表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/49

幸せな時間(下)

 


「不思議な、力……?」

「変な奴って思わないで!妄想なんかじゃないの!」

 訴えかけるように、心からの叫びのように、サヨネは声を荒らげた。

「……ごめん。このこと、ずっと誰にも信じてもらえなかったから」

 逆に初めて会った、ついさっきまでの態度に戻ってしまったようなサヨネ。


 ――――急に打ち解けたと思ったら、また戻ってしまう。

 きっと、彼女があまり人と接したことがないからそうなんだろう。

 それなら、僕が彼女の心を温めてあげよう――――


「ううん。信じるよ、僕は」

「……ありがとう」

 頬を少しだけ染めて、サヨネは頷いた。

「その不思議な力っていうのは、私だけじゃなくって、絶望の淵に立たされた人が絶望から脱出するために生まれる力で……。私の場合は、戦争で兵隊に殺されそうになったときに発動したの」

「まさか、戦争って『カッシア狩り』の?」

 あたりに沈黙が訪れた。

「その白い髪に碧の瞳……。カッシア一族だよね?」

 カッシア一族とは、優れた学者の多い一族で、遺伝子的に頭が良いといわれている。そのせいで、人口のほとんどがカッシアの国『フェンネル』は他の国や一族に疎まれ、実際にカッシア一族を実験に使おうとしたのが隣国、『レウィシア』だった。

「私はあの戦争で、すべてをなくした。兵隊に髪を掴まれて、もう死んでもいいって思ったとき、頭の中で歌が流れたの」

「歌……?」

 サヨネはスウっと息と大きく吸うと、歌い始めた。

 その歌はさっき二人が歌った歌と同じだったが、何も違いは感じなかった。


 歌い終わり、サヨネはほっとしたように笑った。

「良かった……」

「何が?」

「私の不思議な力はね、人を殺したことがある人に向けて歌うと、その人は力を失うの」

「……じゃあ君は、僕が人殺しか試したわけか」

 拗ねたようにカイウが言うと、サヨネは笑った。

「念のために……ね」

「それにしても、すごい力だね。【罪人を裁く歌姫】って感じでかっこいいし」

「……そうでもないの」

「え?」

「私の力は、私が殺意を込めると発動する。殺意の量を間違えれば、相手は最悪死ぬ」

 カイウは、背筋が凍ったような気がした。

「それって、つまり」

「私は、人を殺した。奴隷商人を。……ついカッとなって、殺意の量が多くなったの」

「でも、それは……」

「理由がなんであろうと、私は人を殺した! 目に焼き付いてるの……。目の前で、人が光に包まれて、チリみたいになって、消えていくのを……」

 一筋の涙が、サヨネの頬を伝った。

「この研究室は声が反響するでしょう? だから、私は歌ったの。殺意を込めて、自分を殺そうとした。でも……」

 サヨネはまっすぐにカイウを見た。

「死ぬことはできなかった。何回も、何回も歌った。でも、何も起きなかった。そしたら、あなたが、来たっ……」

 そこまで言うと、サヨネは嗚咽をあげて泣いた。

 カイウは彼女を子供のように泣きじゃくるそっと抱き寄せた。






 ――――彼女だけには、絶対に知られてはいけない秘密があった。

 彼もまた、絶望の淵に立たされ、不思議な力を得ていたことを。

 後に、破壊する者【ブレイカー】と呼ばれる力を。――――








読んでいただき、ありがとうございます。

(上)はほとんどほのぼのだったのに、(下)はシリアスっていうか……。

説明多くてすみません。あと『殺』って字多すぎて怖いです。

書いているうちにできた設定があったり、登場人物の性格が不安定だったりと、思い立ったら即ダッシュ!!…はいけませんね。

ではでは、鬼灯コハクでした。続きをお楽しみに~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ