触れると何かに巻き込まれるから
セラフは相変わらず僕を快く思っていない……ように見えた。
彼も見た目が整っているせいか、無表情だと更に近づきがたい印象を持つ。
というかこんなに綺麗な魔族達の中で何でフォルカーは僕を気に入っているのだろうと疑問が浮かぶ。
人は見かけだけじゃないというけれど、もっと見た目のいい同じ魔族が一杯いたはずで……何で僕みたいな人間、それも異世界の人間なんかが気に入っているんだろう。
僕自身、自分が平凡だと分かっているからこそ不安が襲う。
そこで、声をかけられた。
「……今回はありがとうございました。異世界とはいえ“人間”にこのような事が出来るとは思ってもいませんでしたから」
そうセラフに相変わらずの無表情で言われて僕は……何の話かと思った。
そんな僕にセラフが一度溜息をついてから、
「竜の件です」
「あ、あれですか……何となく、僕の力が使える気がして連れて行ってもらったら上手く行ってしまいました」
「……その何となくが怖いのに」
ぽつりとセラフが呟いたが、僕には聞こえなかった。
けれどそれでもあの竜を助けたいと思って手を貸したことが認められた気がして僕は嬉しい。
それが顔に出ていたのだろう、
「嬉しそうですね」
「うん、役に立てて、お礼を言ってもらえたから」
「……それで、えっと……確か名前は勇か」
「はい」
「勇は、フォルカーが好きなのですか」
「それ、は……」
直球でこられて僕はどうしたらいいのか分からなかった。
そもそもフォルカーは男で、でも僕は、それが嫌だったはずで。
でも今は、僕はフォルカーが男とかそんなものが気にならないくらいに魅力を感じてしまっている。
それが僕の中にある“迷い”だ。
でもはっきりと僕はフォルカーが好きだと言えるくらいに強くなくて。
多分僕の中でほんの少しだけれど、間違いなくフォルカーが好きだという気持ちがあって、だからこそ、こんな曖昧な気持ちで決めてしまうのも許せないから頷けなくているのだと思う。
そんな僕にセラフは、
「……未だに私は“人間”で“勇者”な貴方を信用はできません。フォルカーもべルゼルも何も言わないのですから私くらいは貴方を警戒しないといけない、そう思っているのです」
「……はい」
「昔の話ですが、実際に人間の勇者に倒された魔王もいるので、私は不安でたまらないのです」
「そうなのですか?」
「ええ、ただその魔王は、魔族にも災厄をもたらしましたが……フォルカーは彼とは違うでしょう。ですが、私は幾つか気がかりな点があるのです。魔王と対になる人間の勇者、それにより災いが降ってくるのではないかと」
「災いが降ってくる?」
奇妙な言い回しを僕は反芻すると、セラフは眉を寄せてそれ以上その話題を話そうとしなかった。
そして、しばらくの沈黙後僕の部屋の前まで来たが、そこでセラフは、
「フォルカーの子供の頃の写真があります。お礼も兼ねて見せましょうか?」
そのセラフの提案に僕は、即座に頷いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
セラフに誘われるように、僕は彼の部屋へとやってきた。
僕の部屋の一つ下の階に彼の自室はあるようだ。
そしてこの城の何処にでもあるような、けれど、金で縁どられ、様々な僕の知らない動物が彫刻された白い扉をセラフは開き、僕を部屋に招き入れる。
そして中に入ると、そこはきらびやかな調度品の数々……ではあるのだが、全体的に茶色の系統でまとめられていて、本棚に並べられた本も含めて知的で落ち着いた印象がある。
確かにこのセラフの雰囲気からイメージできる部屋だなと僕が思っていると、セラフが自分の部屋の扉を凝視していた。
どうしたんだろうと僕が見ていると、
「……ここの扉の方が、仕事用のあの部屋よりも厚い、か?」
「……いえ、普通に魔法で防音すればよいのでは」
僕は冷静に突っ込みを入れてみるが、それにセラフが珍しく苛立ったように、
「そんな魔法を使う暇がないくらいにすぐにねだられるし……少しでもお預けすると、子供のままでするとかあいつは言すし……あの色欲魔が」
憎々しげに呟くセラフ。
この人達本当に恋人同士なのだろうかと思うような状態だが、あんな風にあれがそれで、しかも嫉妬したり愛していると言っている関係なので、痴話げんかという物なのだろうと僕は思う。
ただこうやってこのセラフという魔族、それも淫魔を見ていても僕は綺麗だと思う以外に特に何も感じない。
性的なものよりも、この冴えわたる美貌に目を奪われて触れてはいけないような気がするのだ。
雰囲気も含めて、この人の周囲には壁を感じてしまう。
そんな風に思っていると、セラフが本棚に向かい一冊の本を取り出した。
「まずは六歳の頃からの記録を見ましょうか」
「そんなに沢山あるのですか?」
「ええ、そこの本棚、その棚、丸々一つがそうです」
その時僕は目撃した。
そこに大量にある、写真のアルバムを。
どれだけ持っているんだろうと僕は思っていると、
「それだけ私達は仲の良い幼馴染だったのです。もっとも、そんな私達よりもフォルカーは貴方を優先しているようですが」
「う、えっと……ごめんなさい」
「謝るなら、きっぱりとフォルカーをふって元の世界に帰って下さい。……出来ないでしょう?」
「……はい」
僕はフォルカーが嫌いで無いから、迷っているのだ。
そしてそれをセラフも分かっているらしい。だから、
「それならば謝る必要はありません。貴方が本当にフォルカーを好きなら……いえ、私の立場からはやはり反対しておきましょう。貴方は危険人物です。さて、ここに写真がありますが……」
そう言って写真を説明しはじめるセラフ。
何だかんだ言って、セラフはフォルカーの気持ちも、そして僕の気持ちも汲んでくれているようだった。
だからこそこうやって昔の写真を見せてくれているのだろう。
そして幼い頃の三人はとても可愛らしく、特にフォルカーの魅力はこの時から段違いだと思った。
確かにこの時から“王”ともいえる何かをフォルカーはもっていたのだろうという気が僕にはした。
そこまでは良かったのだが、
「それで、この時、べルゼルが……」
幼い頃の説明をしてくれるセラフだが、僕は奇妙な事に気付いた。
写真は確かに三人がよく写っているのだが、その時のエピソードをセラフが言うたびに、
「それで、べルゼルがフォルカーに負けて、なので私はべルゼルに……」
試しにセラフが何回、べルゼルというのか僕は数えてみた。
1、2、3、4、5、6、7……。
「……明らかにフォルカーの名前より多い」
「? 何がですか? わざわざフォルカーの昔話をしてあげているというのに、別の事を考えているのですか?」
つい口に出してしまった独り言を聞いて、セラフは機嫌が悪そうにそういったのだった。
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そんな不機嫌そうなセラフに僕は、
「あの、気づいていないのでしょうか」
「何が?」
「明らかにフォルカーの説明よりもベルゼルの説明が多くて、名前の回数も倍以上なのですが?」
「冗談でしょう? この私がそんなわけ無いでしょうが」
「いえ……じゃあもう一度数えてみますか?」
そこで僕はセラフに冷たく見下された。
顔が整っていてしかも無表情な当たりがとても怖い。
その視線だけで凍りつくかと思っていると、そこでセラフが側の引き出しから何かを取り出した。
それは紙と、筆記用具のようなものだった。
「貴方がわざとそう言っている可能性は否定できません。これから昔話をしてあげますから、名前が出てくる度に棒を引いてください」
「は、はぁ」
「返事はもっとはっきりと!」
「はい!」
セラフって厳しいと僕が思っているとそこで、再び話が始まる。が、
「それでこの時ベルゼルとフォルカーが森に行って、そこで封印された伝説の三つ首の首長狼という危険な魔物と遭遇して、フォルカーが第二形態に……」
なぜそんな時の写真が残っているのかと思った僕だけれど、よくよく見るとベルゼルは喜んでいるようにみえる。
何でもフォルカーの第二形態と、伝説の魔物の戦闘に喜んでいてぜひこれを写真にと言っていたらしい。
ちなみにこの時とばっちりでベルゼルは怪我をしていたとかそういった話ばかりをセラフはしていたのだが……僕は違うものに目を奪われていた。
それはフォルカーの第二形態という黒い龍の姿だ。
黒光りする鱗に体を覆われたその姿だが、その赤い瞳のその眼差しは、今のフォルカーと変わらない。
それに魅入られるように見つめているとそこで、
「話を聞いているのですか?」
「す、すみません。フォルカーの竜の姿に何だか……目が放せなくて」
「ふん、異世界人でもフォルカーの竜の姿の魅力がわかるのか。やはり古代竜なのだから当然か。我々魔族にとって古代竜は大切な、そして叡智に富み、強い力を持つ者達だからな」
どこか自慢げに言うセラフ。
どうしよう、見かけで昔のフォルカーも今のフォルカーも魅力的で、似ているなと思っただけなんだけれど……と思いながらも、それ以上僕は自慢げなセラフに何も言えなかった。
そこで僕は紙に目を落として気づいた。
「あの、ベルゼルと言った回数がフォルカーと言った回数の5倍以上になっているのですが」
そこで機嫌よく話していたセラフの表情が凍りつく。
そして僕の紙を見てから、
「……わざと多く数えたと?」
「目の前で書いていたのはセラフさんの知っていると思うのですが」
むっとして言い返すとセラフは沈黙し、そして、
「この私が何であんな奴のことをこんなにも気にしないといけないんだ!」
逆ギレされた。
僕はどうしようかと思っているとそこで、
「そもそもこの私が何であんな奴に大人しくされているのか。ええ、彼の体質だからしかたがないとはいえ、許せない。この私がされる側なんて……」
「……あの、なぜ僕の肩を掴むのですか?」
「……貴方は見かけだけはフォルカーを籠絡させただけあって、可愛らしいのですよね」
セラフが血迷ったように、僕にそう告げたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
セラフのその言葉に僕は後づさろうとしたが、肩を掴まれて逃げられない。
その間も、セラフがふふふと暗く笑って、
「そもそも何でこの私が、ベルゼルばかりを気にしなければならないのか……。そうですね、もっと周りに目を向けて自分好みの子に手を出せばよかったんです」
「いえ、その論理はおかしいような気もするかも」
「今はフォルカーもいませんし、もういっそのこと手を出して……きゅう」
そこでセラフが僕の方に倒れた。
よくよく見ると、耳のあたりが真っ赤になっている。
つまり……自分はそんなんじゃないという恥ずかしい思いで、混乱して、知恵熱か何かがでているのだろう。
はたから見れば、一見落ち着いているように見える分、質が悪いなと僕は思いながら、
「えっと、そんなにベルゼルが好きな自分を認めたくないのですか?」
「……別に。何時だってキスばかりねだって肌に触れて、やっぱり体目当てか魔力目当て何じゃないかとしか思えない」
「……昔から一緒にいるのでは? だからどんな性格かは分かっているのでは?」
昔からの幼馴染なのだから、ベルゼルがどんな性格かを知っているはずだと僕は思ったのだが、そこで、
「……私に甘えてくる可愛い少年だった」
「そうなのですか」
「そう、何時も無鉄砲で、生意気で、でも私の前では大人しくて、言うことを聞いて、でもフォルカーへの挑戦は一向に止めなくて、だから私は治癒の魔法を極めていって……」
ベルゼルのために今までセラフがどうしていたかを延々と語る。
その話を聞く限り、無自覚とはいえベルゼルのことを物凄く愛しているんだなというのが僕にも分かる
。
というか、愛が重い。
そこでふうっとセラフは息を吐き、そして、
「やはり私がべルゼルにされる側というのが間違いだったようです。昔あんなに可愛かったしずっと嫁にしようと思っていたらいつの間にか背がこされているし、なし崩しでキスしたり抱き締められたりその内お嫁さんになってね~と言われるし……もう少しこう……」
ブツブツと呟き出し、僕から離れて真剣に何かを考えているようだったがそこで、部屋の扉が開かれた。
現れたのは金色の髪をしたベルゼルで、にこやかな微笑みを浮かべながら近づいて、
「セラフー、何だか不穏な言葉が聞こえたから空気を読んで入ることにしたよー」
その言葉に病んだように微笑みながらもセラフが、
「ベルゼル、私に貴方を抱かせてください。一度くらいは……何処から今の話を?」
「うーん、セラフが勇に襲いかかるように見えた所からかな。ちなみにフォルカーがすごく怒ってる」
「!」
「でも、僕がお仕置きするから許してねって止めたんだ。感謝してよね」
「え、え……ふ、ふざけないでください、私は……」
「それにね。まさかセラフが浮気するはずないと思っていたんだけれど……ほら、予防といいますか、ね」
「ま、きょ、今日はあんなに……」
「うーん、今救出作戦をやってきて魔力もちょうど減ったし、さっそくだけれど、セラフにはたっぷりと啼いてもらおうかな。セラフの体は感じやすいからちょっと触っただけで喘いじゃうし」
ほほえむベルゼルの笑顔が眩しいので、僕はそっとその場から逃げて部屋の外のフォルカーと合流する。
「ふう、助かった。セラフさんに昔の写真を見せてもらっていたら、ベルゼルの話ばかりするから指摘したらおかしくなっちゃって……フォルカー?」
そこでフォルカーは僕を抱きしめて、
「……あまり心配をかけさせるな。部屋にいないと聞いて……ぞっとした」
「ご、ごめんなさい」
「いや、いい。それと、セラフとベルゼルの関係には踏み込むな。触れると何かに巻き込まれるから」
「……はい」
僕はそう、素直に頷いて、抱きしめるフォルカーに僕も手を伸ばして抱きしめたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
僕がフォルカーを抱きしめる仕草をすると、フォルカーははっとしたようだった。
そしてそのまましばらく抱きしめていて、そこで僕は気づいた。
つい心配されて抱きしめられて、それが嬉しくなって抱きついてしまったけれど……違う、まだだ、まだ落とされないんだ!
「あ、えっと、そろそろ良いかな」
「……少しは俺に心を許してくれたみたいだな」
「……心配してくれたのは嬉しいかも」
「そうか。そのまま心までも渡してくれると嬉しいが?」
「……まだ無理です」
「まだ、と言う程度には俺を気にしてくれているという事か。では、一歩前進だな」
フォルカーにそう言われて、僕は違うと言えなかった。
だってフォルカーが、凄く優しげに僕に微笑んだから。
それに魅入られて僕は何も言えなくなってしまっていると、そこで唇が重ねられる。
また“勇者”としての力を封じられているのかなと思うけれど、そういうわけではない気がする。
何処となく僕の体から何かを奪っているような……。
そこで僕から唇が放されて、フォルカーが舌舐めずりをする。
「勇の魔力は“甘い”な」
「え、ええ! 今僕から魔力みたいなものを吸い取ったの?」
「ああ、あちらの人間どもに囚われていた獣人達を救出してきた。だから少し魔力を使ってしまったから……ああ、体で分けてもらおうか」
「う、え……ま、まだ無理です」
「まだという事は、可能性はあるという事か?」
「……フォルカーの意地悪」
わざわざ僕の言葉の揚げ足を取るように言う。
何だかいつも以上に意地悪で、僕はむっとしているとそこでフォルカーが溜息をついた。
「勇が部屋にいないから、俺は不安に思った。勇の気配をたどっていったら、セラフの部屋にいるので安心したが、余計な事を言ってセラフに何かされているように見えて……怒りがこみ上げた」
「フォルカー?」
「幼馴染で信頼できる油断ならない部下だったのに、べルゼル以外にくっつくはずがないのに、俺は勇が取られてしまうのではと不安に駆られてしまった」
「……そう、なんだ」
「ああ、だから、勇。そこまで俺を惑わしている自覚を持ってくれ。でないと俺は……いや、何でもない」
そこまで告げて、フォルカーはそれ以上言うのを止める。
そして僕も、フォルカーは本気で僕を好きなのだと実感する。
でも、だからこそ、こんな曖昧な気持ちでフォルカーを受け入れる事が出来なくて、だから、
「うん、フォルカーが僕の事を好きだってわかったから、心配させないようにするよ」
「そうしてくれ。そもそもなんでセラフの部屋に行くのか……セラフは勇、お前を警戒していたはずなのに」
「竜を助けてくれたお礼で、昔のフォルカー達の写真を見せてもらったんだ」
「写真? ああ、なるほど。それで昔話を聞いている風だったのか」
「うん、でもセラフはべルゼルの話ばかりしていて……」
「……昔から自覚がないからな、二人とも」
仕方のない奴らだと言うかのように、フォルカーは深々と嘆息したのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そこでフォルカーは、僕をじっと見た。
なんだろうと思っているとそこで、
「それで……その、写真はどうだった?」
「フォルカーが可愛かったよ?」
「そ、そうか……」
そう言って黙ってしまったフォルカーは頬が少し赤い。
どうやら恥ずかしがっているようだ。
そして僕はといえば、そんなフォルカーも可愛い、萌えと思ってしまった。
そこでフォルカーが、
「昔の姿を見られるのは、くすぐったいような感覚に陥るな」
「そうかな。昔も今もフォルカーの眼差しは変わらないんだなって」
「……そうか」
僕がそういうと、フォルカーの声に浮かんでいた喜びがすうっと消えていく気がした。
何でだろうと思いながらも僕は、
「優しくて、意志が強い目をしているなって。そういった所は“好き”かな」
そう僕が告げると、フォルカーは驚いたように目を瞬かせた。
それから再び先程の様に嬉しそうに笑い、
「……勇は相変わらず俺が思いもよらない事を言うな」
「え、僕、そんなに変な事を言ったかな?」
「いや、“王”の風格があるとかそういった事は言わないのだなと」
「? とても可愛い普通の子供にしか見えなかったかな。あ、竜みたいにになった方? 真っ黒ででも赤い瞳が印象的で、竜の姿も綺麗だなって思ったかな?」
「……そんな写真も見せたのか。全く、セラフは……」
「で、でも見ていて楽しかったし」
「だが、セラフが話していたのはべルゼルの事ばかりだったのだろう?」
「……僕は少しでもフォルカーの話が聞けたから、有意義だったと思う」
あんな風に幼いフォルカーは僕にとっても新鮮だったから。
そう告げるとフォルカーは、そうか、と言ってそれ以上言わなくなる。
どうやら照れているらしいので、僕もそれ以上は何も言わない。
そこでフォルカーが、
「だが、セラフとべルゼルの関係には触れるな。どちらもお互い一杯一杯だから、それに関しては何が起こるかは俺にも予想がつかない」
「うん、分かった」
「約束だ。もしもその約束が守れなかったなら……俺は、俺を不安がらせた罰として勇にお仕置きするからな?」
「そ、そんな……」
お仕置きって何をされてしまうんだろうと思っていると、そこでフォルカーは笑って、
「されたくなければ、気を付ける事だ」
「う、うう……そのお仕置きって何をする気なのでしょうか」
「聞きたいのか?」
フォルカーがいかにも魔王と言うかのような笑みを浮かべた。
こんな風な意地悪な笑みを浮かべていても相変わらずフォルカーの顔は整っているので、そういった所はずるいと僕は思う。
けれどそれよりも、その笑みに僕は嫌な予感を覚えて、
「き、聞きたくないです」
「そうか、残念だ。初心な勇がどうなるかを楽しませてもらおうと思ったが……」
「そ、そうだ。そういえば助けた獣人達って、何の話ですか?」
僕にフォルカーがあまり聞きたくない危険な事を言う前に、僕は話を逸らそうとそう問いかけたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
フォルカーが真剣な表情になり、何処かためらったようだが、すぐに口を開く。
「以前あちらからこの魔族の世界に侵攻があった話はしたな?」
「はい。それで返り討ちにあって、僕が召喚されたんでしたっけ?」
「そうだ。そしてその時侵攻されたのが獣人の村で、捕虜として連れて行かれたが、先ほど場所が特定出来て救出した」
「そうなのですか。それでフォルカーとべルゼルが?」
「ああ、俺やべルゼルは戦闘に関しては現在魔族の中では特に強い力を持っているからな。そして救出した獣人の怪我などの治療に今は当たっている、数日後には全員回復しているだろう。……彼らの治療を行っている地下には近づくな。それは約束して欲しい」
「……うん」
僕は素直に頷く。
僕は異世界の者とはいえ“人間”だから、どんな感情を抱かれるかは分かっている。
だから僕は代わりに別の事を聞く。
「獣人というと、町で会ったフランって猫の獣人がいたけれど、関係があったりするのかな?」
「その村の“姫”だ。あの少年は」
「え……男だよね?」
「ああ。獣人にとって特別な存在だ。だからあのジルという獣人に守られて、あそこから逃げてこれたのだろう。だが……力が封じられ、その“姫”としての記憶もないようだ」
「……“人間”に力を封じられたと?」
「さあ、聞いてみなければわからない。だが、あの村は“姫”を守るためのもの。“姫”がいる場所があの村なのだから、彼には伝えておくべきだろう。それは明日になるだろうが」
「そうだね、随分今日は長く話し込んでしまったし。……僕も一緒に行っていいかな? 僕に出来ることがあったらいいなと思うんだ」
窓から見える夕暮れの光を見ながらそう僕は答える。
それにフォルカーは少し黙ってから、いいだろうと答え、僕を部屋にまで案内してくれたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
フォルカーに呼ばれておきた僕は、朝食をとり、へろへろになったセラフが再びベルゼルに捕まって部屋に引き込まれて行くのを目撃した後、僕はフォルカーに手を引かれて町を歩いていた。
人通りの多いけれど昼休みの店が多いせいか、でている魔族たちはそんなに多くない。
そして以前のように喫茶店へと向かうと、現在お休みですというような看板が掲げられたその場所にやって来る。
込み入った話になるために、休み時間を狙って僕たちはやってきたのだ。
そこで僕達がやってきた所でちょうどフランが出てくる。
彼の顔は真っ赤で、とても怒っているようで、その喫茶店の奥の方にいる人物に向かって、
「ジルなんか、大っ嫌いだ!」
そう叫んでいた。
どうやら喧嘩したらしいと僕は思っていたけれど、そこで僕達に気づいたらしいフランが、
「勇、来てくれたんだ。……これから近くの公園に付き合ってくれない! そっちの魔王様と一緒でもいいから!」
そう言われて僕は頷きかけたが、そこでフォルカーが、
「俺はジルと話があるから。……勇、フランの相手を頼めるか?」
「う、うん。でも公園て……」
場所が分からないと僕が言おうとすると、そこでフォルカーが僕の首にかけられた、以前買ってくれたペンダントを掴んで、唇を押し当てる。
その赤い石が強い光を帯びるが、それはすぐに消える。
「何かあれば、これが守ってくれる。この近くの公園は治安がいいほうだから。……後で俺が迎えに行く」
フォルカーが、そう僕に言って、僕は機嫌の悪いフランに公園に連れて行かれてしまったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
僕はフランに連れられて近くの公園に来ていた。
薄汚れたような、石造りの高い建物が連なる道が連なっていて、こんな場所に本当に公園があるのだろうかと僕は半信半疑でいたけれど……そこで、細い路地を更に進むとその先にある建物の陰に緑色の木々の葉が見える。
あそこかなと思っているとそうであったようで、近づけば森というか、丘というか……そんな場所に辿り着く。
町の中に突然現れたそれに、僕は茫然としていると、
「勇、こっちだよ。……どうしたの?」
「う、うん。こんな場所が突然現れたように見えて、ほら、さっきは建物ばかりだったから」
「そうだね、ここ一体には高い建物が多いから、そんな風には見えないかも」
そう言ってフランが微笑む。
こうやって見ると、可愛らしいネコミミ獣人だよなと思う。
さらさらとした薄い水色の髪に、僕のペンダントのような赤い瞳。
肌は白くて、アルビノのように見える。
これくらい可愛ければ、可愛い可愛い言われても納得できるんだよなと僕は思った。と、
「勇、どうしたの? 僕の顔をじっと見て」
「……フランて可愛いよなと思って」
「そ、そんな事はないよ。勇の方が可愛いよ!」
「……フランもそうだけれど何で皆そういうのかな。僕は平凡なはずなのに」
「そんなこと無いよ! それにきっと僕のほうが男らしいと思うもん」
フランがむきになって言い返してきたが、僕もここは引けなかった。
だってどう考えたってフランのほうが女の子のように可愛いから、
「いや、僕のほうが男らしいはず!」
「そんなこと無いよ! こんな黒曜石のような黒髪に黒い瞳、宝石か、満天の夜空を写しとった輝く髪は魅力的だよ!」
「そ、そっちだって水色の澄んだ髪の色や、綺麗な赤い瞳をしているじゃん! しかもこんなふわふわもこもこの猫耳まで持っているし、フランのほうが絶対に可愛い!」
「そ、そんなこと無い!」
そんな言い合いをしていて僕たちは気づいた。
周りの通行人が僕達を見ていることに。
なので恥ずかしくなってその場を離れて公園に入る。
公園には小さな川が流れていて、上の方には泉があるらしい。
その泉にほど近い場所のベンチに僕たちは座る。
年季の入った木で作られた古いベンチだけれど、軽く手で押してみても大丈夫そうだったので座った。
けれどこんなふうに座っても僕達はなかなか話しだすことが出来ずにいて、暫く沈黙したままだった。
それに耐えられなくなった僕は、
「え、えっと、フラン……猫耳、触ってもいいかな?」
生の猫耳を触ってみたい衝動に駆られた僕だけれど、それにフランは顔を真赤にする。
「ゆ、勇って、大胆というかエッチなんだね」
「え、ええ! な、何で?」
「あ、知らないんだ……だって僕達獣人の、性感帯だから」
「ご、ごめん、そんなつもりは……」
「勇が僕の恋人になってくれるならいいよ?」
そう言われて僕は固まってしまう。
だって僕が好きなのは……ふっと脳裏にフォルカーの顔が浮かぶ。
そんな僕にフランが笑って、
「冗談だよ。……勇、ちょっと話を聞いてもらってもいいかな。僕、相談する相手がいなくて……」
それに僕は、頷いたのだった。




