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それぞれの事情があったりします

 ぼんやりとしていた頭が冴えていくと、またも僕はフォルカーにキスされていたと気付く。

 そう思うと顔が熱くなって、嫌ではなくて、どうしたらいいのか分からなくなる。

 でも、眠る前にあった出来事を思い出して、


「……フォルカーって、僕の恩人なんだなって」

「? どうかしたのか?」


 頬笑み問いかけるフォルカーに先ほどの話を伝えると、


「なるほど。俺が好みだったのと面白半分で攫って良かったという事だな?」

「うん、ありがとう」

「では、このまま恋人になってもらえないか?」


 その問いかけに僕は曖昧な返事をしてしまう。

 やっぱり自分の価値観が違うというのも大きい。

 同性同士、それが僕には引っかかってしまう。


 フォルカーは魅力的な人物だ。

 最近特に僕に優しいが、それを含めても、強くて美しくて、きっとみんな惹かれるだろう。

 だからこそ、こんな普通っぽい僕をどうして選ぶのかと思ってしまう。と、


「それで勇はどうする? このままお姫様だっこをして、連れて行ってやろうか?」

「い、良いです、遠慮します!」


 そう悪戯っぽく囁かれて僕は、慌てて起き上がったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 やってきたその竜の部屋では、丁度医者らしき人が出てくる所だった。

 なんでも、少し衰弱しているが、命に別状はないとの事だった。

 そしてやってきた僕達の前では、青い髪をした美形の男がベッドから体を起してにこやかに微笑み、


「貴方が私を元に戻してくれたのですか?」

「えっと……はい」

「その節はありがとうございます。あちらの世界に渡って、恋人も寿命を迎え、一人寂しくぼんやりしていたら久しぶりに“人間”が来て、つい……まさかこんな事になるとは」


 朗らかに笑う彼だが、“人間”という言葉に僕はびくりとする。

 それに彼はああと小さく呟いて、


「“人”よりも優れた力を持つ、狭間の者。“人間”と呼ばれるのはお嫌いですか?」

「……はい」

「そうですか。私も狂わされた時に気付いたのですが、“人間”は彼らの間では、今は優遇はされていないようですね。昔は、竜の力を借りれる神子として崇められていたものですが、随分時代が変わってしまいましたね。でも貴方は何か違う気がしますね」

「あ、僕は異世界から召喚された“勇者”ですから」

「“勇者”? そういえば、“勇者”さえいればこんな面倒な事には、と私を狂わした彼らが言っていたような、そうですか、貴方が。もしやその力で私を救ってくれたのですか?」

「はい、多分こうすればいいかな、と」

「そうですか……嬉しいです」


 そう言って僕は彼に手を握られたのだが、そこでフォルカーが嘆息して、


「勇は俺の恋人候補だ。手を出すな」

「え? そうなのですか? 黒髪の所が昔の恋人に似ていて可愛らしくて……ですが貴方様の恋人候補であるのなら、粉をかけるのは止めます」

「そうしてくれ。そして今の魔王は俺だ」

「あ、そうなのですか……では、“記憶の複製”はされていないのですね」

「ああ、だからわざわざ里に連絡を取って、お前の特徴から名前も全て調べた。もうすぐお前の弟が迎えに来る」


 そんなフォルカーと竜の彼は、僕の知らない会話をしたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 そこで竜だった彼が、思い出したかのように僕を見て、


「そういえばまだ名乗っていませんでしたね、私の名前はレイテです」

「僕は、勇、です。御剣勇」

「魅力的な名前ですね……ああ、いえ、決して寝取ろうとは思っておりませんので。どうも我々は貴方様がたの影響で人間が好きで仕方がないようで」


 そう告げる彼、レイテに僕は理由を聞こうとして、そこでフォルカーに僕は抱きしめられた。


「当り前だ。勇は俺の一番のお気に入りだから絶対にお前達に渡さない」

「……お気に入りですね。ふむ、残念です」


 さらっと諦めてしまうレイテ。

 そこで僕はようやく、


「竜はどうして人間が好きなの?」

「そういえば勇は異世界の方でしたか。まず竜には二種類おりまして、ただの竜と、古代竜という種族がいます。実は初めは古代竜しか存在しなかったのですが、ある時仲間を増やしたいということで、その古代竜の爪等によって、現在の竜が生まれたのです」

「え? じゃあレイテさんも?」

「いえ、その古代竜達は、作ってみたけれど作りすぎたのでそれ以上はやめて、我々はその子孫に当たります。ただ我々は自分達の主でもあった古代竜をとても気に入っておりまして。古代竜が“人”によく似ておりまして、それで人間に惹かれる竜がとても多かったのです」

「???」


 僕は途中から話が分からなくなって混乱する。

 “人”に似ている? この竜であるレイテさんも“人”に似ているような、それに獣人もいて……あれ?

 そんな風に僕は混乱していると、フォルカーが、


「“人”の中の“人間”は俺達の竜には魅力的らしい。特に、竜を操る力を持つ“人間”は特に魅力的に見えるらしい」

「……だから、僕をフォルカーは気に入っているの?」


 ふと、竜を操る力は僕にはあるのかはわからないけれど、“人間”だから好きなのかと問いかけてしまう。

 けれど聞いて後悔してしまった。

 もしそうだと言われてしまったらどうしよう、そんな不安が僕の中で浮かび上がるが、そこでフォルカーが面白そうに笑った。


「ははは、そういえば勇は知らなかったか。俺は、“竜”ではないから、人間には惹かれない」

「え? でも竜だって」

「そう、竜といっても俺は古代竜だ。……“記憶の複製”はされていないがな」

「……古代竜、うう……頭がこんがらがってきた。えっと、フォルカーは、竜を作り上げた古代竜の子孫なんだよね?」

「そうだ」

「その古代竜も、あの大きな竜の形にもなる?」

「第二形態だな。ちなみに古代竜には第三形態があって、この人型の背に竜の羽が生えた状態で非常に好戦的になる、と言われている」


 そんなゲームのラスボスみたいな変形を言われても、僕は更に混乱してしまう。

 しかもそんな唸っている僕を見て、フォルカーは楽しそうだ。

 意地悪だと思って僕はむっとしてフォルカーを見ていると、


「しかし異世界間の恋ですか。そういえば昔、古代竜にそんな方がいましたね」


 世間話のように、レイテが重要な話を口にしたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 多分このレイテという竜は、特に他意はなかったと思うのだが、僕には重要な話だった。


「異世界って、僕、元の世界に戻れるのですか?」

「え、いえ、えっと……もしかして、話してはいけませんでしたか?」


 恐る恐るといったようにレイテがフォルカーの様子を窺う。

 それにフォルカーは深々と嘆息して、


「……言ってしまったものは仕方がない」


 そう僕に微笑みながら告げた。

 それを見ながら僕は、


「フォルカー、もしかして知っていたの?」

「いや、俺は“記憶の複製”はされていないから、ただ、この世界で一番知識があるのは古代竜なのは確実だから、彼らに聞けば分かるだろうと見当はついていた。だが……」

「だが?」


 そこで僕の頬にフォルカーは手を伸ばして愛おしげに撫ぜながら、


「……すぐに帰すのが惜しくなった」

「う、え……で、でも、約束……」

「本音を言えば、初めから俺は勇を逃すつもりなんてなかった、と言ったならどうする?」

「え、えっと、え……で、でも……」

「今の勇には、元の世界に戻る術はない。俺の力がどうしても必要だ。そして俺は、勇を逃すつもりもない、さあ……どうする?」


 フォルカーはそう僕に告げて、僕の腰に手を回して抱き寄せてくる。

 そして僕が顔を逸らせないように顎を抑えて、珍しくフォルカーは何処か嘲るような、酷薄な表情を浮かべ、


「選べ。お前の運命は過去も、現在も、そして……未来も、俺が握っている」

「……もしも、僕が拒んだなら?」

「そうだな、こんな風に優しく待つよりも、手っ取り早く勇の体から落としてやるかもしれないな」


 そう僕に告げて、フォルカーは楽しそうに笑う。

 何だか言っていることが、魔王じみてきたなと僕は思いながらも、僕は気づいていた。


「フォルカーの意地悪。わざと僕を怖がらせた。そんなフォルカーは嫌いになってやる」

「……いいのか? そんな口を俺に聞いても」

「……いいんだ。だって惚れたほうが負けなんだもん!」


 自分でももっと言いようがあったような気がしたが、なぜかそう言ってしまった。

 ただ何となく、フォルカーには優しくして欲しかったから、意地悪されるのが悔しくて、何となく僕がフォルカーを嫌っていると言っているような気がして、もやもやして……むかっとしてしまったのだ。

 けれど今の言葉にフォルカーは目を瞬かせて、


「……俺は、負けたのか?」

「そ、そうだよ。先に惚れたんだもん」

「この俺が負けた。この、魔王で古代竜の中で最強の俺が?」

「え? そうなの? フォルカー、凄いね」


 最強なんだ、魔王だからそれも当然なのかなと僕が思っていると、


「……最強だから、“記憶の複製”が出来ていないのだが、はあ。勇と話していると全てがどうでも良くなってくる。……やはり、ますます欲しいな」


 そう笑うフォルカーに僕は、また何か墓穴を掘った気がした。しかも、


「勝ち逃げは許さないぞ? 勇」

「の、望むところだ!」


 売り言葉に買い言葉で、僕はそう答えてしまったのだった。 





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 そんな僕とフォルカーの様子を竜のレイテは微笑ましそうに見ていたのは良いとして。

 僕は話がそれているのに気づいた。


「それで僕は、元の世界に戻してもらえるんだよね?」

「それは勇次第だ。……恋人の紹介も兼ねて行こうと思ったのにな」

「うう……」


 呻く僕に、フォルカーが頭を撫ぜる。

 それが気持ちよくて僕はとろんとしてしまう。

 そこでレイテが、


「そういえば今は、我々竜の里はどうなっているのでしょうか。何分、遊びに行った先で人間に一目ぼれして以来戻っていないんですよ」

「……そうだな。今は、古代竜の周りに竜等の村が点在している。現在、竜の村は色々な種族が入り乱れていて混血化が進んでいる」

「そうなのですか。昔は、竜しかいなかったのに……そういえば私の弟のチビ竜はどうしていたのですかね。たしか古代竜の方が試しに作った新しい種だったはずで、家で預かっていたのですが……」

「まだ竜を作る奴がいたのか。まあいい、ちなみにその弟がお前を迎えに来るそうだ」

「そうなのですか? あれから随分時間が経ったので、成長しているでしょうね……」


 何処か懐かしそうに目を細めるレイテ。

 そんなレイテに、フォルカーはあまり思い出したくない思い出に思いを馳せるように、


「俺の知っている範囲では、無愛想な寡黙な男に成長していたな」

「……まさか。あんな明るくて可愛い、優しい子がですか?」

「面倒見は良かったが……時々容赦がなかった気がする」

「……魔王フォルカー様はよくご存知なようですが、何故ですか? 古代竜の方々は……」

「ああ、今の“記憶の複製”を出来ない古代竜は全て、竜の村で育てられることになっている。力の強い分、知識が足りていない点に関しては古代竜の図書館に入るのを許されている」

「? 古代竜は、それが出来ないものを追い出すようになったのですか?」

「いや……構い倒して、甘やかすから、性格のいい駄目なアホの子になるから、騙されやすくなってしまうので、とのことで竜の里に出されてしまうのだ。魔王になる可能性も高いからな」

「今はそんな風になってしまったのですか。時代が違いますね」


 そんなレイテとフォルカーの会話から僕は、一つ聞きたいことがあって、フォルカーの服の袖を引っ張る。


「? どうした?」

「“記憶の複製”って、何?」

「ああ、古代竜は過去から積み重なる知識を延々と共有して積み上げることが出来る。それ故に一番知識があるのは古代竜だと言われている」

「そうなんだ……あれ、でも」

「俺の場合はそれがないから、その古代竜の図書館で全て学んだ。ただ、異世界の行き来は“禁呪にちかいもの”だからそちらにはない……レイテ、何故それをお前が知っている? あちらの世界に行けるというのは……」

「昔、古代竜の方と一緒に行く時に教えていただきました。ただ、別の系統の魔法ですが、人間の方にも似たようなものがあるようですよ? 一方的に召喚するのが主のようですが。ああ、現在、接しているこの世界は別のようです。結構簡単に来れるらしいと……」

「……そのあたりの話は?」

「先ほどフォルカー様の部下の綺麗な方、セラフという方にお話しました」

「相変わらず優秀だ」


 それを聞いてフォルカーは嬉しそうに笑う。

 何だか信頼しているんだな、と、僕は少し羨ましさを覚えていると、そこで部屋の扉が開かれた。

 現れたのは黒髪黒目の美形の男。

 短髪なのはいいのだが、この世界には美形しかいないのかと僕は思ったのはいいとして。


「……帰るぞ」

「スーリ、久しぶり。でもまだ私は起きるのがやっとで……え?」


 そこでスーリと呼ばれた男がレイテを抱き上げた。

 お姫様抱っこというやつだ。

 レイテはどことなく焦っているようだが、


「それではアホ兄貴連れて帰ります。後伝言です。『そろそろ顔を見せに帰って来い』」

「……分かった、そのうちと伝えてくれ」


 そんな話をしている間も、レイテが顔を赤くして降ろしてと騒いでいるが、そこでそのスーリがレイテの唇に自分の唇を重ねた。

 舌を絡める激しい物だったが、すぐにレイテはくてっと体の力を抜いてしまう。

 どうやら気を失っているようだ。

 突然のラブシーンに困惑していると、そこでスーリという男が、


「それでは失礼いたしました」


 そう告げて部屋から出て行く。

 それを僕達は黙って見送ったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 この場を去っていく竜を見送ってから、僕はフォルカーを見上げた。


「そろそろ故郷に帰省するの?」

「……勇が俺の恋人になるなら、連れて行ってやってもいい」

「うう……で、でも……んっ」


 そこで僕はフォルカーにキスされた。

 何だかフォルカーにキスされるのが慣れたというか、気持ちよくなっている気がする。

 これではだめだと僕は思うのに、それを段々拒めなくなっている気がする。


 これは由々しき事態だ、僕がそう焦っていた所でフォルカーは僕から唇を放した。

 ただどことなく意地悪そうに微笑んでいるような気がするな、と僕が思っていると、


「もう危険がないから、勇の勇者としての力は封じておいた」

「ええ! ひ、酷い」

「だがこれで危険な目にあっても身を守る力は弱まったからな。……酷い目にあいたくなければ俺のそばにいることだな」


 あまりにもとんでもない言い草に僕は、


「フォルカーの意地悪! い、いつか仕返ししてやる」

「分かっていないな、勇は。惚れた方が“負け”なのだろう? これはその仕返しだ。だから俺のそばにいろ、勇」


 耳元でフォルカーにささやかれて、僕は体にぞくんと妙なものが走る。

 それが何なのかが頭に浮かびそうになって、僕は慌ててそれを考えないようにしながら、話題を変える作戦に出た。


「そ、そういえば、フォルカーはあのセラフやベルゼルと幼なじみなんだっけ。二人共竜なの?」

「いや、淫魔と妖精族の一つ、小人族だ」


 何だか凄い種族名が聞こえたが、あんなどことなく固そうな感じのセラフと軽い感じのベルゼルの様子から、


「セラフさんが小人?」

「いや、淫魔だ」


 あっさりと僕の予想を否定されて、そこで僕は気づいた。

 もしかしたなら、この世界の淫魔は僕の知っている淫魔ではないのかもしれないと思って、


「この世界の淫魔はどんな種族なの?」

「……勇は、淫魔をどんな種族だと認識している?」

「……口に出してはいけないようなエロい生き物です」

「なるほど。創作の方の淫魔だな。まあ、もともと人数が少ないから、この世界の者の多くもそういった認識だが、セラフはそれを物凄く嫌っているからあまり話さない方がいい」

「う、うん。それで、この世界の淫魔はどんな存在なの?」


 それにフォルカーは少し黙ってから、


「……セラフは見かけも良いだろう? ああいった感じで、淫魔は魔力も強く、頭の回転も早く、美人が多く、また体の感度もいいらしい。ただ……」

「ただ?」

「それで魅了して集まった男や女を延々とお預け状態にして、周りに集まった者をドM化させるらしい」

「……え?」

「だから淫魔族はある種のカリスマ性を発揮し、大抵は要職につく。はっきり言ってエロ生命体とは一番遠い存在だな」

「じゃ、じゃあセラフさんにもそんなドMの取り巻きが?」

「いや、セラフの周りは昔からベルゼルが自分以外は親友の俺ぐらいしか側にいさせなかったし、セラフもベルゼルしか見ていなかったから、残念ながらそういったものはいないと思う。いたらベルゼルが闇討ちしているだろうし」

「そ、そうですか……」


 それを聞きながら僕は、ある疑問を覚えたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 べルゼルがセラフに近づく者を排除していたのなら、


「何でフォルカーはベルゼルに闇討ちされなかったのかな」

「? ああ。セラフが憧れの古代竜だと少し離れた場所から俺を何時も見ていてな。そしてそんなセラフをベルゼルが見ていたというか一目惚れしたらしいが、それが切掛でベルゼルが俺に決闘を挑んできたのだ。あれはそう、二人が別々の村から越してきた頃だから、俺が六歳の時だったと思う」

「決闘……六歳児が使う言葉には思えないような……それでどうなったの、と聞くまでもないか」

「そうだな、俺の勝利だったから。あの時は負けたのが悔しくてベルゼルはすごく泣いていた。そして大人になったらもっと強くなるから、必ず負かすと宣言された」

「? 成長すると魔族は強くなるの?」

「種族によるが、ベルゼルは小人族だから当然だった」


 またも小人族という名前が出てくる。

 小人というと、何となく陽気な背の低いいい人のようなイメージが僕の中にあるのだが、どうも違うような気がする。

 以前聞いた淫魔の特性と同じようになにか違うのかなと僕は思いながら、


「その小人族ってどんな種族なの?」

「小人族は魔力も強く妖精の中では戦闘能力が特に強い一族だが、それにもまして恐ろしいと言われているのは成長した分の魔力も含めて切り札として一気に使うことが出来る点だ。要はそれまでに感じ取っていた魔力よりも、更にその体の成長した分の魔力を上乗せして攻撃してくるという、一昔前は“名状しがたき暗黒の小人”と呼ばれていたらしい。それが小人族の由来だ」


 何だか二つ名があれっぽい気がしたが、魔力を放出すると小人になるらしい。

 そういえば初めて会った時も小人というか子供だったなと僕は思いながら、


「あれ、そうすると魔力をもらって大人に戻るのかな?」

「そうだ。特にキスや肌の接触で行われるらしい」

「へ、へー、そしてその相手がセラフさん……でも、子供だよね?」

「触れて魔力を供給してベルゼルが大人の姿になってから、キスをしたりしていたらしい。とはいえまだそれ以上には進んでいないらしいが……それでもお互いが思い合っているのははたから見ていても分かるからな。未だに両片想いだと皆ニマニマしながら様子をうかがっていた」

「……フォルカーも?」

「もちろん。あの二人は気に入っていたから友人でいたが、事あるごとに俺を出しにしていたからな」

「どんな風に?」

「まず決闘に負けた後、ベルゼルが悔しくて泣いていたらセラフが慰めに来た時から、ベルゼルは俺がいればセラフが近寄ってくるし、負けたら慰めてくれると気づいたらしい。はじめは断ろうかと思ったが、戦っている内に友情が芽生えたから、俺は側で様子を見て楽しむことにした」

「そ、そうなんだ」

「そしてセラフはセラフで、俺に対しては憧れがあるが、ベルゼルが懐いてきたりするの含めて面食いなこともあって、気になって、ベルゼルが傍にいる俺に近づくようになってな」

「……だしにされているね」

「そうだな。それでいてセラフはベルゼルが何時も俺と仲がいいと、そして自分には決闘に応じてくれないと不満を持っていてな。そしてベルゼルはセラフが俺を見ているのが不満で……といったようにすれ違っていた。そしてある時小人族の力を開放して子供になってしまった時に、ようやく二人はキスをする関係になったというわけだ」


 おおまかに二人の関係を説明してくれたフォルカーだが、僕は思うに、


「……フォルカー、細かく事情を知りすぎなような」

「だからドアや壁が薄いと言っただろう」


 どうやらあの二人はよくあそこを愛の巣にしているらしい。

 そこで、噂をしていたせいなのかベルゼルが現れたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 現れたべルゼルの頬は相変わらず手の形に赤くはれていた。

 それを見ていて僕は、


「フォルカー、あんな風に赤くはれているのは癒したりする魔法はないの?」

「いや、ある。ただ……」

「ただ?」

「あれもべルゼルの戦利品らしい」


 僕は何と答えていいのか分からなかったが、そこでべルゼルが近づいてきて、


「二人一緒でどうしたの?」

「ああ、先ほど捕縛した竜の様子が勇は気になるらしくて、一緒に見に行っていた」

「へー、そうなんだ。……“人間”と言っても、異世界人だし、目の敵にすることもないか。……元に戻してくれたのは勇だしね」

「そう口に出すな」

「はいはーい。側近として、幼馴染としてフォルカーの身を心配するのは仕方がないと思って欲しいよ。約束だから手は出さないけれどね。それで、竜はどうしたの? さっき覗いたらいなかったけれど」

「弟が迎えに来た」

「そうなんだ。じゃあ後は自宅でゆっくり療養かな」


 そんなべルゼルの言葉に、そんなにゆっくりできるのかな、と僕が思っていると、


「それでちょっと僕はフォルカーとお話したいんだけれど、良いかな」


 暗に邪魔だと言われてしまった僕だけれど、僕は僕で、


「部屋への戻り方が分かりません。なので……」


 そこまで案内してもらえないかと言おうとした所で、丁度セラフが現れた。

 セラフはべルゼルを見て不機嫌そうに眉を寄せるが、そんなセラフにべルゼルは、


「じゃあ、セラフに部屋まで送ってもらいなよ。僕はフォルカーとちょっとお話があるから」

「だが……」

「心良く思っていなくても、フォルカーが傷つくような事はしないよ。それに、今回竜を助けてくれたのは紛れもなく彼自身の意志で、彼の力を使った結果なのだと僕達は知っているからね」


 その時べルゼルはほんの少し優しげに眼を細めて僕を見た。

 それに僕は、受け入れてもらえたような嬉しさを感じているとセラフが僕達の元にやってきたので、べルゼルとフォルカーが僕を部屋に案内してくれるように頼んだのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 勇がいなくなってフォルカーとべルゼルは二人きりになる。

 そこでフォルカーは、


「それで、何を頼みたい?」

「うん、実はね、一番初めに人間達に襲われた獣人族の村の捕虜が、人間達の世界であるあちら側にいたんだけれど、その場所が特定できたんだ」

「なるほど……こちらから俺が宣戦布告して奪い返すか?」

「うん、これ以上僕達に手出ししようなんて気持ちにならないように、ね。あちらの王は、どうやら愚鈍なようだから。出来ればもう少し話しの分かる王様に代わってくれると楽なんだけれどね」

「さて、楽になるかどうかは別だろう。それよりも彼らを保護してから、元の村ではなく別の村に連れて行くか? あそこの村はもう、壊滅してしまったのだろう?」

「ええ、ただあそこの村は、獣人族の“姫”を守る為の村だったので、“姫”がいる場所があの村ですからね」

「では、“姫”さえいればいいのか。それで、その獣人達の“姫”の力は、あいつらに知られているのか?」


 そのフォルカーの問いにべルゼルは首を左右に振る。


「分かりません。けれど伝わっていないと良いと思う、という希望的観測だけ言っておきます」

「そうだな、仕方がない。では、すぐにでも?」

「ええ、準備は整っております」


 べルゼルの言葉に、フォルカーは勇には見せた事のない様な、魔王の様な冷たい表情を浮かべたのだったのだった。


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