運命の岐路は、恋愛にて
そうしてフォルカーに手をひかれて、僕に与えられたあの女の子っぽい部屋に戻ってくる。
中を見て相変わらずのお花的な意味で華やかな部屋にぐったりしていると、
「やはりこの部屋は気に入らないか?」
「う、いえ、女の子の様な部屋なのが、やはりちょっと気になるかなって思いまして……」
そんな贅沢は言うべきではないが、やはり違和感は強い。
けれど魔王フォルカーは首をかしげて、
「勇にはお似合いだと思うぞ?」
「止めて下さい。……そうだ着替えはありますか?」
「そこの衣装棚にあるだろう」
そう言われて僕はそれを開く。
ひらひらとしたレースが美しい服が大量に入っている。
白、ピンク、青、他にも輝く石の様な者や真珠の様なものが縫いとめられており、見るからに手が込んでいるのが分かる。
ただ一つ問題がある。
それらは僕の目が正しければ、
「これ、女物のドレスなんじゃ……」
「なんだ、バレてしまったか。異世界ではないと思っていたが、こんなものもあるのか」
「ぐぅ、き、着ませんからね! 絶対絶対、着ませんから!」
「そうなのか? 残念だ。気が向いた時にきてくれればいい」
フォルカーはそれ以上僕に要求してこなかった。
だがもしかしたらこの後、何か要求してくるのかと僕は思っていると、
「俺は自分の言った事は違えないぞ」
「うう……はい。でもだとすると体を洗ったりするの、どうしよう」
ずっとお風呂かシャワーといった体を洗わずにいるのも嫌だ。
そもそも服が着替えられないのも嫌だが、そんな汗でベトベトの状態なんてと僕が思っていると、そこでフォルカーが僕に何か魔法をかけた。
それと同時にオフロに入った後のような爽快感が……。
「これで体は綺麗になっただろう」
「こ、こんな便利な魔法がああるんですか」
「ああ、恋人といたしたい時に、すぐにベッドに入れるようにと考案された魔法だ」
碌でもない理由だと僕が思っているとそこで僕にフォルカーが近づいてきて、それに僕は、
「な、何を?」
「“お礼”も兼ねて、勇の勇者の力の様子を見せてもらおうか」
「う、うわぁあああ」
そこで僕は魔王フォルカーにベッドに押し倒された。
見上げると、そこにはフォルカーのきれいな顔がある。
黒髪に赤い瞳、造形の整った面立ちに目を奪われる。
優しげに彼は微笑んだかと思うと、そこで僕はキスされた。
唇と唇が触れる温かい感触。
不思議と嫌だとは思わなかった。
むしろ心地よくてぼんやりとしてきて、もう少しこのまましていたいと思ってしまう。
そこで唇を放された。
「あまりに従順だと、その先に進んでいいと勘違いしてしまいそうだ」
「! だ、ダメです。それは駄目!」
「口説くつもりだからこの辺で止めておこう。俺が我慢できなくなりそうだからな」
そう言ってフォルカーは僕から体を離し、部屋から出て行ったのだった。
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フォルカーが部屋からいなくなって、僕は深々と溜息をつき、額の腕に上を置く。
そして瞳を閉じる。
暗闇に世界が満たされて、これだけは元の世界と同じだと思う。
そして目を開けば、あまり見覚えのない天井……というか、天蓋が見える。
僕はただラーメンを食べえいただけなのに、気づけば異世界に召喚されて勇者をさせられそうになり、そのまま魔王フォルカーに気に入られてさらわれてしまった。
僕は、元の世界に戻れるのだろうか。
「でも戻ったらフォルカーに会えなくなっちゃうな」
何気なしに呟いてしまったその言葉の意味に気づいて、僕はぎょっとしてしまう。
ま、まて、フォルカーは男だ。
お、男であって、どんなに優しく綺麗で魅力的でも男には変わりなくて……。
それでも、先ほどの唇と唇の触れ合った心地よい感触を思い出して、僕は自分の唇に指を這わす。
それから僕は何をやっているんだと頭を抱えてゴロゴロする。
「ほ、絆されかけている。ち、違うんだ、これは……」
そう必死に誰かにに対して言い訳をしている僕だが、結局はつかれていたこともあって、もう考えるのは止めだー、と小さく叫んで瞳を閉じたのだった。
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勇の部屋を後にしたフォルカーは、服が少し乱れたセラフと出会う。
「そういえば町で、獣人族の“姫”と守護者にあったが、把握しているか?」
「! 生きていたのですか! ではすぐにでも保護を……」
「彼らは今喫茶店を経営して静かに暮らしている。それを邪魔するのはどうかと思う」
「……傷は深いと?」
「分からない。ただ見た感じでは幸せそうだった」
「では、監視をつけましょう。……特に“姫”の能力は貴重ですから」
「まさかあちらの世界と獣人の村がつながるとはな」
「ええ、未踏の森の奥などであれば、魔物に喰われて終わりであったというのに、面倒な話です」
セラフが淡々と告げる。
こういった所はすぐに切り替えができる辺りが、昔からのセラフの優れている側面だとフォルカーは思う。そこで、
「……やはりあの人間がお気に入りなのですか?」
「気に入らないか?」
「ええ、フォルカーは生まれながらの“王”だから危険を感じないのかもしれませんが、私から見ればあれほど恐ろしい猛毒を持った生き物はいないように感じます」
「随分な言われようだな。……この俺が負けると?」
「もしもを考えるのも私の仕事です」
「そうだな。さて、話はここで終わりにしないか?」
「フォルカー、常々思っていたのですが貴方は……もがっ」
そこでセラフは後ろから伸びた手で口を抑えられる。そして、
「セラフ、フォルカーを困らせたら駄目だよ」
「ベ、ベルゼル、さっき気絶させたはず!」
「あの程度の気絶なら慣れていますから。というわけで約束通り、部屋で続きをしようね」
「ま、待て、私はフォルカーにまだ話が……」
「その続きは明日にしようね、セラフの説教は長いし」
そう言ってセラフはベルゼルに連れて行かれるのを見送りながら、フォルカーはポツリと呟いた。
「生まれながらの“王”か」
その声には苦いものが混じっていたのだった。
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次の日の朝、僕は目を覚ますと僕の直ぐ側で魔王フォルカーが寝ていた。
目を閉じたその顔も丹精で整っている。
まつげも長いんだなと僕が思ってみていて、そこで僕は寝ぼけた頭が覚醒した。
ちょっと待て、待とう。
僕は昨日フォルカーを見送って、疲れたので眠ってしまった。
そこまでは覚えているが、今起きたならフォルカーが添い寝していたという事実。
これはあれだ、朝起きたなら、見知らぬ裸の……つまり、何らかの既成事実が。
僕は焦るが、落ち着くんだと繰り返して自分の服を見る。
裸ではなくここに来たときの服だ。
そしてフォルカーも見る。
そこには魔王らしい服を着たフォルカーが眠っている。
間違いない、これは……何もなかった。
「良かった……本当に良かった」
僕が涙をこぼしそうになりながら呟いていると、そこでフォルカーが呻く。
そしてゆっくりと瞳を開く。
真紅のルビーのような瞳が僕を映して、
「勇、か」
「は、はい。おはようがざいますって、わぁああ」
そのまま僕はフォルカーに抱き寄せられて、ぎゅっと抱きしめられる。
僕は驚いてじたばたするが、
「少しでいい、抱きしめさせろ。でないと犯す」
「ひっ! は、はい」
犯すと言われて僕は大人しく抱きしめられる道を選びました。
でもこうやって抱きしめられると、服越しにフォルカーの体温が感じられて何だか、こう、フォルカーに包まれているような気がしてドキドキしてくる。
な、何でと思うのにそれは全然収まらない。
そしてしばらくしてようやくフォルカーは僕を話して、深々と嘆息し、
「暴れて抵抗してもらえれば手を出せたのにな」
「や、止めてください……」
「大人しく、少しづつ口説くとしよう」
「そ、そうしてください……んんっ」
そこでフォルカーは僕に触れるだけの軽いキスをして、
「さて、食事に行こうか」
何事もなかったように僕に告げたのだった。
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何かがおかしいと思いながら、僕はようやく気づいた。
何で自然にキスをしているのだ、と。
けれどそれを今更いうことも出来ず、僕は黙って絨毯の敷かれた廊下を歩く。
食事に向かう僕達だが、どうしてフォルカーが僕の隣に寝ていたのか聞いた所、
「夕食に勇を呼びに来たら疲れて寝ていたから、俺も隣で寝ることにした」
らしい。
何故とか、どうしてとか突っ込む気力すらも僕には起きなくなった。
けれど夕食をとっていないので、それは当然なのかもしれない。
お腹が空いたなと思いながら向かった僕はそこで、新たな危機に直面したのだった。
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まず食事をするための部屋にやってきた僕はそこで待ち構えていた人物に剣を向けられた。
銀色に輝く刀身に僕は怯えを覚える。
けれど、それに魔王フォルカーが僕の一歩前へ出て、
「セラフ、止めろ。命令だ」
「……少し剣を向けた程度では力は見せないか。……それにフォルカーも無事なので今回は見逃しましょう」
そう言ってセラフは紫色の双眸を細め、冷たく僕を睨みつけた。
確かにこの人は宰相だし、昨日の話を聞く限りフォルカーに憧れているので、そんな彼に僕のような人間が近づくのは嫌なのだろうと思う。
そこでフォルカーが、
「勇に手を出すなと言っていなかったか?」
「さあ、記憶にございません」
「ではもう一度いう。勇に手を出すな。次はないぞ」
「さて、どうでしょう」
「セラフ」
「私はあなたにはもっとふさわしい方がいると思いますが?」
「俺の知る限りでは勇以外はいない。それに、昨日は一緒に寝たが、何もなかったぞ」
フォルカーがどこか自慢気にいうが、僕としてはそこは誤解されないように言って欲しかった。
現にセラフは凍りついた後、
「なるほど、その姿でフォルカーを誘惑したと」
「あ、いえ、僕が寝ていたらフォルカーが勝手にベッドに入ってきて……」
けれどそこで僕はセラフに睨みつけられて、けれど次にフォルカーをセラフは見て、
「フォルカー、何故こんな普通っぽい子供なのですか?」
「ん? 勇は可愛いぞ?」
「……確かにかわいい部類には入りますが、そこまで惹かれるとは思えません」
「勇の魅力を知っているのは俺だけで十分だから、それ以上言う必要はないな」
笑うフォルカーにセラフは頭痛がしたようだった。
一度瞳を閉じて深々とため息を付いて、
「……もういいです。朝から頭の痛くなる話を聞かされました」
「セラフが聞いてきたのだろう?」
「……ええ、そうですね。ついイラッとしてしまいまして」
「そういえば、ベルゼルはどうした?」
「……あいつなんて知りません、と言いたい所ですが、朝から対応に向かってもらいました」
その言葉にフォルカーは笑みを消した。
いつもの余裕がある風ではなく、
「ベルゼルが向かうほど、か」
「ええ、狂った竜相手ですから、被害が出る前に足止めをと」
「分かった、俺もすぐに向かおう」
そう告げたフォルカーだがそこで僕は、何となく一緒に“行かなければならない”気がした。
その奇妙な感覚に突き動かされるように、僕はフォルカーに、
「ぼ、僕も連れて行って」
そうフォルカーにお願いしたのだった。
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その僕のお願いは意外なものであったらしい。
魔王フォルカーは目を瞬かせて、
「……狂った竜だぞ? その昔、人間と恋をして人間達の世界に行き、けれど利用されてしまった哀れな魔族だぞ?」
「そう、なのですか? 僕の世界には竜はいませんから」
「……人間と言っても、勇は異世界の存在だから、関係はないか? いや、逆に人間は襲わにだろうから……」
不穏な言葉が聞こえるがそこでセラフが、
「フォルカー、まさかこれを連れて行くわけではないですよね?」
「連れて行くつもりだ。本人の希望でもあるからな」
「イザという時に後ろから刺されるかもしれません。私は反対です」
「この俺をどうこうできる力が、今の勇にはあるとは思えないが」
「油断は禁物です」
「……勇は、そんなことはしないだろう。それにしたとしたら、容赦なく色々出来て俺にも都合がいい」
前半はいいのだが後半に怖い含みを持たせるフォルカー。
僕は何をされるんだろうと思いつつも聞けずにいると、そこでセラフが深々とため息を付いた。
「……私が止めても連れて行くのでしょう。それにそれは、“人間”ですから、もしかしたなら動きを止めるかもしれません」
「人間に使役されているのでは? その使役する人間の言葉しか耳に入らないのではないか?」
「とは言うものの、最近分かった話ですが、同じ人間は襲わなかったり呼び声に耳を傾ける例もあるようです」
「その例は、俺も知らなかったが……では、勇は使えるということか」
「……残念ながら」
「では、連れて行こう。危険がないように少し“勇者”の力を開放したほうがいいか」
「……今のままで十分では?」
セラフが僕を見て、ふんと笑うが、僕としては危険な場所に行くのに力が抑えられるのはなと思っているとそこで、僕はフォルカーに抱きしめられる。
何だかフォルカーに抱きしめられると頭がトロンとしてくるなと思っていた所で、僕はフォルカーに顎を掴まれてそのまま唇を重ねられる。
フォルカーとのキスも、なんか気持ちが良いなと思って、流されかけて、僕ははっとした。
何で僕は男とキスしてトロンとしているんだ?
そうは思うのに体は素直に反応してしまう。
しかも少しずつ僕の中で力がみなぎっていくような気がして、そこで僕は唇を放された。
「これくらい開放しておけばいいだろう」
「これで?」
「ああ、多分これで自分の身ぐらいは守れるだろう」
フォルカーに言われて、僕はそうなのかなと思う。
そして僕は渋そうな顔をしているセラフの前で、食事をとって、その場所に行くことになった。
「さて、空間転移するからこちらに来い」
「! 何だかすごい技が!」
「そうだ。しっかり捕まっていないと何処に飛ばされるかわからないからな」
そう言われた僕は、フォルカーにぴとっとくっついて目をつむって、そして、フォルカーがセラフに、
「ではいってくる」
「いってらっしゃいませ」
セラフが告げると共に、頭を揺さぶられるような感覚を僕は味わって、そして、大きな轟音に目を見開いたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
そこは森の一角の、開けた場所だった。
どういった理由でこのような地形が出来たのかは僕には分からないが、今目の前の状況は分かる。
ゲーム内に出てくるドラゴンの様なものがそこにいた。
恐竜の様な様相で、背には大きな翼が生えている。
その肌は爬虫類の様な鱗で覆われており、その鱗は鮮やかな青色で陽の光の中で輝いている。
そしてその瞳は、暗い闇を落としこんだように黒く染め上げられている。
その竜が大きな雄叫びをあげる。
同時に周囲に風の刃の様な物が導かれる。
それらが一斉にその周囲で竜に向かって攻撃を仕掛ける魔族達に向かって行く。
そしてその攻撃は僕達にまで向かってきて、防御を、と思う間もなく僕の目前に迫り……。
「“消えろ”」
魔王フォルカーがそう呟くと同時にその攻撃は消滅した。
そこで、その戦いの中で積極的に攻撃を加えていた金髪の男、ベルゼルが来て、
「あ、フォルカー、来てくれたんだ」
「食事の時にセラフから聞いた。だが……随分と盛大にやられたな」
ちなみにこのベルゼル、先ほどの戦闘の間も余裕な状態で服に攻撃の一つも受けていないようだった。
他の部下たちらしき人達は服が所々破れて切り傷を負っているが、ベルゼルはそんなものは一つもなかった。
唯一つ、右頬にある、大きな赤いひっぱたかれたような跡以外は。
「いやー、僕のお姫様は恥ずかしがり屋なんですよ。でもツンツンした子がデレる瞬間て本当に可愛いんですよね」
「ついやり過ぎたか」
「ほら、『もう、止めて……』って言われたらもう、止まらなくなっちゃって。てへ」
危機的な状況なはずなのに、物凄く過激な話を聞かされてしまった僕が固まっていると、それにフォルカーは気づいて、
「勇にはまだ早かったようだ。それよりも無力化は難しいのか?」
「新しい傷つけずに捕獲する方法を試していたのだけれど失敗してしまって。同じ魔族なので、できるだけ穏便に救ってあげたいと思ったのが裏目に出ました」
「そうか。では、少し手荒な方法になるが……いつもどおりの方法で行くぞ」
フォルカーが告げると同時に、その青い竜の動きが止まる。
同時に、まるで地面に吸い付けられるように倒れる。
何とか這い上がろうとしているようだが、羽をばたつかせるも動けないようだった。
その様子を見てからフォルカーが、
「それでは、俺の力を使うか。魔王としての、な」
そう言ってフォルカーが瞳を閉じようとした所で僕は、“今”だと思った。
「大人しくして!」
その僕の呼びかけに竜は反応するように抵抗をやめる。
そして何かに突き動かされるように僕は、“それ”を行った。
「勇?」
不思議そうにフォルカーが僕の名前を呼ぶ。
同時にその竜の瞳が黒から金色に変わって行く。
その竜は僕とフォルカーの姿を瞳に映して微笑んだようだった。
けれどすぐに、疲れたように瞳を閉じて地面に倒れこんでしまったのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
僕は自分で何をしたのか、よく分からなかった。
けれど“こうしなければならない”そんな衝動に駆られ、突き動かされるように僕はそれを行った。
理由なんて何もわからない。
けれど最後に見た竜の金色の瞳は優しげだったから、きっと大丈夫だと思う。
そこでその青い竜の元にベルゼルは走り寄って、
「大丈夫です、気絶しているだけです! 目立った外傷なども特にありません」
「そうか。……“癒やした”のか?」
魔王フォルカーがそう呟くが、その“癒やした”という言葉に僕は何か僕の中でしっくりと来るものがある。
そこで僕はフォルカーに抱きしめられた、
「ありがとう、勇。俺とは違う方法で助けてくれたようだな。礼を言わせてもらう」
「え、えっと、よく分からないけれど、役に立ったならそれでいいかな」
「ああ。ますます欲しくなった。俺のものにならないか?」
「う、うえ、えっと、保留で」
「残念だ」
そう言って僕はフォルカーから離される。
それが何となく物寂しいような気がしていると、そこで青い竜が光りに包まれる。
その光はやがて一人の人間の形を作り上げる。
僕はそれを見て、
「竜って、人間になるの?」
「正確には魔族だが、そうだ。俺だってそうだろう?」
「そうなんだ。フォルカーも確かに人間みたいだよね。……え?」
疑問符を浮かべて、僕はフォルカーを見上げたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
その後、フォルカーの力で全員帰還し、その倒された青い竜の手当にベルゼル達は向かった。
ただ僕としては、フォルカーがあんな大きい姿になるのかと思って気になっていた。
なのでちらちら僕はフォルカーを見ていると、
「勇も少しは俺を気にしてくれるようになったのか?」
「い、いえ、そうではなくて、聞きたいことが……」
「言ってみろ。竜を助けてくれた礼も兼ねて答えてやる」
なのでフォルカーの正体を……と僕は思ったが、さすがに聞くのも憚れてかわりに、
「僕のあの竜を助けた力は一体何なのでしょう」
「……勇は、魔王である俺の力を知っているか?」
「知りませんが、関係があるのですか?」
「魔王になった者は、“全ての魔を、呪いを断ち切る力”を与えるのだ」
「“全ての魔を、呪いを断ち切る力”? 魔王なのに? ……あ、ごめんなさい」
魔王の僕の先入観から僕はそんなことを聞いてしまう。
フォルカーの様子から、非道な魔族の王のイメージは全くないのに、つい聞いてしまった。
そこでフォルカーが苦笑する。
「勇の魔王のイメージは人間のそれと同じなのだな」
「……ごめんなさい」
「仕方がない。我々魔族も人間は残酷で知能の低い動物と思っているものも多々いるから。それで、勇は勇者なのだな。魔王と対をなす」
「……そうなのですか?」
「書物にはそうと書かれていたのを目にしたことがある。だからおそらく勇者の力とは、“全ての魔を、呪いを癒す力”だろう」
そう僕にフォルカーは告げたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
その僕の勇者としての力について語った魔王フォルカーだが、僕にはよく分からない。
首を傾げる僕にフォルカーは苦笑して、
「そのままの意味だ。全ての魔を、呪いを癒やす、そんな力だ」
「……呪いは何となくわかるけれど、魔、とは?」
「“魔”とは、世界を滅ぼそうとする意志ある“呪い”の一種で、時折、降ってくるものだ」
「降ってくる?」
「この魔界と異界とが触れた反動だと言われているが、全てがそういうわけではないので、未だにそれは不明だ。……そしてその“魔”を断つのも、魔王の役目でもある」
「そう、なんですか。あれ、人間の世界ともこの魔界はくっついているのでは?」
「そうだな。実際にその時、“魔”は生まれたが、たまたまこちら側に現れたので俺が断ち切った」
「あ、そうなのですか」
「やはり同じ人間だから気になるのか? 異界の者だとしても」
「それは、まあ……」
けれど、その“魔”をフォルカーが倒したなら大丈夫かと思っていると、
「ただ、世界が接触した反動で、こちらの世界の強い魔物が“人間”という餌を求めて少しあちらがわに入ってしまったが」
「え、ええ!」
「奴らが我々魔族にしたことを思えば、その程度ささやかな出来事だな。しかし、人間は“魔”についての知識が足りていない。……まあ、その昔、魔王にその“魔”が取り付いて大変なことになったが、それの影響であちらの世界もとんでもないことになって、伝説に語られる悪とされてしまったようだが。だから彼らは我々を魔族と呼んでいるが」
「そうなのですか。でも魔族ってなんで自分で呼んでいるのですか?」
それは人間側の蔑称のようにも見えたから僕は聞いてみるけれど、それに魔王フォルカーは目を瞬かせてから、
「……どうやら異界から来た勇には、言語があちら側のニュアンスで訳されているらしい」
「え、そうなのですか?」
「それともその勇者の力にはそういった効果があるのか分からないが、なるほど。面白い魔法だ。あとで見せてもらおうか」
「え、えっと、出来るのでしたら」
そう僕は答えながらも、僕は気になって聞いてみる。
「その、僕が“魔族”と聞いているのはどんな意味なのですか?」
「“絢爛なる花々の一族”そう我々は自分達を呼んでいる」
全然意味は違っているけれど、このフォルカーの力強さと美しさを見ているとそちらのほうが似合っているように思えた。
そこでフォルカーは、
「さて、話が脱線してしまったが、勇のその力のほうが俺にとっても、あの青い竜にとっても都合が良かった」
「え?」
「あれは呪いで俺達を攻撃するようにされていたが、それを俺の力で断ち切ると……例えば紐を引っ張ったとして、それを断ち切るとその紐を引っ張る力が自分に返ってくるだろう? それと同じように俺の力は断ち切る力だから、呪いをかけられたものへの反動が大きい」
「じゃあ僕の癒やしでは」
「そう、あの竜を出来る限り傷つけずにすんだ、そういうことだ」
フォルカーはそう、優しげに僕に告げたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
倒れた青い竜の様子を見に行くからと、フォルカーは僕を部屋に案内してくれた。
相変わらず建物の中を覚えられない僕は、フォルカーにそこまで連れてきてもらった。
「僕、あの竜がどうなったのか知りたい」
「では、目が覚めたら呼んでやろう」
フォルカーはそう僕に言って何処かへと向かった。
なので僕はごろりとベッドに転がる。
何だか妙に疲れてしまった。
「でも、“魔族”ではないんだな」
敵国をさげすむような呼び方をする場合があると、何かで聞いた事があった。
それがこの世界でも同じように起こっていたらしい。
自分の国の事を悪くは言わないよな、もしくは僕達から悪く見えても、その国では魅力的な意味を持つのかもしれない。
でも僕が呟くその言葉は、“魔族”と言っているはずだけれど、多分フォルカー達にはそうは聞こえていなかったのかもしれない。
この言葉が自動で選択するのは何なんだろうと思いながら、僕は瞳を閉じようとして……声が聞こえるのに気づいた。
その声は、僕をここに召喚した人間達と同じもので、
「何で聞こえるんだろう?」
「……聞こえたか。この役立たずが。全く、勇者などという、“人”の狭間に生きる“人間”になど頼むのではなかったわ」
「“人”の狭間に生きる“人間”?」
「そうだ、異界の“人”に似た化け物め。必要だから呼んだというのに、使い物にならないとは。まあこちらの世界にやってきた魔物は全部倒したからお前は用済みだ。好きにしろ」
「……僕を元の世界に戻すのは?」
「……そんなもの、我々が知るわけないだろう。お前はもう我々に必要ない。好きにしろ」
一方的に罵詈雑言を並べ立てて、声が聞こえなくなってしまう。
でも僕は、彼らにとって化け物であるらしい。
しかも“人”ですらないようだ。
「……フォルカーが僕を気に言って攫ってくれなかったら、僕はどうなっていたんだろう」
呟いてみて、その恐ろしさに僕はそれ以上考えないようにする。
人間と人の意味は同じだと僕は思っていたけれど、彼らは違うようだ。
何だか疲れてしまって、僕はそのまま瞳を閉じたのだった。
。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"
「勇、勇」
名前を呼ばれるが、もう少しまどろんでいたいと思って僕は起きれずにいると、唇が重ねられた。
それもなんか気持ちが良いなと僕は思っていると、唇が放されて、
「……そんなに気持ち良さそうで抵抗しないと、先に進むぞ?」
笑うように言われて、僕ははっと目を覚ました。
目の前でフォルカーが優しげに微笑んでいて、見とれてしまう。と、
「あの、勇が呪いを解いた竜が目を覚ましたぞ?」
そう僕に教えてくれたのだった。




