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ちょっと絆されそうになっていて危険

 金髪に青い瞳の男。

 彼もまた美形だが、先ほど会った少年にとても良く似ている。

 成長するとこんな風になるのかな、というような変わりようだ。

 そんな彼を見て、魔王フォルカーは嘆息した。


「今は勇との会話に忙しい。後にしろ、ベルゼル」

「いやー、僕が元に戻してもらえる条件がこれなんだよね~」

「また魔力を使うと、子供になるぞ?」

「セラフがそれで子供になっても協力してくれるって」


 嬉しそうに笑うべルゼルは、槍の様な武器を持っている。

 一方、魔王フォルカーは丸腰のように見える。

 不安に思って僕はフォルカーを見上げると、魔王フォルカーは苦笑した。


「何て顔をしているんだ。俺が負けると思っているのか?」

「……だってあいつは槍を持っているのに魔王フォルカーは丸腰だし」


 それを聞いて魔王フォルカーは笑いだした。

 僕はそんなにおかしい事を言ったつもりはないのにと思っていると、


「あははは、この俺を心配するのか。ふむ、なるほど。実に面白い。そう思わないかベルゼル」

「そうですね~、普通の戦闘でフォルカーが負けるはずがないしね」

「なのになぜまた俺に挑む?」

「うーん、やっぱり僕も、人間は信用出来ないからさ」


 べルゼルが屈託のない笑顔を浮かべながら、ぞっとするような含みを持たせて僕の顔を見ながら告げた。

 それに魔王フォルカーは、


「なるほど、それがセラフの条件か? 勇を俺に近づけさせないための。だから魔王の座を奪うと?」

「と、いうよりやっぱり僕も魔王になってみたい欲求の様なものもあるのです。だから挑戦しようかなって」

「もしも受けない、といったならどうする?」

「そうだね。……勇に僕が手出ししても良いかな」


 そう冗談のようにべルゼルが告げると、魔王フォルカーからふわりと恐怖を覚えるような恐ろしい気配が漂う。

 それに僕はびくついていると、そんな魔王フォルカーにべルゼルはひきつったように、


「冗談のつもりだったのだけれど、本気みたいだね」

「そうだな、本気だ」

「……面倒臭いな。でも、少なくとも僕が負けたなら、その人間の命にかかわるような手出しはしないと約束する。どう?」

「……良いだろう」


 そう言ってべルゼルと魔王フォルカーは戦闘したのですが、べルゼルが張っていた罠を一瞬にしてフォルカーは消滅させる。そして、


「それで、まさかあの罠さえあれば俺に勝てると思っていたのか?」

「いやー、他の罠を張る時間がなくて」


 そう笑うべルゼルを、フォルカーの魔法で作られた風が薙ぎ、一瞬にしてべルゼルは子供の姿になる。

 そこでべルゼルは降参と叫んでから、


「やっぱりフォルカーは圧倒的だ。また僕も鍛錬しないと」

「だが約束は約束だ。そして勇、もう町に行くぞ。こんな風に、決闘と称してお前との時間を潰されてはかなわないからな」

「あ、ばれちゃいました?」

「……どれくらいの付き合いだと思っているんだ。勇、行くぞ」


 悪戯っぽく笑うべルゼルを置いて、僕は魔王フォルカーに手をひかれて、その場から守られるように連れて行かれてしまったのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 機嫌の良さそうな魔王フォルカーに僕は町に連れて行かれていた。

 露店が立ち並ぶ町。

 時々TVで見る海外の光景に何処かにているようにみえる。

 色々な食べ物や花、雑貨などが売られている。


 そして女の個体数が少ないというだけに、男ばかりが目立つ。

 というより男しかいない。

 途中、獣耳の人間を目撃したが、美形の男だった。


 男に用はない、女の子をよこせ―、というかフォルカーの方が格好いいと思った。

 なんだかんだいって、力も強く顔の造形も整っている。

 そういえば先ほどの戦闘も凄かった。


 目の前で見せつけられたフォルカーの強さに僕は、改めてこの人は魔王なんだなと思う。

 そこで魔王フォルカーが僕に、


「心配してくれたのは嬉しかったな」

「うう、まさかあんなに圧倒的な強さだとは思いませんでした」

「惚れたか?」

「……男はちょっと」

「残念、もう少し時間がかかりそうだな。だがそれもまた面白い」


 面白いと言われてしまった僕は、またひとつ好感度を上げてしまったと心の中で涙した。

 できれば帰る方法を見つけ出して、友情のようなものを育んでここからいい感じに帰れればいいと思う。

 きっとそれが一番よい方法なのだ。


 但しその理想の壁は高いが。

 だって今も、魔王フォルカーが僕の腰に手を回そうとしてくるし、それに僕はそうっと逃げるのである。

 それに気づいたのか魔王フォルカーは、今度は僕の方に手を回し耳元で笑うように、


「少しくらいはサービスしてくれてもいいのでは」

「な、何のサービスですか?」

「そうだな、恋人のように振る舞うとか」

「ま、まだ無理です!」

「そうか、仕方がないな……まあいい、まだ時間はある。ただこの人混みからはぐれると……」


 といった所で、突然すぐそばの路地から沢山の人が走ってきて、


「うわぁあああ」

「勇!」


 そのまま僕は何故か別の路地に流されるように連れて行かれてしまったのだった。



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"



 謎の人の流れに乗って、怪しげな路地に放り込まれた僕。

 だがそこにいた巨漢に僕は体をぶつけてしまう。


「ああん?」

「ひぃ! ごめんなさ、い……」


 そこには巨漢に囲まれたネコ耳の可愛らしい少年がプルプル震えていた。

 服が乱されているので、お金を巻き上げられそうになっているだけではないらしい。

 つまり、男なのに貞操の危機。

 そこでたまたま当たってしまった巨漢が僕を見て、


「なんだ、人間か。だが見た目がいいからこいつも楽しませてもらおうか」

「え、ええ! や、やめてください! 僕にそんな趣味はありません!」


 けれど僕の言葉なんて聞くはずもなく、その巨漢と仲間が一斉に僕に襲いかかってきて……次の瞬間、僕の勇者としての謎パワー? が現れて、全員昏倒させてしまったのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 どういうわけか倒してしまった僕。

 気絶した巨漢が起きる前に僕はこの場から逃走する必要がある。

 だってこれ以上絡まれるのも嫌だし。


 でも先ほどのこの猫耳少年を放っておけず、僕は先程の恐怖で震える彼に手を伸ばして、


「捕まって」

「は、はい……」


 猫耳少年が頬を染めて、僕の手をにぎる。

 そして立ち上がらせると彼は、


「あ、あの、助けて頂いてありがとうございます。僕は、フランと言います」

「あ、えっと僕は……」


 そこで僕は自分の名前を告げようとすると、


「勇、ここにいたのか!」


 魔王フォルカーが現れた。

 息が切れているのを見て、僕を一生懸命探してくれていたらしい。

 そこで魔王フォルカーはこの惨状を見て状況を把握したらしい。


「この辺りは治安が良くない。場所を移動しよう。そこにいるお前もだ」

「は、はい」


 気の弱そうな猫耳少年はフォルカーに言われてそう頷いたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





「すまない、助けることも出来なかった」


 場所を移動する時に魔王フォルカーが謝る。それを聞きながら僕は、


「そんな! 僕が勝手に流されただけだし」

「だが見失ってしまった。俺はお前を守ろうと思っていたのにこんな簡単に見失ってしまうなんて……不覚」


 どうやら、僕の事をとても心配してくれていたようだ。

 悪い事をしたと思いながらも、心配されるのは嫌ではなくて、むしろ嬉しいと僕は思ってしまう。

 そこで魔王フォルカーがむっとしたように僕を見て、


「何がおかしい」

「え? 心配してもらえて嬉しいなって」

「当たり前だ。好きな相手を守れないなど、俺自身が俺を許せない」


 そう告げて僕の手を握るフォルカー。

 僕をもう二度と見失わないと強く握っている。

 ああ、想われているんだなと僕は思った。


 だが男だとすぐに僕は必死で自分の中に芽生えそうになった感情を否定したけれど。

 そこで先程の猫耳少年が、


「あの、お礼もしたいので僕達のお店にいらっしゃいませんか?」


 そう、僕と魔王フォルカーに彼、フランは告げたのだった。





。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 猫耳の彼に連れて来られたのはこじんまりとした喫茶店だった。

 そこにはもう一人、背の高い黒髪黒目の野性的な風貌の猫耳少年がいて、店の食器を片付けているようだった。

 そんな彼に先ほどのフランという猫耳少年が、


「ジル! お客さんを連れてきたよ! さっき助けてもらったんだ」

「助けてもらったって、何があったんだ!」


 ジルが焦ったようにフランの方を掴み問い詰める。

 なので僕は、


「巨漢の男に襲われそうになっていて、たまたま遭遇した僕が倒してしまいました」

「そうなのですか。“人間”に助けられたのか」


 その含みのある言い方には、複雑な感情が見え隠れする。

 色々と難しい問題があるのかもしれないと思っていると、そこでジルが嘆息して、


「恩人であることには変わりません。お礼にお茶とケーキをごちそうします」

「ジルのケーキは凄く美味しいんだよ!」


 フランが楽しそうに、僕達に告げたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 出されたケーキは、黄色いスポンジに白いクリームと赤や紫色の果実をはさみ、飾ったケーキだった。

 同じものが魔王フォルカーの前にも置かれる。

 それにフォルカーは笑い、


「助けたのは勇だろう? 私もいいのか?」

「片方だけという訳にはいかないでしょう。それに……我らが魔王様となれば当然です」

「ほう、お前は分かるのか?」

「……昔、少しは名のしれた双剣使いをしておりましたので。戦闘を生業としていたせいか、相手を見抜くのに長けておりますので」

「なるほど“ジル”ね」


 笑う魔王フォルカーに顔をこわばらせるジルだがそこで、先ほどの助けた猫耳少年のフランが驚いたように目を見開いて、


「魔王様? こんな地味な魔族が?」


 それを聞きながら僕は首を傾げる。

 魔王フォルカーは、地味ではない。

 むしろこの容貌は、見る者を惹きつけるような気高く強く、綺麗だ。


 男だとしてもつい僕は目が釘付けになってしまうくらいに、魅力的なのだ。

 それを地味って、このフランは何を言っているんだろうと僕は思う。

 そんな僕の表情に気づいたのか魔王フォルカーが、


「勇以外にはそう見えない魔法を使っていたからな。だが魔力の強いものには見破れる、そういった類の魔法だ」


 そうフォルカーは言って、丁度何かのお茶らしいものを淹れはじめたジルを見るが、彼は素知らぬ顔をしている。

 ということはフォルカーの本当の姿を見ぬいた彼の才は素晴らしいのだろうが、そこでフランが、


「う、うう、ジルに見えてどうして僕に見えないんだ……」

「その力が封じられた状態では当然だろう」

「? 力、ですか?」


 首をかしげるフラン。

 それと同時にフランの猫耳がぴこんと動く。

 本物の猫耳が目の前に動いている様子に僕は、触りたくてたまらない衝動に駆られていると、そこでフォルカーが、


「……見えない理由をそう嘘を言って慰めるつもりだったが、済まない。そちらのジルに怒られてしまいそうなのでこれ以上期待させるのはやめておく」

「それって僕に力がないって言い切ったんじゃ……酷い」


 そんな涙目になるフランをジルが抱きしめて、


「フランはそのままでいいんだ。そうすれば俺達はずっと一緒にいられるだろう?」

「うう……何で僕こんなに弱いんだろう」

「きっと俺に守られるためだよ」

「うぐ、絶対今にジルを超えてみせるんだからー!」


 そう叫んで、フランは店の奥に入っていってしまった。

 それを見送ってからジルが、


「あまり驚かさないでください、フォルカー様」

「すまない。彼があの、君達の“姫”かな?」

「ええ。ただまだフランは何も知りませんから。その方が安全ですし。ただ……最近特に可愛くなってしまっているのは、困りものですが」

「おかげで今日のような目に合いやすくて、か」

「ええ。今日も自分一人で大丈夫だと騒ぐので、つい行かせてしまったらこんな事に……助けて頂いてありがとうございます」


 そこでジルが僕にお礼を言う。

 正確には巻き込まれて撃退したのだが、助けたといえば助けたとも言える。

 なので僕はジルに、


「いえ、たまたまです」


 そう答えたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"




 その後、ケーキを頂いて、また来たいなと僕が呟くと、


「ではまた連れて来てやろう。今度は客として、な」


 と、魔王フォルカーが微笑みながら僕に告げる。

 その頬笑みに一瞬釘づけになりそうになりながらも僕は慌てて、


「いいよ、フォルカーも王様の仕事が忙しいだろうし」

「勇が俺を好きになってくれるためならば、労力は惜しまないつもりだが?」

「そ、そんな……」

「冗談だ。自分の役目を果たす程度の責任感が俺にはある。ただずっと仕事ばかりをしているわけではないから、その合間合間に、こういった場所に連れてきても良いと言っている。勇が気に入ったならば、な」


 僕が気に入ったなら連れてきてやる、そう魔王フォルカーは言う。

 僕を口説く一環なのだろうが、何だかこう言われてしまうと心が揺さぶられるような変な感じだ。

 正確には戸惑ってしまう。


 相手が男、どんなに綺麗でも男。

 けれど今の僕は彼に気に入られたのは幸運で、彼の庇護がなければ非常に危険な状態だ。

 でもだからといって、そんな理由で彼を“好き”になって良いのだろうか。


 ……いやいや、何を思っているんだ僕は。

 なんだ“好き”って。

 焦った僕だがそこでフォルカーが立ち上がり、ジル達に声をかけると、


「もういっちゃうんだ、また来てね」


 フランが出てきて僕に手を振る。

 それに手を振っていると、そこでフォルカーが僕に近づいてきて、


「さあ、次に行こう」


 そう僕に手を差し伸べたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 手を繋ぐのは道に迷わないように。

 そう言われて僕は魔王フォルカーに手を握られていた。

 先ほどの様にはぐれないように少し強めに握っている。


 町は思いのほか広いようだ。

 いざという時に逃げだすのもまた難しそうだなと、今更ながら僕は嘆息しそうになる。

 しかもこんなに人以外の人種が多い、というか僕の様な“人間”がいない。


 やはりここは魔族の世界なんだなとしみじみと思う。

 そうやって再び人ごみの中を歩いていく僕達。

 そこで僕は、


「フォルカー、今度は何処に向かっているの?」

「ん? 雑貨の店なのだ集まっている場所だ。そういった店は好きではないか?」

「い、いえ、魔族の雑貨屋も興味はあります」

「そうか。町に出てはみたが、こういった時にどうやって好きな相手にアピールをすればいいのかが分からなくて、困っていた所だったんだ」

「ええ! えっと、うう……」


 本当に困ったように僕に言うフォルカーに、僕は困ってしまう。

 だってすごく僕を思ってくれていて、でもきっと僕はそれに答える事は出来なくて。

 利用してしまっているんだろうかと罪悪感が湧いてくる。


 そこで露天のアクセサリーのお店を見つける。

 そこに連れて行かれた僕は、


「この中のペンダントから好きなものを選べ」

「え、えっと僕、男で……」

「防御の魔法をかけておくには丁度良さそうだからな」


 そう言われて僕は、魔王フォルカーが僕の身をとても案じていると気付く。

 それが僕には嬉しくて、でも女性もののおしゃれなものを付ける勇気はなくて、革ひもに赤い石が付けられていた、シンプルなデザインの物を選んだのだった。

 



。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 選んだペンダントを見て魔王フォルカーは、


「もう少し可愛らしい物の方が似合うのでは? あれとか」


 指さしたのは白く、淡いピンク色の光沢のある真珠の飾りがついたものだった。

 けれどそのデザインはあまりにも女性らしい物だったので、


「ぼ、僕はこれでいいです」

「そうなのか? 仕方がないな。店主、これを」


 そう言って購入するが、手渡されて道を行く間も、


「真珠は勇に似合いそうだと思うが」

「うう、僕は男です」

「可愛いから似合うと思うがな」

「そ、それにほら、真珠は高価ですし」


 確か以前、天然物真珠のネックレスが~、というチラシで見た時高かった気がするのだ。

 この世界の真珠がどんなものかは知らないが、きっと高いものだろうと推測していってみたのだが、それに魔王フォルカーは頷いて、


「確かに真珠は高級品だ。歴戦の真珠職人が技術を磨き、集めてくるのだからな」

「そうなのですか。養殖技術か何かをですか?」

「? ……勇の世界はあの、真珠貝を養殖しているのか? 兵器以外の使い道が思い浮かばないが、どのように使っているのだ?」


 そのフォルカーの問いかけに僕は、何か大きな認識の隔たりを感じた。

 真珠貝は唯の貝に、色々して作らせるんですよと僕が説明すると魔王フォルカーは、


「ふむ、勇の世界の真珠は随分と大人しいのだな。この世界の真珠は、そのへんの木々を貫通するぐらいの強力な力で真珠を打ち放す凶悪な生物だからな」

「ええ! で、でもそんなことをしたら、ものにあたって真珠が壊れてしまうんじゃ……」

「だから歴戦の真珠職人が打ち出されたすべての弾を目にも留まらぬ速さと正確さで、真珠を傷つけないように捕まえるのだ」


 そんなどこぞの少年漫画のバトルシーンにありそうな捕獲を行っているらしい。

 歴戦の戦士か何かじゃないのか、その職人さんはと思っているとそこで、魔王フォルカーはそのペンダントを僕にかけてくる。


「これで大丈夫だ。俺以外誰も、勇を傷つけられない」

「あ、ありがとうございます」


 そう言われてしまうと何となく守られているとか嬉しくなってしまい、そこで僕は男にほだされるなと必死に心の中で繰り返していると、


「ほら、街の端についたぞ。此処から先は、この町に供給する野菜畑が広がっていて、その先は森になっている」


 魔王フォルカーの指差す先にはくろぐろとした森が広がっている。

 本当に異世界に来てしまったんだというような、頂上に雪が積もった山々もその更に先に見える。

 そこで魔王フォルカーは、


「今度はあの森に連れて行ってやろう。狩りは楽しいぞ?」


 それに狩りを知らない僕は、どう答えればいいのか分からず頷き、同時にここから逃げるのは更に良くわからない場所に迷いこむだけだよなと落ち込んだのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 そんな森に狩りに行く約束をした僕だが、そろそろ城に戻ろうと魔王フォルカーにいわれて、僕は城に戻ってくる。

 そんな魔王城に帰ってきた僕は、ある事に気付いて魔王フォルカーに、


「あ、あの、もうお城に着いたので、手は放して欲しいかなって」

「ん? そうか? 俺としてはもう少しこのままでいたいが」

「で、でもその、視線とか」

「俺は気にしないが?」

「う、うう……僕が気にするので放して下さい」


 そう僕がお願いすると、魔王フォルカーは僕から手を放してくれた。

 それに安堵する僕だが……別の困った事実に気付いた。つまり、


「僕の部屋ってどこ?」

「ああ、この城は広いからな。連れて行ってやろう」


 そう言って魔王フォルカーは僕に手を差し伸べる。

 確かに道に迷いそうなので、視線は痛いが仕方がないと僕はフォルカーの手を握る。

 その手は僕よりも大きくて、握ると何となくだけれど安心する。


 そんな事を思いながらも、僕は部屋までの道順は覚えておこうと思って必死に道を覚えようとするが、


「……今階段を上がって一つ目の角を右に行って、そこから二つ目の階段を……」


 魔王の城は広くて、なかなか覚えられない。

 そう思って目まいがしているとそこで、声が聞こえた。


「ぁ……も、もう……だめっ」


 か細い熱っぽい声で、何というか……。

 だがこの声を僕は何処かで聞いた気がしていると、そこでフォルカーが嘆息するように、


「またセラフとべルゼルが仕事部屋で遊んでいるのか」

「え、えっと……遊ぶ?」


 遊ぶにしては妙にあれな声だったようなと思っているとそこで別の声がする。


「だめとか、そんな声と表情で言っても止められるわけないじゃん。分かっていないなぁ~、セラフは。あ、それともわざと僕を誘ってる?」

「そ、そんなわけな……」

「うーん、あの堅物で冷血美人な宰相様がこんな風になるなんて誰も思わないだろうね」

「そ、それはべルゼルがするから……」

「僕が触れるから、セラフはこんな風になっちゃうの?」


 嬉しそうなべルゼルの声がしてから少しして、


「……そうです」

「……嬉しいな、セラフがそう思ってくれるの。できればそのまま、フォルカーの事を諦めてくれると嬉しいな」


 その言葉に僕はびくっとする。

 だってそれは、あのセラフという綺麗な魔族がこのフォルカーを好きだという事で、そして僕はフォルカーに気に入られているけれど、僕はそれを受け入れられなくて……。

 なのに、何だかもやもやしてしまう。

 そこで、更にセラフの声が聞こえてきたのだった。




。" ゜☆,。・:*:・゜★+★,。・:*:・☆゜"





 セラフの声は先ほどのエロくてらめぇ~な感じではなく、何処か真剣みを帯びたような声で、


「……私は、フォルカーを恋愛対象として見た事は、一度もない」

「へぇ、その割にはいつもフォルカーを追いかけ回して、僕になんて振り向きもしなかったくせに……」

「話を聞いてっ……」


 そして耳をすましていると、


「もう、止めてって……本当に私は、フォルカーを恋愛対象では見てなっ……」

「ふーん、じゃあどうして? 何時も目で追いかけて、姿を見つけると駆け寄ってたの?」

「……憧れ、だったんです。強く、美しく、優しく……そんな、昔から、生まれながらにして“王”である彼が、そうで。べルゼル、貴方だってそうでしょう?」

「セラフが何時も僕をどんな風に見ていたのか分かったよ。でも、僕はセラフみたいに憧れたわけじゃなくて、いつも……ライバルとしか見ていなかったんだ」

「そんな……」

「親友でもあるけれど、でも、何時だって、フォルカーに何とか勝ってセラフに僕を見てもらいたい、そんな気持ちでいっぱいだったんだよ」

「でも、私はべルゼルは、少しだけ好きかも」

「何時もそうやってセラフは僕の心を弄ぶんだ。期待を持たせて上手く使おうとしている。でもそれでもいいと思っている僕も大概だね」

「べルゼル……」

「たまには素直に僕の事を好きって言ってくれてもいいのに」


 ぼやくように呟いたべルゼルだがそこで、


「……愛してます、べルゼル。僕が恋愛対象として好きなのは、べルゼルだけです」

「! セラフ、今」

「……一度しか言いませんっ」

「セラフっ、愛してる!」


 べルゼルがそう叫ぶのを聞きながら、ふうとフォルカーが嘆息して声をかけた。


「べルゼル、セラフ、部屋の扉があいているから閉めるぞ」

「あ、フォルカー、ありがとう~」


 そう言ってフォルカーが少し開いていた部屋の扉を閉めて、べルゼルがお礼を言う。

 セラフの声が沈黙する。

 もしかしたなら絶句しているのかなと僕が思っていると、


「な、な、き、聞かれ……」

「あれ、セラフ気付いていないの? 確かに今は少し開いていたけれど、基本的にこの部屋、ドアの壁も薄いから皆に全部聞こえているよ?」

「え、ええ! ま、まさか……」


 それ以上は気の毒になって僕はフォルカーを促し、その場を後にする。

 そうしてしばらく歩いた所でフォルカーが、


「ふむ、あのセラフが気付いていなかったとは、珍しい事があるものだ。ああ、俺と重要な機密事項を話している時は何時も念には念を入れて様々な魔法を使っていたから……」

「れ、冷静だね」

「昔からの知り合いだから、お互いがどう思っているかなど俺には当たり前すぎて、今更としか思えないんだ」


 そう僕にフォルカーは、肩をすくめたのだった。



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