奪われたのは初めてのkiss
GL風味です。苦手な方は回れ右。
騒がしい蝉の大合唱に、私――竹内美穂は重たい溜め息を吐いた。こんな夏場に、高校で出来た親友の香波とだだっ広い中央公園で移動販売で買ったクレープを食べてる。なんか、凄く蒸し暑くて、じりじり焼けるような太陽様が本当に鬱陶しくて堪らないんだけど……。
素肌にTシャツが貼り付いて、着ている下着が透けたらどうしようと思った。それは苦じゃないのか、長い髪をポニーテールにしている香波に声を掛けた。
「香波ぃ~ぢゃ~ん。暑くて私死にそうなんですけどぉ~」
「えー? まあ、その時は美穂の干物を私が美味しく平らげて……」
「怖いこと言わないでください、香波様。貴方は食人鬼か!?」
私はくわっ、と目を大きく開いて、香波にそんなことを言ったら、何故か知らないけど香波は色っぽく微笑んで「美穂限定だよ?」と言った。
……私にそんな趣味はないんですが!?
私はとんでもない恐怖心を感じて、ぶるりと身震いした。なんだか、夏の暑さを忘れられた気がする。
……うん、怖いよ。香波さん。
「ねね。美穂のクレープ一口頂戴?」
「じゃあ、香波のも一口頂戴ね」
私はチョコレートアイスを巻いたクレープを香波に渡してから、香波の生クリームと苺をふんだんに使ったクレープと交換した。
ぱくり、とクレープを食べると、美味しくて堪らない甘さに私は舌鼓を打った。すんごく美味しい。苺の甘酸っぱさと生クリームの濃厚でまろやかな味が合わさって最高。
「あ、美穂。生クリーム付いてるよ」
「え? どこ?」
私は香波にそう聞いた瞬間、香波の顔が私の前に来ているのに一拍遅れた。
柔らかなマシュマロのような弾力が唇に来た。そして、ぺろりと香波は私の唇を嘗めて、ご満悦な顔をした。
「ごちそうさま。甘くて美味しかったぁ」
「……え? え?」
「私、入学式の時から美穂のこと狙ってたんだ。私、レズ寄りのバイだから」
妖艶に笑って、揺れるポニーテールを軽やかに揺らした香波は、私の食べていたクレープを夢中に食べ始めた。
……え?
夏の暑い日。騒がしい蝉の声だけがまるで空気を読まないで騒ぐだけ騒ぐ、私のファーストキスが悲しいことに奪われた夏の日を、私は一生忘れないだろう。何故なら、彼女は私の親友でありストーカーだったから。