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たったひとつの冴えない趣味

 2017年1月15日


 ただ、ただ、一段と寒い日でした。

 それ以上のことは、特にありません。

 何も考えず会社へ出向いて、昨日の続きの仕事を進めて、ぎゅうぎゅう詰めの電車で帰って、家でばかり余計なことを考える、フィルムの焼き直しの一日でした。


 部屋のエアコンが吐き出す、生温い乾燥しきった風も。

 さっき外で吸ってきた、寝る前の煙草の味も。

 会社から帰ってきた際の、化粧の落ち具合も。

 こうして日記を書いている今、手元を照らしているライトの灯りも。

 今日も、何も変わりありません。


 ただ、本当に寒い日でした。

 外から戻ったばかりなので、余計にそう感じるのかもしれません。

 指先が悴むどころか、身体中が震えて耐えられないような、そんな温情のない夜風でした。




           ・




           ・




           ・





 いつ頃からか、中身の無い内容の日記を、毎日書くようになった。

 日記というより、一日の感想文に近いかもしれない。

 でも、日記に残すような出来事を生活の中から探しても何も出てこないのだから、仕方ない気もする。この日記は、私のどうしようもなく無駄な時間の象徴みたいなものだ。


 高校を卒業すると同時に東京へ出てきてから、もう少しで、もう七年が経とうとしている。 ただ何となく憧れただけの夢のために専門学校へ進んで。

 その場しのぎだけが積もった、挫折感すら憶えないような二年を過ごして。

 何を思うでもなくただ入った、そんな会社に勤めて。

 その合間合間に、実家とこちらを行ったり来たり。

 瞬間的に何かを得られてはいても、時間が経つごとに隅から薄れていって、気付けば何も残っていないような、意味の感じられない、白湯のような時間だった。そして、それは今だって同じ。

 日記帳を閉じてデスクライトを消し、パソコンの電源を落として、暗くなった部屋で、私は布団に潜り込んで毛布を被る。最初は冷たかった毛布が少しずつ体温で暖かくなってきた辺りで、私は壁際へ身体を寄せるように寝返りをうった。


 自分の中の、なんというか、幸福へ向かうための意欲みたいなものが、いつの間にか根こそぎ失われているのをわかりやすく実感したのは、専門学校を卒業して二年程が経った、ある日のことだった。

 その日、朝起きてシャワーを浴びようとした私は、ただなんとなくそのことに気付いて、けれどそのまま何事も無く出勤し、定時で仕事を終え、そして帰宅するなり、操り糸の切れた人形のように布団に座り込んで、そのまま長い時間をかけてゆっくりと眠った。

 何を始めても長続きしなくなったのは、それからだった。

 趣味のようなものを新しく探して、見つけても、どうしてもすぐ、灯りがフッと途切れるように、突然意欲が溶けてしまう。

 興味がなくなるというよりは、こんなことをして何になるんだろう、と、唐突に空虚な気分に堕ちてしまう、みたいな事のほうが近いのかもしれない。

 結局、今も続いているのは、この日記ひとつだけだった。

 

 今になってみれば、もしかしたらあの日の、あの時が、自分の限界だったのかもしれない、と少し思う。あの時、何かしらの目に見える選択を起こしていれば、私はまだなんとかなったのかもしれない。無駄になった数年間を腐らないうちに切り捨てていれば、こんな風にはならなかったのかもしれない。


 目覚まし時計のアラームをかけ忘れたことに気付いて、一度布団から這い出る。暖かくなった布団から出たせいか、暖房を切ってからまだそれ程経ってないのにもかかわらず、部屋の中は随分冷え切っているように感じられた。

 携帯電話の明かりを頼りに目覚まし時計を弄り、足早に布団へ戻ろうとして、ふと机の上の日記帳が目に入った。

 私の限りなく無意味な時間が、もうこれだけ積もっている。

「〝たったひとつの冴えない趣味〟、か…」

 表表紙に、赤いマジックで書かれた日記のタイトル。

 思いつきのもじりでつけた、いい加減な名前だったけれど、今こうして見ると、他の何よりも、ぴったりなタイトルのように、私には思えた。

 日記帳から視線を切って携帯電話を充電コードに繋ぎ、私は改めて布団の中に潜る。

 明日もまた、意味の薄い私の時間が、重なっていく。


大分空いての投稿となりました、読んでくれている方がどれだけいるのかも、そもそも存在としているのかも定かじゃないのに謝罪というのもナニイッテンダコイツみたいな感じがしますが、ごめんなさい。

いい加減焦り始めたことと、帰省から戻ったこともありますので、またあげていこうと思います。

宜しければ、ご一読頂けたら幸いでございます。

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