一緒に練習することもあった。


 ジョンはいつものように素朴な白いシャツと黒いズボン、それに黒い長ブーツを履いている。


「じゃあ次は翼を動かす練習だよ。バルコニーでは狭いし風圧がすごいから広い崖側の庭でやろう」


 ジョンは、リリーに分かりやすく手とり足とり説明する。リリーは何度も教えてもらいながらマスターしていった。


「お嬢様! がんばって下さい!」

 ジイヤが庭の椅子に座り、大きな声で応援している。


 侍女たちも仕事の合間に練習を見にきては、ひそひそと女子の会話を楽しんでいる。


「何度見てもシルバーは優雅で美しいわね」

「ジョン君はきっとステキな男性になるわよ」

「リリー様の服、ジョン君とおそろいになったのね。リリー様、凛々しいわ」

「ジイヤさんが手作りしてお嬢様に差し上げたそうよ」

「なるほど~」

「ペコ、がんばって」


 リリーが竜の子を育てていることは、近所のお屋敷や隣りの岩山の住人の目撃情報により広められ、カロン王国でリリーはひそかに話題の人になりつつあった。


 リリーが庭で竜の子相手に手をパタパタさせている様子を見るために、遠くの谷から竜使い人たちがやってくることもあった。


「ハロルドに婚約破棄された令嬢が竜の子を育てているらしい。ちょっと変わったお嬢さん」


 多くの人々の評価はこんなところだった。


 リリーと竜の噂がカロン王国の騎士団や王族にまで聞こえているとは、リリーはこの時全く考えもしなかった。


◆◆◆



 ある日庭でペコと翼を動かす練習をしていると、リリーの家の崖側からふわりふわりと何かが浮かび上がってきた。


「リリー! 噂を聞いて遊びにきたわよ~」


「アンナ! あなた空が飛べるようになったの?」


 リリーは目を丸くする。しかし、ほうきにまたがって手を振るアンナはふらふらしていて、リリーは友人が谷底へ落ちていかないかと、生きた心地がしなかった。


「今特訓中よ。あー喉がかわいちゃった。お水をコップに一杯くれる?」


 2人は久しぶりに庭のテーブルでお喋りをすることにした。ここ数ヶ月の出来事をリリーが話すとアンナは楽しそうに笑った。


「リリーが竜の子を育ててるなんてね」


「ペコは頑張り屋でとってもいい子なのよ」


 ピキュ~


 リリーはキャベツを千切ってペコのロに入れてやり、頭をなでる。


 シャリシャリシャリ


「この子火を吐いたりする?」


「うん。お腹に力が入りすぎると出ちゃうから、火を吐かない練習もしてるの」


「ふふ、ハロルドに今度会うのが楽しみね?」


「え?」


「冗談よ。ああ、それよりハロルドね、先月お屋敷の階段の上から落ちて半月ほど寝込んでたんだって」


「まぁ……!」

 今となってはリリーには関係のない人物だが、ケガをしたと聞くと気の毒になる。


「遊ばれて捨てられた令嬢が怒りにまかせて突き飛ばしたんですって。階段のそばで」


「恐ろしいわね」


「自業自得よ。庭の崖のそばで突き飛ばされなかったことに感謝すべきよね」


「…………想像するたけで鳥肌がたつわね」


 崖と言えば「ペコはそのうち、崖の上から飛び降りて落ちながら翼を動かす練習をするからね。心の準備をしておいてね」とジョンが言っていたのを思い出す。


 飛べないのに崖から飛び降りるのは、どんなに怖いことだろう? 


「でもね、呆れることにハロルドは今はもうピンピンに元気になって3人の彼女とつき合ってるらしいわよ。せめて魔法使いの純情な女子たちを誘惑するのはやめてほしいのだけどね」


 アンナの周りの女の子がまた泣かされたのだろうか。アンナの怒りは新鮮だ。


「それより、その竜使いの少年のことをもっと詳しく聞かせてよ!」


 アンナは目を輝かせ身を乗り出して言ったのだった。










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