助けは上からやってきました
本日1話目
「1つ目の用件はこれだ」
アレク王子は持ってきた紙を広げ、よく通る声で淡々と読み上げる。
「ハロルド・ステファノフ。--君をカロン王国の環境保護法第1203条により『竜のたまごの密猟』の疑いがあるとして拘束し取り調べを行う」
「何っ!? 何を根拠にそんなこと!」
ハロルドは美しい顔をゆがめ、アレク王子を睨む。ハロルドの母親も動揺を隠せずそわそわしだす。
ここでジイヤがロを開いた。
「わたくしがアレク王子にすべてお話いたしました。ジョン様をようやく捜しあてた時、ちょうどアレク王子が横におられましたので。
アレク王子と言えばこの国の内務省警察の長。以前から竜の子の密猟のことで頭を悩ましておられるとジョン様より伺っていましたし。
……証処の竜のたまごはこのお屋敷の中のどこかにあるはずでございます」
ジイヤが手に籠を持ったまま朗々と語る。
「くそぅ!」
「取りあえず、ハロルドを拘束せよ。そこの護衛たち」
アレク王子の一言で、広間に残っていた数名のハロルドの護衛は、戸惑いながらもハロルドの両腕を掴み拘束した。王子の命令は絶対なのだ。
「あの……、たまごならハロルド様のベッドにあるわ。でも温めつづけないといけないから……」
リリーは証拠品として持って行かれ、たまごが冷えて死んでしまわないかと心配する。
「リリー殿、たまごは私が目で確認するだけで、後は竜に返すなり温めて育てるなり、竜使いのジョンとあなたにまかせます。よろしいかな?」
アレク王子はリリーの心配を察してすぐに解決策を打ち出した。
「はい! ありがとうございます」
アレク王子は「では2つ目の用件を言いましょう」と続ける。
そこに集まった面々は、次は何を言い渡されるのかと緊張で体を固くする。
「令嬢リリー・ブラウンとハロルド・ステファノフとの婚約破棄を、今この場で成立させて頂きたい。私、第二王子アレクが証人として立ち合います」
両家はざわめいた。なぜアレク王子が2人の婚約について介入しようとするのか?
「なぜだ! 私は認めない。このビジネスがダメになってもリリーのことは手離さない。久しぶりに気に入った女だ。もともと私の婚約者だ!」
気に入ったと言われ、リリーは心底驚いてしまう。
ハロルドにとっては自分は新しいオモチャのようなものなのだ。
アレク王子は続ける。
「リリー嬢とぜひ結婚したいという人物がいて、私としてはリリー嬢にその人物と結婚して欲しいと思っている。ジイヤ殿の話によるとブラウン家は望んでいないのに、ハロルドは婚約破棄の手紙を破棄して強引に結婚しようとしていると言うではないか!」
「相手が私より位が高くなければ絶対に認めないぞ! それが物の道理と言うものだ!」
そして今度はリリーを説得しようと言葉を並べる。
「リリー冷静に考えてみろ。公爵家の、私みたいな美しい男が仮にいたとして、そいつが地味で幼いお前と結婚したがると思うか? 竜を育てるような変な令嬢をめとりたいと思うと思うか? そんな変わり者、いないだろう? 私のように条件のいい男はいない。私と結婚するのだリリー」
当然ハロルドの言葉はリリーの心に触れることもかすることもない。
「どこまでも支離滅裂で不器用な男だな」、と小さく呟いてからアレク王子は大きな声で叫ぶ。
「いるのだ。リリー嬢を心から愛している、お前より身分の高い男が。だから婚約破棄を成立させたい。ジョン、あれを持って来い」
ジョンは肩掛けカバンから、リリーのノートに挟まっていた婚約破棄の手紙をとり出す。
「さあリリー殿、ここに『受理します』とサインを」
「はい!!」
リリーは何の迷いもなく、手紙の下の方にサインをした。
「リリーおめでとう。君はこれで自由の身だ」
「ありがとうございます! アレク様」
リリーの両親たちが立ちあがり拍手する。
「私は認めないぞ!!」
「そうよ! 何もかもデタラメですわ!」
最後まで悪あがきするハロルドとその家族は、事情聴取のために駆けつけた兵士たちに捕らえられ、連れて行かれてしまった。
◆
「ところで、そのリリ一と結婚したいと言って下さる身分の高い男性とはどなたなのでしょうか? ハロルド様より高いと言いますと公爵家では数人しか思いあたらないのですが……」
遠慮がちにリリーの父がアレク王子に質問する。きっちりと婚約破棄させて結婚したいと言うその位の高い殿方はいったい誰なのか、当然の疑問だ。
リリーもハロルドの毒牙から解放され、正式に婚約破棄が無事できたことにほっとしたものの、新たな求婚者の存在に不安になる。リリーの好きな人はただ一人ジョンなのだから。
「公爵家? 公爵家の男性ではありません」
「は?」
「リリー殿に想いを寄せているのは、私の弟ヨハン・カロンドル。カロン王国の第3王子です。婚約破棄が成立したらすぐにでも正式に求婚したいと言っておるので、連れて参りました。ほらここに」
「「どこに?」」
「え? ああ、そうかまだ皆知らなかったのか。ヨハンお前の出番だぞ」
アレク王子が指さした方向に皆の視線が集まる。
そこには王子の立派な装束に着替えたジョンが立っていてリリーを嬉しそうに見つめていた。
「え………? もしかしてジョン? ジョンは王子様だったの?」
リリーは大きく目を見開く。
「リリー! おいで!」
リリーは嬉しそうに頷き、ジョンの胸に飛び込んだ。
「「ジョンが……第3王子?!」」
リリーの両親は驚きのあまりそれ以上何も言葉が出てこなかった。
リリーの父サンダー・ブラウンはこの時やっと気が付いた。ジョンという名前は他国の言葉では……
ジョン、ヨハネ、……そしてヨハン!
そう、紛れもなく目の前の少年はカロン王国の第3王子、ヨハン・カロンドル王子なのだ。
◆◆◆
「ごめんね。助けにくるのが遅くなって。竜の密猟をしている騎士たちのことを兄と一緒に調べて、拘束状の手続きをしていたんだ。ハロルドもその一人だった」
「駆けつけてくれて、本当に嬉しかったわ」
「ジイヤさんが城に馬で駆けつけて知らせてくれたんだよ。そうじゃないと、リリーを永遠に失ってしまうところだった」
「そうだったのね! ジイヤ、本当にありがとう!」
「いえいえ、お嬢様のためなら何でもいたします」
ジイヤは籠をかかえたまま深々とお辞儀をする。
「ヨハン、そろそろ始めたらどうだ?」
アレク王子はニッと笑ってジョンを見た。
「ああ、そうだね」
ジョンはリリーを一旦離すと、彼女の前に片膝を立てて座り、真面目な顔でこう言った。
「リリー、僕と結婚して下さいませんか? 君以外考えらられない。僕と一緒に王族の竜使いになってくれませんか?」
ジョンはリリーの前に手をさし出す。
「私に務まるでしょうか?」
リリーは戸惑う。どう考えても王族と子爵家では身分が違いすぎる。有り得ないことだ。
昨日とは逆の立場になり、リリーはどうしていいのか分からなくて困ってしまった。
越えられそうにない身分差。
ここでアレク王子が顔をほころばせながらリリーにこう助言した。
「リリー殿のお陰でヨハンはやっと竜の世界に引きこもるのをやめて、人間の社交界に出て来るようになりました。カロン国王もそのことを大変喜んでいます。昔の竜の一件以来、ヨハンは竜と竜使い以外に心を開けなくなっていたのです。でもあなたと出会ってからヨハンは変わりました。王族は皆、ヨハンとあなたの結婚を望み祝福したいと思っているのですよ」
リリーはドキドキしながらアレク王子の話を聞いていた。ジョンの子どもの頃の話は聞いていたけれど、そんなにも心に深い傷を抱えていたとは……。
私はジョンに、王族の方々に望まれている?
「リリー、今はシンプルに考えてほしい。一人の人間として男として、僕のこと好き? 嫌い? どっち?」
「もちろん大好きよ!」
「それだけで充分だよ。お願いだから僕のお嫁さんになって! 僕と一緒にこの国の竜を守る働きをしてくれないか?」
ジョンはリリーを抱きしめた。
リリーはジョンの腕の中で、ゆっくりとはっきりと返事をした。
「私をジョンのお嫁さんにして下さい。うまく務まるか分からないけれど、一生懸命がんばるわ。私はジョンのことが世界で一番好き!」
「ありがとうリリー! 絶対君を幸せにするよ。約束する!」
抱き合う2人の周りで、アレク王子や兵士たちがあたたかい拍手を送る。
「ヨハン様、リリー様、おめでとうございます!! ジイヤは今とても幸せですぞ!」
ジイヤは籠の中から花びらを撒き散らし踊りながら、若い2人を祝福した。
「あなた、何だか夢を見ているみたい」
「そうだな。とにかく、リリーが幸せそうに笑っているんだ。それが全てだ。本当に、良かった!」
「何で気がつかなかったのかしら。ヨハンの別のよび方がジョンだってこと」
「気が付くわけないさ。まさかこの国の王子が竜に乗ってうちに来ているなんて普通思わないよ」
「そうね……。でも後でジョンに……いえ、ヨハン様にお詫びしないとね」
うむ感謝もな、とリリーの父親は頷いて熱くなった目頭を押さえた。
◆投稿予定とお願いです◆
(。・∀・。)
本日12時すぎと20時すぎに2回投稿いたします。
感想を下さる方は
20時のお話の後に送って下さると
うれしいです。
(そこまでがお話のひとまとまりなので)
最終話は明日12時すぎに投稿します。
いつも読んで下さりありがとうございます。
感想やコメントにも大変助けられ励まされております。
(*´ω`*)




