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朝日が白に染まる時

 ――私は百合が好きだな。

 高校時代に出会った、日焼けした浅黒い肌をして、笹浜未來という女は俺にそんなことを言っていたのを、俺は今更ながら思い出していた。高校時代は誰からも好かれる、女らしさとは無縁の女子生徒だったよな、と花屋に置いてある純白の百合を見て、何故か物思いに耽る。

 笹浜は、皆の太陽だ。今はこの町から遠くに居るから会えないが、数少ない女友達の彼奴が気になって、彼奴が好きだと言っていた白百合を暫しの間眺めていた。

 スラックスのポケットに入れていたスマートフォンが震えた。羽虫の鳴るようなバイブ音を耳に入れて、俺はスマートフォンを取り出した。

 ……笹浜から?

 珍しい。最近は仕事が忙しくて連絡を取り合うことはなかった。懐かしい気持ちを感じさせてくれた白百合が運んできてくれたのだろうと思い、通話のアイコンをタップして、俺はスマートフォンを耳に当てた。

『山村。久し振り』

 声だけは女らしい笹浜の声に、やはり懐かしさが込み上げてくる。俺は「おう、久し振り」と返して、暫しの間他愛もない日常会話をした。

「そっちの仕事は順調か?」

『まあね。順調だよ。今はすっかりエリートなキャリアウーマンかな』

「ははっ。なんだよそれ。まず、電話掛けてくるのって珍しいな。なんかあったのか?」

 そう俺は投げ掛けた。でも、何故だろう。笹浜の様子がいつもと違うように感じる。

『ねぇ、あのさ。一つだけ、アンタにお願いがあるんだ』

「ん? なんだよ、改まって。言ってみろよ」

『……うん。今度一緒に……うーん。何て言えばいいんだろ。山村と思い出作りがしたいな、って思って。駄目かな?』

「そんなことか。なら、有給使って北海道に行こう。ラベンダー畑に行ったり、海鮮食べたりな」

 俺は弾んだ声で笹浜に友人として話し掛けていた。でも、何故だろう。笹浜が泣いている声がした。

「どうしたっ?」

『……ありがとう、ありがとう。私ね、アンタのこと好きだよ。だから、今度、一緒に北海道に行こうね。行こうね……』

 笹浜は「ばいばい」と涙声で俺に伝えては、関係を切るように通話を切った。





 そして、有給を取ったその日、何故か俺は葬式に出ていた。笹浜未來の葬式だった。朝日のように眩しい笹浜の笑顔とは正反対に、死んだ笹浜は白く細かった。



End...

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