幸せな時間(上)
「それでさ、カイウ。あなたはどうしてこんなところに来たの?」
こんなところ、というのは、この町の南の隅っこの方にある、とある研究所だ。今は建物が老朽化していて、寄りつく人もいないといわれていた。
「君こそ、どうしてこんなところで歌なんか歌ってたのさ?」
「私が先に聞いてるの!」
サヨネはさっきとは打って変わり、頬を膨らませ、強気な態度で言った。
そんなサヨネに反面かわいらしいと思いながら怯えつつ、カイウは口を開いた。
「……僕はこの研究所に、父さんと母さんが連れてこられたって聞いたんだ」
「……人体実験をしていた、ってこと?」
怪訝な顔をして尋ねるサヨネに、カイウは頷く。
「ここは、もともと王たち、政府が管理していたんだ。研究の始まりは王のままごと……王の遊びだったんだ。それから王が死んで、研究が終わった。そうしたらこの研究所は使われなくなって、どんどん老いているんだ」
「何よそれ、王様の遊びで、あなたの家族は……」
「死んだよ」
簡単にその言葉を放ったカイウの瞳を――先ほどまでと何も変わらない、少し大人びた少年の瞳を、サヨネは見つめた。
「今日は、父さんたちがいなくなって二年目なんだ。命日はわからないけど、ここに花を持ってくるんだ」
カイウは笑顔を浮かべて言った。
「そしたら、君に逢ったんだよ」
優しい笑顔なのに。笑っているのに。
サヨネはカイウの表情を見て、胸が苦しくなった。
「……私は、不思議な力を持っているの」




