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人生最大のピンチがきました<1>

2回にわたりシリアス回となりますので

よろしくお願いいたします。

(。・∀・。)ノ




「ハ、ハロルド様……! どうしてここに?」


 リリーはあまりの驚きに、持っていたポックルの籠を床に落としてしまった。コロコロと黄色い玉が四方に散らばり、ポックルの甘ずっぱい香りが広間に広がる。


「リリー、私には君が必要なんだ。結婚してほしい」


 思考が追いつかず立ちつくしていると、広間のソファーに身を堅くして座っていたリリーの母親が立ちあがりハロルドに向かって言った。


「さっきから何度もお話している通り、あなたは一年前に婚約破棄の手紙を私たちに送りつけたではありませんか。しかも直接会いに行ったリリーを門前払いして! あの後こちらから婚約破棄を受理しますと主人が手紙をさしあげたはずです。今さら結婚ですって? リリーがどれだけ傷ついたかあなたに解りますか?」


「私も同感です。あなたの父コーリン公爵とは良い友だちですが、彼が伏せってしまってから、ハロルド君、あなたはすっかり人が変わってしまったようだ。きっと娘はあなたとは結婚したがらないと思うのだ」


 険しい顔で座っている父親も低い声ではっきり言い切った。


「ははは。子爵家のご身分で公爵家からの結婚話をことわると言うのですか? 莫大な財産や影響力が手に入るというのに?」


 馬鹿げている、と吐きすてるように言うとハロルドはリリーの前へツカツカと歩みよった。


「返事はリリーにしてもらおう。ご両親では話にならない。私は手紙を書いた。でもその後に君は第二夫人でもいいから結婚してほしいと私に懇願したよな?」


「でもハロルド様はその時、第5夫人としても結婚する気はないとおっしゃいました。それに婚約破棄は成立しています。ハロルド様と結婚はいたしません」


 リリーは屈辱的な場面を思いだし、涙をこらえる。


「では、婚約破棄の証処はあるのか? 私の手元には昔父とリリーの父上が交わした婚約の契約書がある」


 ハロルドは契約書を皆に見せる。

確かにそれは本物だ。


「そしてこちらは婚約破棄受理の手紙だ。こうしたらどうなるかな?」


 ハロルドはローテーブル上のろうそくの火をとると婚約破棄受理の手紙に近づけ、にやりと笑った。


「何をするのです!」

 リリーの父親が立ち上がり手を伸ばそうとすると、護衛の2人がたちまち彼を取り押さえる。


「こうするのですよ」


 メラメラとオレンジ色の炎があがり、大切な手紙はあっという間に灰になってしまった。


「さて、あとは僕が出した婚約破棄申し入れの手紙を燃やすとしましょうか。あの手紙はどこだ? リリー持っているのだろう? それともとっくに燃やしてしまったのか? それならすぐにでも……」


「あるわ! 手紙は大事にノートに…………、あっ!」


 リリーははっと気がついて青ざめる。

 あの手紙をうっかりノートに挟んだままジョンに貸してしまったのだ。


「どうしよう……、今日ジョンに貸したノートにはさんだまま……。でも、あるんです! あの手紙があるからにはまだ結論は出せないはずだわ」


「ん? ジョンというのは噂に聞いた竜使いのことか? 手紙もノートもそいつが持っているのだな。リリー、そいつはどこに住んでいる? 今すぐ護衛をやらせて取りに行く」


 ハロルドの言葉にリリーは震え上がる。

 ジョンのところへ彼らが行くということは、ジョンの身が危険に晒されるということだ。


 でもリリーはジョンの住んでいる所を知らない。

 ジョンは自分について多くを語らない人だから。


「ジョンの住んでいるところは知らないわ」


「本当か?」


「本当なの」


 リリーが嘘をついていないと悟ったハロルドは、護衛4人を選び彼らに命令した。


「竜使いの森に行ってジョンを捜しあて、明日の昼までにノートと手紙をとってこい! 抵抗するようなら殺してもかまわない」


「やめて! 彼は関係ないわ! 彼を絶対に傷つけないで!」


「ふふ、それはその竜使いの出方次第だ」


「それにどうしてノートまで必要なの?」


「実はね、ちょっとしたビジネスをしようと思っているんだ。最近一部の騎士たちの間で流行っていることでね。これはここだけの話だから、決して誰にも話さないでほしいんだけど、これを見ればリリー、君にもわかるだろう?」


 ハロルドが指をならすと護衛の一人が布にくるまれたものをリリーの前に持ってきた。


「なに……? これ」


「布をとってごらん」


 リリーは恐る恐る上にかぶせてある布をとる。すると布の下から大きな丸いたまごが姿をあらわした。


「竜のたまご!! どうしてここに?」


「今日取ってきたばかりなんだ。こいつを孵化させて竜を育てる。竜の子は他国で物凄くいい値段で売れるんだが、人間になついて従う竜だったら驚くような値で売れるだろうね?」


「何ですって! 竜を売る?」


 竜の子が密猟され他国に密かに売られ、生物兵器として使われるというジョンの話を思い出す。


 またリリーは今朝谷の森で見かけたハロルドたちが、何をしていたのか今になって知った。彼らはこのたまごを盗りに谷の奥にまで入っていたのだ。


「このビジネスのために君が必要なんだ。君とあのノートを高い値段で買うよ。それでご両親とこの家は今後何百年も安泰だ。リリーだってうれしいだろう? それにリリー、君は一年前よりずっと美しくなったね。相変わらず変な服を着ているけれど」


「私はあなたとは結婚しません! ノートも渡さないわ! 私……私には好きな人がいるから」


 リリーの予想外の言葉に、ハロルドは美しい顔をゆがめる。


「ふん、気に入らないな。そいつは誰だ? ーー……はーん……、その竜使いのジョンという奴だな。竜使いと子爵家の令嬢が結婚できるとでも思っているのか?」


 ハロルドは広間にひびくような大声で笑う。


「両親にも話したのか? そんなママゴトのような恋愛ごっこのことを」


「それは、これから話そうと……」


 リリーはこんな形で自分の大切な恋心を晒すことになり恥ずかしさでいっぱいになる。こんな風に両親に知られたくはなかった。ちゃんとジョンと自分のことを説明したかったのに。両親はきっとハロルド以上に驚くだろう。


「リリーそれは本当なの? まさかジョンと……? ええ? そんな……」


「ジョンはいい少年だ。でも結婚となると話は別なんだよリリー」


 リリーの突然の告白に両親は戸惑いを隠せない。身分が違い過ぎて、結婚相手としては思いつきもしなかったのだ。


 ンゴゴゴゴー……


 ンゴゴゴゴー……


 ペコが広間でいびきをかきながら居眠りをはじめ、一瞬皆の緊張が緩んだ。


 遠くまで飛んで疲れてしまったのね。

「ペコ…………」

 リリーは切なそうにペコを見つめる。


「お嬢様、わたくしめにお任せ下さい。心配はいりませんぞ。今ペコをお嬢様の部屋へお運びしますからね」


 今まで黙っていたジイヤが力を失くしているリリーに話しかけた。


「ありがとうジイヤ」


 リリーはペコがハロルドの目から遠く離されることに安堵する。  


 ハロルドに咎められないと確認してから、ジイヤは十人の侍女たちといっしょに重たいペコを運び出した。



 ジイヤはその後広間には戻らないで、一人小さく頷くと、こっそりとお屋敷を抜け出して行った。



 その後も話は平行線のまま続いた。


 痺れをきらしたハロルドは「そこまで抵抗するなら力づくで奪うしか無さそうだな」と言って手を大きく打ち鳴らした。


 ハロルドが連れてきていた十数人の護衛たちが剣を片手に、リリーの両親と侍女たちを取り囲む。


「明日の昼食に、両家の親睦パーティーを身内だけで行います。その時にお2人は護衛の者たちと一緒に私の屋敷へ来て下さい。リリーは今すぐ連れて行きますがね。手紙はその時までに必ず捜させます。公爵家の意向に逆らえるとは、皆さん思っていないでしょう」


「リリー!!」


「お父様! お母様!」


「リリー、君が大人しく僕と結婚すると言うのならご両親には何もしないよ。そのうち君の竜も引き取りにくるから心配しなくていいしね?」


 いくぞっ! ハロルドの声に、残り2人の護衛がリリ一の両腕を掴む。


「いや! 離して!」


 リリーは必死で体をよじるが、2人の大きな護衛に対抗できるわけもなく、引きずられるように連れて行かれる。


 その時リリーの細い薬指から、花の指輪がはらりと落ち、後ろから歩いてきたハロルドの黒いブーツに踏みつぶされた。


「リリー!!」


 両親の悲痛な叫びが広間にむなしく響いた。


◆◆◆



 ハロルドのお屋敷の中に入るのは初めてだった。


 お屋敷に入ると、ハロルドの母親と弟がリリーのことを、品定めするように頭のてっぺんからつま先までじっくりと観察する。


 拉致されて連れてこられたリリーは彼らに何と挨拶するべきか全くわからない。

 

「この子が金のたまごを抱く嫁ね。まあまあ可愛らしい娘じゃない。素直そうだし、扱いやすそうでいいわ」


「兄さんの趣味では無さそうだけど、でも結婚ってそういうものだしね」


 大変なところへ連れてこられたのだとリリーは改めて愕然とする。


「あの……、コーリン公爵様は? 私、ご挨拶を……」


「あの人に会うのは結納金を納め結婚準備がスタートしてからでいい。今は心身共に弱っているし、ストレスになる。色々文句を言われるのも面白くない。今は家の内外のことは私と母が2人で決めている。余計なことを考えるな」


「そんな……」


 今やコーリン公爵ではなくハロルドがこの家の実権を握っていることを知って、リリーはますます心細くなる。


 コーリン公爵はリリーの父に似て物静かなやさしい人物だと聞かされてきた。どうやらハロルドや弟は現金で気の強い母親に似てしまったようだ。この家のカ関係は3対1でハロルドの意見がすんなり通ってしまうのだ。


「そんなことより、その薄汚い竜使いのような服を捨て、湯殿に行ってこい! 侍女長、リリーを私にふさわしい令嬢に見えるように綺麗にしてやれ」


「かしこまりました。ハロルド様」


 リリーはその後すぐに湯殿に連れて行かれ、侍女たちに体の隅々まできれいに洗われた。そして美しい真珠の散りばめられた白いシンプルなドレスを着せられ、ハロルドの部屋へ連れてこられた。


 ハロルドがいないことにほっとしつつ部屋の中を見渡す。


 ハロルドの大きすぎる部屋には、高級な机とソファー、大きなベッドが2つある。そして一つのベッドのまん中には、あの竜のたまごが毛布にくるまれて置かれていた。


 リリーは思わず走りよってベッドに乗り、たまごに触ってみた。たまごはまだちゃんと温かかった。


「良かった。ちゃんと生きてるわ……」


 ほっとしてたまごを撫でる。一年ちょっと前にあたためていた「ペコたまご」を思い出し、リリーは思わず微笑んだ。


 ガチャリ……


 重い扉が開いてとうとうハロルドが入ってきた。


「…………!」


「おやおや、もう仕事を始めているのか? 感心なことだ。でもそれよりも今夜は私と語りあかさないか?」


 ハロルドの目が食肉動物のように光った。








全14話で完結します。

もぅしばらくお付き合い下さいませ。


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