終われないプロローグ
「ちょっと――勇者!!」
踊り子が声を荒らげた。
僕はふり返り、怒りで赤くなった顔を見る。
「何?」
「何、じゃない! こんなところでいつまで油売ってるの!」
「だってまだ、装備が整ってないから」
準備を万全にしたいからと、僕達はまだ最初の村にいる。
国王の依頼から3日ほど。
「そうおっしゃいますがね勇者様。仲間もそれなりに集まって、武器も防具も食糧も充分かと思いますがね。あとは何が不足なのですかね」
商人も控えめに、しかしけっこうシビアに批判してくる。
魔術師は何も言わない。根が無口なのだ。
盗賊――元・盗賊か――は、買い物に飽きたらしく別行動中。
「いいじゃないか。村はこんなに平和だし。
焦らなくても、魔王は逃げたりしないから」
言うと、踊り子は爆発した。
「その代わり、着々と世界征服の段取りを進めるでしょうね!
あ――――もうっ!! なんでこんな奴が勇者やってるわけ!?」
そりゃあ任命されてしまったからだ、とは言わない。
気がついたら勇者と呼ばれていた僕に、王は、国民は、仲間達は、何を期待しているのだろう。
それに…本当は、僕は知っている。
「ほら、魔王にも準備があるってことだろう。だから大丈夫だよ」
“魔王”と呼ばれる存在。
その正体を、僕は――
「勇者殿」
と、意外なところで魔術師が口を開いた。
「手に入れたいアイテムがあるのですが」
「はぁ!?」
「ほら、魔術師もそう言ってる。行こうか、どんな道具だい?」
魔術師はちょっと呆れたような目で僕を見た。
彼は若そうな外見だが、実のところ何歳なのか、自分でも覚えていないのだという。
つまり人生経験豊富ということで…
僕の心中も、わかってくれているようだ。
「貸しです」
ぼそりと、僕の耳元で魔術師がささやいた。僕はうなずく。
それから思わず自嘲気味に笑った。
僕はできるだけ、この序章を引き延ばさなければならない。
逃げなのかもしれないけれど。
彼と争うなんて、できることなら、したくないから――
END




