挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ドッペル転生~鑑定&コピー能力で目立たず着々と最強に~ 作者:あまうい白一

一章 転生 そしてダンジョンへ~

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

10/36

第十話 巣穴を出るとき

 翌日。俺はいつも通りキマイラの窪みを訪ねていた。
 今日は何をやるのだろう。

 そう思いながら、窪みを覗き込んだ。瞬間、

「――!」

 ゴゥッと、突風のような勢いでキマイラが突っ込んできた。
 肩の筋肉をおこらせてのタックル。つまりは攻撃だ!

「ぬおおお!」

 俺はとっさに後ろ足に力を込める。
 そして両手を前に構えて、キマイラの突撃を真正面から受けて立った。そして――

「どりゃッ!!」

 人間時代に使っていた、打撃の受け流し。それを行使することで、キマイラの巨体を受け止め、抑えることに成功した。だが、

「おいこら、一体どういうつもりだアンタ。いきなり攻撃してくるなんて。しかも本気だったろ。」

 爪は使ってこなかったが、キマイラの筋力をすべて爆発させた一撃だった。確実に本気じゃないと打てないタックルだ。なぜ、そんなものを出会いがしらに打ってくるんだ。

 じゃれ合いにしても度が過ぎているぞ、と地に伏せたキマイラに問いかけようとしたのだが、

「は……は、よく受けてくれた。ああ、全身全霊を込めて負けた! ……やはり、貴様は、天才だなあ」

 弱弱しいキマイラの声が聞こえた。
 そして、地に伏せた体からは、大量の血液がこぼれだしていた。

 見れば、腹部に大きな裂傷がある。そこからとめどなく、血があふれ出て、血だまりを作っていた。

『おい? この傷はどうした。まさかさっきの突撃で――』
『――違うぞ。これは、私が元々負っていた古い傷だ。治らずふさがらない、進行性の魔法の傷だとも。だから、気にするな』
「気にするなつったって……」

 キマイラの言葉は途切れ途切れで、明らかに消耗している。
 これだけ出血していれば当然の状態だ。

 にもかかわらず、キマイラは立ち上がり、ふらふらと歩きだした。
 先ほど突撃してきた窪みの奥の奥へ向かっていく。

『さて、私を難なく退けた貴様には宝を渡そうか』
「おい……何を言っている……」

 キマイラは俺の問いに答えない。
 その代わり、窪みの奥をごそごそと漁ったあと、何かを咥えて、俺の手元に持ってきた。

 それは、子犬くらいの大きさをした、小さなキマイラだった。

『この子を、頼む』
『何を……。今度は、これが宝だってのか?』
『ああ、そうだとも。私が産んだ子だ。血の気の少ない貴様なら、同族の子でも育てられるだろう?』
『待て待て。話が見えん。なぜ、俺なんかに子供を託す?』
『見れば分かるだろう?』

 腹部の傷を見せてくる。
 どす黒い血で染まったそこからは、キマイラの中身が出続けていた。

 見ればわかる。
 もう彼女は持たない。

『キマイラという種族は、成熟期に入ればすぐに大きくなる。だが、この子にはまだ、少し時間が足りない。この子は、あと三日か、最低でも二日間は、この幼年状態で過ごさなければ、ならない。――だが、私は、もう消える。キマイラは肉体が死しても魂が残るが……身体が死ねばこの子を守れない』

 一撫でしてから、俺の目を見る。
 既に眼はうつろだった。

『もともと怪我をしていたと言ったな? もっと早く治療していれば変わったんじゃないのか?』
『いいや、無理だな。少なくともこのダンジョンにある薬の類では治らぬ傷だ。なにせ進行性の傷だからな。病や私たちの呪言と同じだ。解呪出来るものがいなければ治らぬ。そういう攻撃だ』
「誰からだ。誰がそんな傷をアンタにつけた……!」

 あまりにあっさりした告白に、俺は思わず声を大きくしてしまう。だがキマイラはその声を嬉しそうな態度で聞いていた。

「はは、怒ってくれているのか? 本当に変わった同族で、良い奴だな貴様は。だから情報は残そう。私に傷を付けたのは、どこにでもいる邪竜からだよ。このダンジョンにもいる、な」

 キマイラは部屋の奥を見た。
 がまだ探索していない暗闇のほうだ。

「全く、邪竜程度、昔は余裕で狩れたのだがな。子供を庇って、これを食らって。堕落したものだが……そのおかげで、私の技術をすべて渡せる貴様のような天才に会えた。それはとても幸運だった。ああだから、この傷は呪いであり救済であったな」

 ふふ、とキマイラは笑った後で、子犬のような子キマイラを手に取った(・・・・・)

『そういうわけだ。幼年期間……あと数日だけで良い。この子を預かってくれ』
『見ず知らずの俺に、子供を頼むかよ』
『何を言っているんだ。見ず知らずの者が私の傷を心配するものか。そして私の傷に怒った貴様が、『人が良い』ことくらい、分かるさ」

 キマイラは笑いながら言った。

『ああ、同族の癖に人が良くなければ私の心配などするものか。弱い弱い呪言の効果を気にして会いに来てくれるものか。そしてなにより貴様は『とても強い』感覚がする。天才である以上に歴戦をくぐりぬけて来た雰囲気がある」

 野生の勘というやつなのか。
 うつろな目ながらも、キマイラはこちらの目をまっすぐにとらえながら言ってくる。

『『とても強そう』で『とびきり人が良さそう』な貴様だから、私の子を頼むのだ』
「迷惑な話だな」

 そう言ったら、ほほ笑まれた。

『ああ、そうだろうな。押し付けて申し訳ないとも思う。だから……こうしよう。私がこれまで得て来た研究成果を費やした、とびきりの呪言を貴様にやろう。――《貴様はとても強くなる。限界なんてないくらいに強くなる。私の魂は呪い(加護)となり、貴様の力へ変わり、永遠に守るだろう》』
「……長い、呪言だな」
「ああ、飛び切りだろう? これまでで最長の呪言だが、ちゃんと、この言葉は呪えている筈だ。それとオマケ……というわけではないが、このダンジョンから出れたのならば、キマイラの里に、行くといい』
「キマイラの里……。昨日言っていた場所か」

 このダンジョンの外にあるという、目の前の彼女がいたという場所だ。

『……まあ、外で生まれたのであれば、知らずとも仕方ないが、いい機会だから、行くといい。そこに私の財産が残っている。全て、渡そう。――これも《呪言》による契約だ。私が死しても残せる、数少ないのものだ」

 呪言によってなされた契約は、術者が死んでも残り続ける。だから目の前のキマイラが息絶えても、『財産をすべて渡す』という契約は残り続けるわけだ。

『その契約があれば、同族たちが文句を言う事もあるまい。私が支払えるのはこの位だが……引き受けて、くれるか? 数日間、私の子を、預かって、くれるか? そして可能であれば……この子に外を見せてやってくれるか?』

 息も言葉も続かなくなってきた。
 もう、喋ることすら限界なのだろう。

 それでも器用に子供を手で捕まえて俺の前に浮かべた。
 ああ、もう考えて、喋ってやれることなんてない。だから、とてもシンプルに返事を返そう。

「分かった。契約だ。俺はその言葉を受け取ろう」

 俺は頷いた。
 彼女の手から、子供を受け取った。子キマイラは一度、母キマイラを振り返ってから、

「――」

 俺の手に体をこすりつけて来た。

『ああ、問題なさそうだな。受け入れてくれて、ありがとう。私は一足先に魂になって貴様たちを見守ろう。もしかしたら化けて出るかもしれないけどな』
「……そうなったら、また喋ろうぜ」
「ああ、そうだな。それは、楽しみだ…………』

 その言葉を最後にキマイラの手は落ちた。 

 息を引き取ったようだ。
 呼吸をしなくなったキマイラの体は、ゆっくりとしぼんでいく。

 そしてそのまま、死体は掻き消えた。
 キマイラは幻獣種と言われる、体の構成物の大半がマナというエネルギーで出来ているらしく、死んだ場合、即座にマナとして分解されてしまうらしい。

 そして魂だけが残るという。キマイラの霊など誰も見たことがないから、本当にそうなのか分からないけれども。

 ……まだ、目の前にいるのかもな。

 そんなことを思いながら、俺はドッペルゲンガーの体に戻る。

 そして、近場の鏡魔石を見た。そこに映っている自分の姿には、

【グレンlv2
 状態:アビスキマイラの呪言1(キマイラの里で全ての宝を渡す。遺棄は不能)
    アビスキマイラの呪言2(アビスキマイラの魂をグレンに。アビスキマイラに変身時レベル補正+※2。レベル上昇により、キマイラの強制ドッペル終了。通常ドッペルに移行。期限:永遠)】

 きっちり、キマイラの呪いが残されていた。ただ、

「なんだよ。アイツ……自分の子供に関する事は、呪わなかったのかよ」

 連れていかなかったら死ぬ、とかそういう呪い方も出来ただろうに。

「俺を信用し過ぎだろ」

 ぼやきながら、俺は手元を見た。ドッペルゲンガー状態の、僅かに実体化した部分だけで持ててしまうほど、小さなキマイラの子供だ。

 子キマイラはうっすらと眼を開けた状態でこちらを見て、それから、もはや親キマイラがいなくなった虚空を見た。
 涙を一つ流して、それから、俺の手に体をこすりつけてくる。キマイラから姿が変わっても、俺に身を任せているままだ。

 ……どうやら信用されているらしい。

 と思いながら、俺も、その子キマイラと共に、先ほどまで話していた異形がいた場所を見る。

「こんなところで喋り相手が出来るなんて、嬉しく思っていたんだけどな」

 ダンジョンで一人孤独に、ひたすら生き抜いていた所に、会話できる相手がいたのは嬉しかった。例え人外と言えども喋れて、意思疎通できてほっとした。なのに、

「名前を名乗り合うことも、満足に話す暇もなく。人に何かを託してさっさと逝くんじゃねえよ。悲しくなるだろうが……」

 俺は息と共に言葉を吐きながら、子キマイラを手に、自分のえさ場に戻っていく。

 力を得たこの身で、この子キマイラと共にダンジョンから出る。
 その計画を立てるために。







『ぬう、……魂になるとはこういう感覚なのか……』

 キマイラは、自らの肉体が死んだ場所に、魂となって立っていた。
 肉体の自分が死んで、目の前が真っ白になったかと思ったら、いつのまにかは霊体になっていたのだ。

 目の前では何やら複雑な表情を浮かべている同族と自分の子がいる。だが、

『向こうからは、見えてはいないよな』

 そしてこちらからも、触れられもしない。

『化けて出るとは言ったが、どうにも、魂の力が弱過ぎるのか』

 強い魂を鍛え上げたものは、死しても他人が見ることのできる死霊や霊獣になる。だが、

『ヤツに渡し過ぎたようだな』

 どうやら最後の呪言で力を分け与えすぎたようだ。そのせいで、霊獣になるレベルには至っていなかったようだ。
 ただ。何とも言えない表情の二人を見ていると、思いがこみ上げてくる。

『ああ……また、話したいな』

 霊体でもいい。この男とまた笑いながら喋りあいたい。
 だから、今から魂を強くしよう。かつてキマイラだった女性の霊はそう、心から思い、動きだす。
 いつか、自分の子と、託した彼と再会するために。
ダンジョンで力と決意を手に入れた所で、一区切り。一章完です。続きの二章は明日昼~夜に。
二章からも盛り上げていきますので、今後ともよろしくお願いします。

●平行連載作品のご紹介
新作です。こちらの連載も応援して頂けると助かります!
元竜騎士が相棒の竜と共に、楽しく運び屋をしていく話です。
 最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます
http://ncode.syosetu.com/n4045ed/

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ