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おまけでつれさらわれました

 セラフは機嫌が良さそうだった。

 よく見ると、写真の一番上はベルゼルの女装姿(アップで少し泣きが入っている)だった。

 それを時々チラチラ見ながら、セラフは嬉しそうにしている。


 一方ベルゼルはセラフのすぐ側で複雑そうな表情をしている。

 その理由はすぐに分かった。


「セラフ、すぐそばに本物の僕がいるのに何で写真に夢中なんだ」

「女装したベルゼルは別腹です!」


 女の子がデザートは別腹という情熱を語るように、セラフは真剣な表情でベルゼルに告げた。

 それにベルゼルの機嫌が悪くなったのはいいとして。

 フォルカーが待ちくたびれたというように、


「それで、勇の写真は?」

「はい、こちらですね。フォルカーや私達と一緒のものも全部入っています」

「そうか、では、これから勇に自覚してもらおう」


 フォルカーがそう言って写真を受け取りながら僕を見た。

 な、何だろう、嫌な予感しかしない。

 そう思いながらも手首を掴まれて僕は、フォルカーの横に連れてこられる。


 そんな僕にフォルカーは、先程もらった写真を見せてくるが、そのフォルカーの姿に僕は魅入られてしまう。

 だって、やっぱりフォルカーは綺麗だ。

 男性的な凛とした澄んだ輝きのある美しさがあるけれど、それでもこんなふうに着飾ると別格の、女性にも負けず劣らずな魅力がある。


 僕には勿体ない相手だし、フォルカーはモテそうだよなと僕は思っていた。

 そこでフォルカーは、一緒に映っている僕の写真を指をさして、


「見てみろ。勇の可愛さが際立っているだろう?」

「……気のせいだと思う」


 どこからどう見ても、僕の頭に飾りがついていた状態で白いドレスを不満そうに着ているだけだ。

 可愛くともなんともない。

 なので正直に感想を述べるとフォルカーが、


「凄く愛らしい、まるで日向でまどろむ猫のような可愛らしさがあると思わないか?」

「……僕は猫じゃないし、愛らしくない」

「……どうして自分をそんなに卑下する」

「いえ、フォルカーの思考がおかしいとしか思えない。僕は普通だし」


 そう僕は答えるとフォルカーはセラフとベルゼルに、


「勇は可愛いだろう?」

「……そうですね。フォルカーの心を一瞬で射止めてしまう程度には見かけも可愛らしく、危険な鬼畜兵器です」

「そうですね~、でもセラフのほうが僕には可愛いけれどね」


 鬼畜兵器呼ばわりするセラフと、さり気なく惚気を混ぜるベルゼル。

 けれど僕は納得がいかない。

 皆、可愛い可愛い言ってくれるのは嬉しい……嬉しい? かもしれないが、彼らが見えているのは違う僕じゃないのかという気がしないでもない。


 僕は疑惑の眼差しをフォルカーに向けた。

 それに気づいたフォルカーが深々と嘆息して、


「勇は理解するのを放棄しているようだから、どれだけ魅力的で、男を誘うのかを体に教えてやるしか無いのか。……仕方がないな、勇のためだから」

「ま、待って。僕をベッドに引きずり込むのはやめてぇえええ」


 嬉々としてフォルカーが僕をベッドに押し倒そうとしてきたので僕は、それなら僕を納得させるくらい僕の魅力を説明して欲しいとフォルカーにお願いしたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 フォルカーに僕の魅力について話してもらえるようお願いした。

 多分気のせいだ、と言えるだけの隙のある答えを僕はフォルカーに期待した。

 だが、写真を並べて僕の何処がいいのかを話し始めるフォルカーに僕は……僕は……。


「フォルカー、分かったから、分かったからもう止めてぇええ」

「なんだ、こんな所で勇は音を上げて。俺はまだまだ言い足りないぞ?」

「無理です、無理っ、もう、頭がおかしくなりそうというか羞恥心でどうにかなりそう、止めて、許して……んんっ」


 そこで僕はフォルカーにキスされた。

 それに僕は抵抗できなかった。

 あまりにも恥ずかしい台詞の数々に油断をしていたのと、以前よりもフォルカーのキスに抵抗がなくなっていたから。

 もともとフォルカーとのキスがとても気持ちいいのも相まって、僕は大人しくされるがままになってしまう。

 そんな僕から唇を放したフォルカーはぼんやりとした僕に、


「つい可愛いからキスをしてしまった。顔を赤くしている勇も可愛いな」

「……はっ、ゆ、勇者としての力を抑えるのではなく?」

「ああ……説明をしていたら、勇が愛おしすぎてついキスをしてしまった。そうだな、力を抑えるためにもう一度させてもらおうか」

「ふ、ふぇぇ……んんっ」


 そうして僕はもう一度キスされてしまう。

 体の中の力が抑えこまれていくような感覚を覚えて、ぼんやりする。

 そのキスはすぐ放されて、


「……一気に力を封じると体への負荷が掛かり過ぎるからな。こうして少しづつ封じていく」

「う、うん……」


 僕のことを大事にしているのが分かって、それが……でも今二回もキスされたことにならないかと思って、しかも全然嫌悪感を感じないどころか嬉しく……ぐおおおおお。

 僕は衝撃の事実に気づいて苦悩しつつ助けを求めるように、セラフとベルゼルを見た。

 だが二人は、うわー、とでも言うような顔で僕達の様子を見てひいている。


 ……あんなふうにこじれそうでくっついているお二人がそんな風に見るのですか、そうですかー。

 僕はそう思っていると人が来て、ベルゼルとフォルカーを連れて行ってしまう。

 後にはセラフ一人が残っている。


 というかこの人も酷いよな、自分の事を棚に上げてとちょっとだけ恨めしく僕が思って、同時にフォルカーにこんな簡単に落とされてたまるかと僕は正気に戻ったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 そんな風に思ったものの、僕は男に落とされかかっている……そう思うと悩ましい。と、


「どうした、勇。食欲が無いのか?」

「……う、うん、何だか食べる気がしなくて」

「そうか、口を開けてみろ」


 そうフォルカーに言われて口を開けると、スプーンに持った何かを僕の口に入れてくる。

 なので僕はそれを咀嚼するが、


「! 美味しい!」

「マルレイ蟹と豆のグラタンだ。美味しいだろう?」

「うん、凄く美味しい!」


 僕の食欲が戻り、目の前の夕食を夢中で食べる。

 全てを食べ終わり、美味しかったとおもってそして……何で食欲がなかったかを思い出した。

 フォルカーの手から美味しいものを食べさせられて、すっかり忘れてしまった。


 こんなチョロくてたまるかと僕は思っているとそこでフォルカーに、


「どうした? 何か悩み事でもあるのか?」

「う、え……何も……」

「嘘だな。勇はすぐに顔に出る、何が不安なのかを言え」

「で、でも……」

「言わないなら、言いたくなるようにさせるがどうする?」


 その時のフォルカーの魔王めいた笑みと熱っぽい視線に僕は、もうフォルカーの思いは受け入れられませんなんて言えない。

 どうしようどうしようと僕は思ってそこで気づいた。


「その、部屋で一人でいた時に、変な声が聞こえたんだ。多分気のせいだと思うのだけれど……」

「変な声?」


 そこで真剣な表情になったフォルカーにその声の話をする。

 フォルカーの表情がみるみる険しくなる。


「……こちらでも調べてみよう。もしかしたなら勇者としてあちらで召喚されたから、声が聞こえるのかも知れない」

「そうなんだ……」

「不安がることはない。俺を信じていろ。……もしお前をあちら側に連れ去られたとしても必ず助けに行く」

「……うん」


 フォルカーは僕に言って、僕の頭を撫ぜる。

 それだけで僕の中に湧き上がった不安が霧散してしまう。

 きっとフォルカーなら、きっと助けに来てくれる。


 好きだな、と僕は思った。

 心の中にふわりと浮いてきたその感情と言葉に、僕はとろんとしていて浸ってしまう。

 そんな僕をフォルカーは愛おしそうに頭を撫ぜていて。


 僕が正気に戻って、絆されちゃだめだ、絆されちゃ駄目だと繰り返すのは、食事が終わって部屋に案内してもらって、部屋に一人きりになってからしばらくして……シャワーを浴びて服を着替え、ベッドに寝転んだその時だった。


「うう、もう無理だよぅ」


 白旗をあげる寸前の僕は、そう呟いて自分の顔を枕にこすりつけて頭を抱えていたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 今日は狩りに行くと言って、以前の見せてくれた森に僕はフォルカーと二人きりで向かった。

 森は木々が生い茂るがそこまで暗くはなく、涼やかな風がとても心地が良い。

 所々の窪地のような場所にキノコが生えていて発光しながら胞子を放出していて、それは魅了キノコで媚薬や魅了の効果があるらしい。


 ちなみに僕には効かなくて、フォルカーは残念だと言っていた。

 そして森を歩きながら獲物を探すが、全然見当たらない。


「妙だな。どうしてこんなに森の生き物がいないのか。まるで何処かに消え去ってしまったかのような……」

「そうだね、鳥もいないものね。虫はいるみたいだけれど……不思議な森だね」


 もしかしたならこの世界なら、そんな事もあるのかと思う。

 そこでふわっと黒い霧のようなものが漂ってフォルカーに触れて、消えた。


「フォルカー、今のは?」

「? さあ。だが俺を害せるモノはそれほど多くないだろうな」

「それはまあ、フォルカーは強いしね。でも、フォルカーに何かできるモノって何?」


 特に他意なく僕は聞いてしまった。

 後になって思えばこれが間違いだったのだと思う。


「知りたいのか?」


 そう、フォルカーが僕に嗤ったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 ギリギリアウト、そんな言葉が僕の中で浮かぶ。

 何故僕がそう思ったのかというと、僕が逃げられない状況だからだ。

 壁ドンというのをご存知だろうか?


 僕も最近知ったのだけれど、女の子が壁で逃げ場を塞がれながら、男性に顔の横辺りに手をつかれてヤンデレっぽい愛をささやかれるものらしい。

 つまり、男性側の手と体で檻を作り女の子が逃げられないようにして……という構図だ。

 ちなみに現在、女の子役が僕で、男の子役がフォルカーだ。


 背後には樹齢何百年というかのような巨大な木が有り、それが壁になっている。

 そして目の前には僕を見つめるフォルカー。


「勇……」

「ま、待ってください。フォルカーは今、魔法にかかっているだけなんです!」

「魔法……勇の魅了の魔法には、初めて出会った時からかかっているな」

「違っ! そんな魔法は僕は使えない……というか、魅了キノコの胞子の影響でこうなっているだけで、本当は違うはず!」

「魅了キノコだからといって、初めから嫌いな相手には効かないぞ? それにこの俺を誰だと思っている? “魔王”だぞ?」


 笑いながら僕の顔にキスしようと近づいてくる。

 フォルカーの瞳はどこか虚ろだ。

 それに僕は必死になって手で抵抗しながら、


「フォ、フォルカーは、これから僕をどうするつもりなのかな?」

「そうだな……初めてだから優しくしてやるよ、勇」

「ひ、ひぃ、ほ、ほら……今日は狩りに来たんだよね? だから獲物を探そうよ」

「獲物? そうだな……獲物は、俺の目の前にいるな」

「そうではなくて普通に動物を探しに行きましょう!」

「いつもの獲物がいないから、別の獲物で満足しようとしているだけだ」


 微笑むフォルカーだが相変わらずその瞳がおかしい。

 そもそもこんな状態でされてたまるかと僕は思うのだ。

 しかも外だし。


 どんなプレイだよと僕は思うわけです。

 思っているけれど、状況は悪化していき……混乱した僕は、フォルカーを突き飛ばして走りだし、そこで、ある人物と遭遇したのだった。






。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 僕が出会った人物も、涙目だった。

 ピコピコと動く猫耳のかわいい容姿の獣人。

 そして纏う金色の光の粒。


「勇ぅううう――!」

「う、え、えええ!」


 僕を押し倒すように涙目でフランが僕に抱きついてきた。

 なので僕はバランスを崩して尻餅をついてしまう。


「痛たっ、もう、危ないよ」

「ご、ごめん。友達がいたからさっきまでの心細さもあって、つい」

「仕方がないな……それで、どうしたの?」


 そう僕が問いかけるとフランが説明を始めた。

 何でも新メニュのために、森にキノコや果実を取りに来たらしい。

 この森のキノコを使ったグラタンやスープ、果実で作ったジャムを提供しようと森に入ったらしい。


 もちろん守護者のジルと共にだ。

 そして森には危険な動物もいるのだそうで、“癒しの祝福”を自身にかけたらしい。

 そんなフランはジルにも“癒しの祝福”をかけようとしたのだが、


「守護者だから俺は、そんなものがなくても平気だっていって、言うことを聞かなくて。でもジルだから大丈夫だと思ったんだ、僕。……それが全ての間違いだったんだけれど」


 遠くを見るようにつぶやいたフラン。

 彼が言うには、その魅了キノコの胞子の影響を受けて、ジルがフランに襲いかかったらしい。

 性的な意味で。

 なのでフランは涙目になって逃げ出して、僕と出会ったようだ。


「まさかジルが突然あんな事をするなんて……もしかして、勇も?」

「う、うん、魅了キノコの影響でフォルカーが……」

「ええ! 魔王様もかかっちゃうの!? そんなに魅了キノコって危険だったんだ。やけにこの辺に増殖しているなというか、森全体に何だか増殖していて気味が悪いよ……」

「そのキノコが生えるのには何か理由があるの?」


 僕はフランに聞いてみるが、よく分からないと言われてしまう。

 ただ、この魅了キノコの生えている場所は、狂気に侵されて危険だ、と言われているらしい。

 そもそもこの魅了キノコはとても貴重なものなのだそうだ。


 特に媚薬の材料として高く取引されるらしい。

 こんなことにならなかったらホクホクなのにと、フランには耳を動かして悔しがる。

 以外に逞しいフランに、うむ、と僕は思ったのはいいとして。


「でもどうしよう、二人を放っておいて何処かに行くのも不安かも」


 そう僕は言うとフランも黙ってから頷いて、


「そうなんだよね。でも近づいたら襲われちゃうし、どうしよう」


 そこで二人して黙る。

 そんな僕達に唐突に複数の黒い影が現れた。

 はじめはフォルカーかジルに見つかったのかと思ったけれど、そうではなかった。


 彼らは僕達に魚を捕る黒い網のようなものを投げてくる。

 突然の出来事に僕たちは為す術もなく捕らえられ、そして、何かの魔法をかけられる。

 けれど防御の魔法が効いたのと、フランには“癒しの祝福”があるので効かない。と、


「面倒だ。このまま連れて行け!」


 そんな声が響いて、僕達は網に包まれるようにして宙に浮き、その空間にぱっくりと開いた穴に放り込まれてしまう。

 その穴に入る時僕は、フォルカーと目が合って、


「勇!」


 フォルカーの声が聞こえるが、すぐにそれも、聞こえなくなってしまったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 僕達が放りこまれたのは、灰色の石が積み上げられた部屋だった。

 その部屋の中央に僕たちはいて、まるで一番初めに召喚された時のようだった。

 現に、あの時の同じ人物がいたようで、


「……役立たずの“勇者”まで連れてきてしまったか。だが、そこの獣人の力は魅力的だ」


 今度こそあの魔族共に一泡吹かせてやると彼らはいっている。

 フランはブルブル震えている。

 確かフランは魔力が弱いと聞いている。


 おそらくは“癒しの祝福”は固有の能力で、それ以外の力は弱いのかもしれない。

 だから安心させるように僕はフランを抱きしめる。

 けれど僕自身も使える呪文を使用した魔法は一つだけ。

 フォルカーは僕が攫われたのに気づいているだろうから、すぐに助けに来てくれるだろうけれど……。


 どうやってこの場所をフォルカー達に伝えるか。

 あれよあれよという間にこんな場所まで連れて来られてしまったのだ。

 そこで、以前僕を召喚したらしい彼らが、


「運良く自然に接した境界を利用して連れてこれた。次に世界が接触した時に連れ帰る方法もあるが、その境界を封じる力が我々にあるからな。しかも、予測をして出来る限り我々は封じているからな。そう簡単にお前達を追っては来れんぞ」

「……フラグっぽい悪役の台詞」


 ポツリとつい呟いてしまうと、彼らの機嫌を損ねたようだ。

 僕は用済みなので、殺して新しい勇者を召喚しようなどと叫んでいる。

 この人達は一体何なんだろう?


 感情的、短絡的、初めから使い捨ての駒としか僕を考えていなかった。

 こんな人達ばかりの世界ではないと思いたいなと思いながら、僕に向かって杖のようなもの振りかざそうとする。

 とっさに僕は彼らに向かって、初めて魔法を使う。


「赤き紅蓮の炎は、暁を見出し、静寂の世界を砕け『炎の(フレア・アロー)』」


 目の前に魔法陣が広がり、炎が収束し、放たれる。

 悲鳴が聞こえるがそれは防がれてしまっようだ。

 それでも、侮りの色は彼らから消える。

 そんな彼らは警戒するように僕を見るが、すぐに醜悪な笑みに変わった。


「お前達がいるその場所は、ただの地面だと思っていたか?」


 初めから用意周到に何かを仕掛けていたのだろう。

 僕達のいる場所の地面に大きな魔法陣が広がり、体が重く感じて僕はフランと座り込んでしまう。

 防御の力を。


 そう僕は心の中で思う。

 一応は勇者なので、僕の意思によって魔法は発動し、風邪が僕の周囲に渦巻く。

 舌打ちが聞こえた。


 勇者としての力はいくらか封じられているけれど、時間稼ぎにはなる。

 その間にフォルカー達が僕を見つけてくれればいいのだけれど、この防御の魔法とはいえそれを破る術を彼らは持っているかもしれないと思うと、僕は不安になる。

 けれど今は、他に方法がないのだから仕方がない。


 もっとフォルカーに魔法を教えてもらっておけば良かったと今更ながらに後悔するが、魔法を使う世界に来たのも初めてなのだ。

 そう簡単に色々な魔法が使えるとは思えないし、呪文だって覚えられない。

 暗記はもともと苦手だし。


 だから出来るだけ最善を尽くすしかない。

 そう思いながら僕は、フォルカーを待ち望みながら、防御の魔法を発動させ続けたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 フォルカーは、異界に消え行く勇ともう一人、獣人のフランに気づいて、クラクラと熱に浮かされるような頭から正気に戻った。

 苛立ちが募る。

 あの獣人には監視をつけておいたはずなのに、勇も一緒になって連れ攫われるとは。


「やはり手元において置かなければ、勇は……渡さない」


 そうフォルカーは呟いて、自分の異常な執着に気づく。

 何かがおかしい。

 魅了キノコの胞子が、と言ってもいいのだがそれが大量に生えていたからといってフォルカーに影響があるとは思えない。


 まるでフォルカーの魔法に関する抵抗力が低下しているようだ。

 そこまで考えて、気のせいだと一蹴する。

 魅了キノコには今までそこまで沢山の量ではないが接触したことがある。


 その時は特にフォルカーには影響がなかった。

 確かにここには数倍という魅了キノコが生えているが、普段のフォルカーであればこの程度はフォルカーに害をなすとは思えない。

 なのに勇にフォルカーの想いは向かってしまった。


「……思いの外俺が、勇に溺れているからこんな効果が出てしまったのか?」


 嘆息して、まさかあのベルゼルやセラフを笑えなくなる日が来るとは思わなかったと、さり気なく酷いことを呟く。

 こうまで勇しか見えなくなると、フォルカーは思いもよらなかった。

 そこまで考えて、あの獣人の“姫”を監視させていた者達や守護者のジルの様子を見なければと思う。


 彼らまで人間側の息がかかっているとは思いたくないが、最悪事態は考えておくべきだろう。

 そう思って歩き出そうとした所でフォルカーは気づいた。

 虚ろな目つきでふらふらと歩く魔族、そして守護者の獣人であるジルだ。


 頬は赤く全員が発情している。

 魅了キノコに惑わされているのは確実だった。

 このせいで、攫われてしまったのかとフォルカーは思う。


 面倒だな、と思いながらフォルカーは“魔王として”の力を使った。

 全ての魔を、呪いを断ち切る力。

 それを、フォルカーの視覚により対象範囲を設定して発動させる。


「「「「ぐはっ」」」」


 悲鳴を上げて全員が倒れた。

 この力は断ち切る力なので、その反動が彼らに向かい痛みを覚えたのだろう。

 発情事態はそれほど大きな呪いではないので揺り戻しは少ないはずだが、全員が頭を抱えているのを見ると、頭を殴られたような衝撃が副作用として出てしまったらしい。


 それを見ながら、勇の力であればもっと穏便に事が済んだとフォルカーは気づく。

 気づいて、その力をフォルカーに勇は使えばよかったのにとも思う。

 何故、フォルカーに勇は力を使わなかったのか。


 それとも、使えなかったのか。

 フォルカーにとって都合のいい推測に、フォルカーは小さく笑ってしまう。

 そこで、フォルカーはジルに声をかけられた。


「フォルカー様、解いていただきありがとうございます」

「いや、礼はいい。それよりも、お前達の“姫”が連れ攫われたのに気づいているか?」

「! フランが!?」

「だが、勇と一緒だから、勇はフランを気に入っている。勇者としての力で防御はするだろう」

「そうですか、ですがすぐに助けに行かないと……ああ、場所は分かっているのですか?」


 顔を蒼白にしているジルに、それこそ当然であるかのようにフォルカーは、


「勇には勇者としての力を封じるよう魔法をかけて、印をつけている。もっとも俺が勇を逃すつもりはないという意味でもあるが」


 それに安堵したようなジルと共に、監視役の者達に城に伝えるよう伝言を頼み、共に連れて行って欲しいと願うジルと共にフォルカーは、勇達の元へと転移したのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 勇は防御の魔法を使っていた。

 けれど自分の中の魔力が、自身の中で荒れ狂うように感じる。

 何時もは一時的な魔力放出でどうにかなっていたけれど、長時間の持続は僕の体への負担が大きいようだ。


 ぽたぽたと冷や汗が僕の額から流れ落ちる。

 そんな僕にフランが、


「ぼ、僕の力で癒してみます!」


 そう言って魔法をかけてくれるが、一向に楽にならない。

 “癒しの祝福”は怪我をしても一瞬で治してしまう聞いているから、魔力は回復させないのかもしれない。

 つまり、今僕は魔力の急激な減少で負荷がかかっているのか。


 呪文を使わないと魔力の減りが大きいと聞いていて、もしかしたならこの魔法は強力な防御魔法なのかもしれない。

 もう少し弱めてみようか。

 そう思うけれど、風に紛れてこの防御の魔法をどうにかするためなのだろう、呪文の声や火花が見える。


 この防御の風に向かって魔法を放っているようだ。

 それでどうにか打ち壊せないかを狙っているのだろう。


「ここを動けないのはキツイかも。この変な魔法陣さえなければ……」


 僕はそう呟く。

 僕達を地面に吸い付けるようなこの魔方陣だが、気づけば金色に光る鎖のようなものが伸びてきて、僕の足から体へと巻き付いている。

 フランも同様だ。


 先ほどから魔力で破壊しようとしているが、少しも上手くいっていない。

 フランも何とか壊そうとしているけれど上手くいかないようだった。

 随分と強固な罠だ。


 一応はこの防御の魔法を壊そうと試みているが、時間が経てば断つほど魔力切れを計算に入れれば彼らの勝率は上がる。

 初めから負けないように準備するのは当然だ。


「……フォルカー」


 その不安からつい僕は、フォルカーの名前を呼んでしまう。

 僕は何時もフォルカーに頼ってばかりだなと思って悲しくなるが、それでも今はフォルカーに頼るしかない。

 必ず見つけてくれると以前言ってくれたあの言葉を知りたいと僕は思う。


 そこで、僕達を捕えている光の鎖が唐突に消えた。

 何が起こったのか。

 もしかしたなら絶え間無く鎖を攻撃したのが良かったのかもしれない。


 そう僕が思った所で、防御の風を突き破るように白い手が伸びてくる。

 その手に僕はぎょっとするが、すぐに僕自身の腕を掴まれてしまう。


「勇!」


 フランが僕の名前を呼んで、僕の手を引こうとするけれど、同時に僕の防御の風が消滅して、その白い手の主が現れる。

 その姿に僕は安堵して、同時に体の力が抜けて倒れこむようにその人物に抱きとめられる。

 彼は、フォルカーは驚いたように、


「勇、勇! ……これは“魔法中毒”の症状だ。呪文を使わずに魔法を使いすぎたから……すぐに戻って手当をしてやる」


 ぼんやりとした意識の中で聞こえる。

 視界の端でジルがフランを抱き上げているのが見える。

 それに良かったと思いながら僕は、安堵からかふっと意識が闇の中へと沈んでいったのだった。






。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 時刻はフォルカーが勇を助けだす少し前。

 少し離れた場所にフォルカー達は転移した。

 突然見える場所に現れるよりは、背後から奇襲をかける方がいいだろうとの配慮からだった。


「すでに何処かへと連れて行かれそうになっている状況も考えると、突然その場に現れるのは危険だろう。中の人間を皆殺しにして終わりにするのが一番容易だが、そういうわけにもいかない。……が、勇に傷一つでもつけたなら、それ相応の報いを……だが」

「……俺は、フランを傷つけるものの存在は誰一人許せません。“姫”としてではなく、幼馴染として……好きな相手として」


 呟いたジルにフォルカーも頷く。

 以前はたまたま勇者が召喚されると聞いて……面白半分と、危険すぎたなら丸ごと消し去ってやろうと思ったのだが、現れたのはフォルカーの非常に好みな異世界の少年だった。

 思わず連れ去ってしまうくらい魅力的で、まさかこんな衝動に自分が動かされるとはあの時のフォルカーであったなら信じられなかっただろう。


 しかも一緒にいれば更に魅了されていく。

 非常にたちの悪い、フォルカーを翻弄する“魔法”であるのに、それにかかって振り回されてしまいたいと思ってしまう、そんな厄介な魅了。

 もう少し勇には自覚して欲しいと思いながら、フォルカーは自分達に不可視の魔法をかける。


 けれどお互いにはお互いの様子が見える、そう調整した魔法だ。

 そして人間達を時に倒し、見送りながら向かう。

 勇の印を追うでもなかった。


 大きな力の蠢きを感じてそれを目指す。

 辿り着いたのは、勇に初めてであったあの場所に似ている。


「早く、この魔法を何とかしろ!」

「力が強すぎます! 一旦、持久戦に持ち込んでは」

「たかだか異世界から来て数日の人間に遅れを取るというのか!」


 そうわめく彼ら。

 どうやらこの防御の魔法の中に勇達はいるらしく、けれどその下には拘束の魔法陣が輝いている。

 面倒だったのでまず回りにいる人間をフォルカーとジルで気絶させる。


 この調子であれば怪我は指定なさそうだと判断したからだ。

 血なまぐさいものをあまり勇に見せたくないという思いが、フォルカーにはあるのかもしれない。

 それはジルもフランに対して同様だったらしく気絶で終わらせる。


 そして床の魔法陣を破壊してから、


「勇、防御を解いてももう大丈夫だ。勇!」


 けれど風の防御の魔法は音も遮断しているようだ。

 もしくは判断出来るだけの意識が勇にはないのかもしれない。

 だから手を伸ばし、勇の腕を掴み、防御の魔法を短い時間だが消し去り俺が来たと気づかせる。


 勇は安堵したらしくふらりと俺に倒れこむが様子がおかしい。

 よく見ると、随分と衰弱しているようだ。

 急いで連れ帰って治療が必要な状態だった。


「“魔法中毒”を治すのに何が一番いいかを、俺達は知っている」


 倒れこんで気を失っている勇をフォルカーはそっと抱き上げる。

 思った以上に軽くて、フォルカーは驚きを感じてしまう。

 守らなければとフォルカーは思った。 


 早く治療を施さねばならない。

 それに、“魔法中毒”の治療は特殊だ。

 そしてそれをフォルカーは、自分以外の誰にもさせるつもりはなかったのだった。



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