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誰が為  作者: 月鳴
他視点
2/15

賤しきもの

王太子視点。

※他視点はこれで一旦終わります。ネタがないので…何かアイディアをいただければ参考にさせていただきたく思います。

このあとはセイラの後日談を書けたらなぁと思っております…。


それではどうぞ↓

 



 その強かさならば王妃もよくこなせるだろう。

 必要とあれば家族さえ蹴落とせる無慈悲な君よ。


 俺はこの女を妃にしよう。



 絢爛豪華な王族主催の夜会。集まるのは主要な貴族とその子息たち。お互い領地や派閥争いなんかの情報を交換する社交の場。子息たちとっては将来の相手を探す見合いの場。

 王太子である俺も例外ではない。とはいえ、俺はこの盛大な見合いに些かうんざりしていた。

 なぜなら有力貴族の名だたる令嬢たちが王太子である俺の元に引っ切り無しに訪れるからだ。皆、力のある貴族の娘なので無碍に扱うこともできない。が、かといって惹かれるような女もいなかった。いい加減、噎せ返るような香水にも嫌気がさしてきた。だいたいなぜそんなに身体を密着させるのだ!鬱陶しい!

 イライラともはや悪臭に近い匂いに本格的に気分が悪くなりそうなところへ、俺の清涼剤は現れた。


「お初にお目にかかります、王太子殿下。(わたくし)クルーゲル家長姉、レイチェルと申します。以後お見知りおきくださいませ」


 白日のような、日向の穏やかな香りがするような、白金の髪の美しい娘がそこにはいた。薄い水色から鮮やかな青に変わるグラデーションドレスを着た彼女は空を統べる太陽の妖精かと思ったほどだ。


「あのクルーゲル卿の娘か、私がアレクセイ・オールディントンだ」


 ──これが俺とレイチェルの出会い。


 夜会で知り合った俺たちはお互いに一目で惹かれた。

 何度も逢瀬を重ね二人の気持ちはだんだんと高まっていく、そんなときだった。彼女の妹の存在がチラつくようになったのは。

 初めは視界にも入らなかった。正式な婚約の前に内々でお互いの家族を紹介したときに会ってはいたが、私の眼にはレイチェルしか写らない。彼女の両親は辛うじて見ていてもその妹になど興味はなかった。それは今も変わらない。

 ただ、一つ。

 レイチェルの前でだけ見せた(セイラ)の姿だけは、切り取られた風景のように覚えている。そして、セイラを前にした時だけ微かに変わるレイチェルの姿も。

 そこから、ほんの少しだけセイラという人間を意識した。俺が知らないレイチェルの一面を見せてくれる者として。

 多くはなかったが、何度かこの妹とレイチェル、そして俺の三人で過ごしたことがある。すると見えてくる二人の関係があった。もちろん俺の観察対象はレイチェル一人だ。セイラはおまけの付属品、もしくはちょっとしたスパイス。

 自然なようで不自然、けれども妙に違和感のない姉妹を観察するのは中々楽しかった。


 世の中には色々な形の絆があるだろう。あの二人はお互い敬遠しながらもそういった絆があったと俺は思う。女同士だからなのか、血の繋がりがあるからなのか、それとも別の何かなのか俺にはわからないけれど。

 よく似てない姉妹だと言われていた二人だが、本当は似た者姉妹だったのかもしれない。俺はセイラをレイチェルを通してでしか知らないし知るつもりもないので憶測でしかないが。──まあ知ろうとしても、彼女はここにはいないのでもう無理な話だ。


 レイチェルが行っていたことは知っていた。

 だからと言って俺はレイチェルを手放す気は毛頭ない。むしろ気丈で目的のためなら手段は選ばない、身内を切ることも厭わない非情さ冷酷さにますます惚れ込んだくらいだ。

 普段、…いや妹が関わること以外の彼女はまるで聖女の如く勤勉で公明正大、慈愛の心を持ち合わせているのに、目の前に立ちはだかる障害(いもうと)はどんなことをしてでも遠ざけ排除する。そしてそれを実際、成し遂げたのだ。

 これほど胆が据わった女を俺は王妃(ははおや)以外見たことがない。


 レイチェルは、どうやら裏工作(それ)を知られたくないようだが……俺からしてみれば、むしろそれで婚約を決めたと言っても過言ではない。だから不安になる必要などまったくないのに。

 誰しも野望や欲望を抱き、そのために自分はどうすればよいか、どうなればよいか、何をすべきなのか必ず考える。そしてその手段を選び実行する。得られるかどうかは腹積り次第だ。覚悟と言い換えても良い。

 そういう意味ではレイチェルは覚悟が足りなかったのかもしれないな。この程度で怖気ずくとは。──まあ、そんなところも愛おしく思う。足りない部分があるのなら俺が補えばいいだけのことだ。


 妹を国外追放にした無慈悲な王太子妃、なんて一部では呼ばれているようだが、たかだか伯爵家の次女の一人──結果的にレイチェルが王太子妃になったので跡取りになるのだろうがそんなことはどうにでもなる──を、まして今や王太子妃になったレイチェルに危害を加えていた者へやる慈悲はない。そもそもあいつは、それを望んでいた節があるしな。だから本来ならば国内で罰を受ける程度の罪状を敢えて大袈裟にしてやったのだから。

 もっとも俺はレイチェルの望みを叶えてやりたかっただけとも言えなくはない。




 だから俺の愛しい人、君が怯えることなどなにもない。


 俺はどんな君でも愛すると誓うよ。


 さあその顔を上げておくれ──




美しさも賤しさも、人は皆持っている。どちらかだけの人間などありはしないのだ。善も悪もまた同じ。

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