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輝夜姫は月には帰らない

 



 照らされた月のように白い肌、インクのこぼれた闇夜のように黒い髪、そして血塗られた真っ赤な右目。10人とすれ違ったら10人が振り返るその美貌。恐ろしく美しいその人は、今日本中の注目を集めていた。



「…貴方は私を殺すの?」

「仕方ない。俺だって君を傷つけたくないんだ」



 真紅のドレスを身にまとい、そよ風の吹く宵の屋敷のテラスで、彼女はスーツ姿の男に銃を突きつけられていた。髭面のその男は、いかにも悲しそうな苦しい表情をしているにもかかわらず、彼女はただ不敵にも笑うだけだった。

 周りには複数の大型の黒いカメラ。その近くには青いチェックのパーカーを腰に巻く艶やかな茶髪の女性と、真っ黒な服を着た闇に紛れる人間がたくさんいた。

 彼女は再び話し始める。



「その鉄の筒は…私は人を殺傷するために、貴方に渡したモノじゃないわ」

「わかっている。わかっている!!」



 男は怒りに顔を歪ませながら、彼女の首をギュッと掴んだ。



「お疲れ様だ。クラリス」



 彼女が赤い瞳から涙を流すと、甲高い綺麗な声が闇を切った。



「カットォオオ!!」



 カチン!というハサミでモノを切るような音がして、周りから拍手が湧き上がった。男は彼女の首から手を離し、苦笑いを浮かべながら頭を撫でた。



「大丈夫か? 痛くなかったか?」

「あぁ。大丈夫だ」

「相変わらずのタフさだな。もしかすると、お前此処から突き落としても死なねぇかも」



 男はテラスから下を見下ろす。スタッフが慌ただしく動き回り、その場所から地面までやく6メートルはある。落ちても死にはしないだろうが、骨折は免れないだろう。何が突き落とすだ。

 彼女は天供神 輝夜テンクウジン・カグヤ。今話題沸騰中の、人気女優だ。現在は視聴率50%を誇る人気ドラマ「セストレル王城物語」の撮影中だった。



「いやあやあ、相変わらずの演技力ね。輝夜ちゃん?」

「香織さん…どうでしたか?」

「輝夜ちゃんの所為のカットがあるわけないよ。あるなら、その男の所為」



 女性はパーカーを羽織り、丸まった台本で彼女の近くの男を指した。この女性は西条 香織サイジョウ・カオリさん。このドラマの監督を務める、2児を持つ敏腕シングルマザーだ。その美しい容貌とスタイルで、彼女の作品は映画評論家が100点を出すほどの完成度だけではなく、香織さん自身のおかげでヒットしているものも数多く存在する。



「お、俺なんですか監督。俺っチ、演技激上手なんですよ〜」

「おや、草葉はしょっちゅうセリフを噛むじゃないか!」

「いやはや、君に気を使ってあげているのだよ〜、ちょいと休憩時間をね」



 そう言ってニコニコ笑うのは、草葉 探クサバ・サグルさん。俳優さんの中でも輝夜と仲の良い人だ。一部では兄妹じゃないかと噂されるほど息の合う人だ。ちなみに20歳くらい離れているので、恋愛対象にはならない。



「わー、言い訳だー」

「言い訳だー」

「監督も便乗するな! ガキかい!」

「わー、監督には敬語を使えー」

「私にも敬語を使えー」

「精神年齢ひっくいのな!」



 草葉さんイジリは中々楽しい。輝夜と監督の暇つぶしだ。何というか、反応が楽しい。いつも通り、みんな笑いふける。嗚呼、なんて楽しい時なのだろうかーー


 *


 一応、輝夜は女子高生だ。高校2年生の女子高生だ(大事な事なので2回)。撮影などで仕事尽くしのはずなのに、日本有数の名門「新稲第一付属高校」にトップの成績で入学していた。裏口入学したんじゃないかとも囁かれていたが、勿論実力だ。

 学校でも輝夜は注目の的で、友達が多いというよりかは、常に距離を置かれている状態だ。美しいが故の距離だった。

 美しいと同時に、恐れられてもいた。あの右目だ。真っ赤な右目。映画やドラマでも見た事のある目だったが、いざ生で見るとそれは血のようで見ているだけで寒気がした。



「輝夜様素敵…」

「キャー、無茶苦茶美人〜!」

「やべぇ、今俺、目があった」

「お前今から石になるぞ? それか爆発するぞ?」



 廊下を歩くだけでこの反応だ。話しかけたりしたら、失神するか逃げ出すかする生徒が続出していた。先生方はそれを仕方ないとも感じていたがしかしーー



「天供神さん、実はお話がーー」

「学校は辞めませんよ、先生」

「しかしですね…他の生徒が勉学に集中できないのですよ。お分かりいただけないでしょうか」



 丁度この日、輝夜は校長室に呼び出されていた。



「私が撮影の合間にどれだけ勉強したと? 何週間寝ずに体調を崩したと?」

「っ…」

「私が授業妨害になるのは分かります。でも私は…勉強がしたいんです」

「では、良い塾をご紹介しましょう。それでどうでしょうか?」

「…もう、良いです」


 *


「学校、好きなのだがな…」



 結局の所話はつかず、輝夜は学校の周りの歩いていた。青い空が緑の芝生を明るく照らしていた。そこに佇む一人の少女。その光景は実に画になった。



「いや、別にバカというわけではないのだがなぁ…私」



 勉強が好きなだけだ。そこらの塾なんて、レベルが低すぎる。そこらの高校なんてーー大学は高校卒業してないと入れないし、外国に行くわけにもいかない。仕事は好きだ。勉強も好きだ。何方も辞めたくない。



「ハハ…運命というモノは、中々上手くいかないな。好きな事ばかりといったら、大間違いーーうわぁ!!」



 体が落ちる感覚がした。落ちて落ちて落ちていくーー



「なんだ! なんなんだ!!」



 叫びは木霊し、あたりに響いた。真っ暗で何も見えない。落ちる。まだ落ちていくーー

 気がつくと美しい姫は、冷たい床で寝ていた。

今ノートに書いてるんだ、この小説( ^ω^ )


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