背伸び
毎年、夏になると近所にある向日葵畑が太陽に向かって背筋をしゃんと伸ばしている。その風景を毎年夏になると見てきた誠一郎は、いつ見ても大きく立派な向日葵だと思いながら自転車から降りた。
今年の夏はとても暑い猛暑日が続いている。田舎でありながら、どことなくごちゃごちゃとした田舎町にぽつんと華やかに咲いている向日葵は、まるで長い間そこに居たよとも言っているようだった。
もくもくと、綿菓子のような入道雲が現れた。このままだと、太陽は隠れてしまうのではないか。誠一郎は日の光を浴びれなくて心なしか気分が垂れ下がってしまう向日葵のことを考えて、町内のプールに行くことすら忘れ。ただただ背丈のある向日葵を見詰めていた。
「……向日葵さん。太陽が好きか?」
向日葵は何も答えない。でも、微かに笑ったような気がした。蝉の喧しい大合唱にも屈することがない、強く背筋を伸ばす、芯のある向日葵は雲に隠れないでいる太陽を真っ直ぐと見詰めているようだった。
誠一郎は、向日葵を見詰めた。
誠一郎は向日葵に背を向けたかと思えば、爪先で立って背伸びをする。両手を広げて、向日葵を真似るように光合成をした。
眩しい直射日光が網膜を焼いた。ちかちかと星が瞬いているようだ。ずっと太陽を見詰めるのは難しい。そう感じて、誠一郎は目元を細めて笑った。
「向日葵さんって凄いな。俺は太陽を見つめ続けらんない。でも、そんな向日葵さんが俺は好きだな」
誠一郎は向日葵の方を向いて、太陽のような笑顔を見せた。その笑顔を見せられた向日葵が誠一郎に対して笑った気がした。